#15『災いの渦を律する者』
「私は珪灰文目、そこの藪蘭の師とでも言っておくか。」
『あぁ......』
「本当なら叱る所なんだろうが、こいつは妖刀を目覚めさせやがった。だから話だけは聞いてやろうってな。よかったら君もうちの道場に寄って行くといい。茶菓子もあるぞ」
『......俺はもう少しここに残る。』
「そうか。ここに来る時に鍛冶屋あったろ。そこのおっちゃんに聞けば道場の場所は教えてくれる。そんじゃ、後でな。」
オブシディアンはへとへとの藪蘭を引きずって行く文目を横目に、神子の墓の周りを眺める。少し近付くと、何やら黒い結晶が散りばめられているのが見えた。
『これは......うっ!!』
オブシディアンが黒い結晶に触れた途端、オブシディアンの5覚が何者かに置き換わるのを感じた。
(これは......誰の記憶だ?)
この街に来た時、学び舎の前でも、同じような事が起きた。オブシディアンの前に広がる景色の中で、目の前には神子が1人。こちらには気付いていない様子で、自身の手元には、妖刀が握られていた。だがその刃は怪しく紫色の光を放ち、見ているだけでその暗闇に飲まれそうなほどだった。
神子はその刃で刺されたかに思えたが、微かに光る烏と蝶の群れに代わり、気付けば手元から刃が消え、自身の右腕が肩から無くなっていた。その時だった。
その時、オブシディアンが目の前で見た光景はとても信じられないものだった。斬られた断面からは稲妻の様に屈折を繰り返し、次々と神子を貫いていく、触手の様なものが無数に伸びていた。
『っはっ......!!』
幻覚はそこで終わり、オブシディアンは冷や汗を搔きながら元居た場所へ戻って来た。
『これは、あの神子の墓なのか......?だったら、本当に死んでるんだな。でも、それならどうしてこの街は呪われている?何故神子が生きている?』
「チッ、お前本当になんなんだ、気持ち悪い。」
オブシディアンが声のした方を向くと、灰礬が戻って来ていた。
『......』
「お前、何を見た。」
『教えると思うか?』
「教えろ。取引だ。」
『......は?』
「だから、知ってる事を教えろ。その代わりに俺の情報もやるって言ってんだ。」
『随分虫のいい話だな。だったらお前からだ。』
「チッ、逃げたら許さねぇからな。そこの社のとこ座れ。クソ長い話するからな。」
〈数年前〉
俺はあるごくありふれた.......と言っても、当時の基準での話だ。今の事は知らん。まぁ、そんな家に生まれた。父親はゴロツキ、母は機織りをしてた。渦律組ってのがあって、島の人達を護る仕事だ。
ある日まつりごとの神子が殺された。当時の俺はまだ神子の事をよく知らなかった。だから、何故みんながあんなに悲しんでたのか分からねぇ。だけど、その悲しみがやがて怒りに変わった。魔女ってのが、神子を殺したらしい。そいつは体の一部から黒い稲妻みてぇな触手が生えてて―――
『......』
まぁ、そんな情報が出回ってた時だ。街に鬼が出た、なんて情報もあったな。あっという間に、魑魅魍魎が闊歩する街になった。当然父も渦律組として、それらと戦いに行った。
それから数日たったか。民衆の中には、鬼に斬られた人が居て、切り傷から魔女の触手みたいなのが伸びて、無差別に人を襲った。母親も、それで死んだ。
恐怖や悲しみは怒りに変わり、民衆は立ち上がる決意をした。魔女狩りが始まった。
それからは、お前も聞いた事があるだろう。黒い波が来た、大災害だ。幸いこうして生きてるが、父親もその時から顔を見てない。多分、死んだ。この刀は、父親のだ。河原に落ちてた。
俺は、魔女に両親を殺されたんだ。だから、復讐してやる。ぶっ殺す。神子の仇にもなるんだ、皆も許してくれるだろう。そう思っていた。
見たんだ。神子を殺した魔女を。額に紫の炎が、角みたいに伸びてる。鬼だ。そいつの顔、泣いてた。ただ、俺が刀を向けても、微動だにしねぇ。そしたら突然、俺と神子を囲うように化け物が現れた。魔女でも鬼でもない。全身がドロドロに溶けた、人型のバケモン。あの鬼、何したと思う?俺を逃がして1人で犠牲になりやがった。クソが、俺はお前の事殺そうとしてんだぞ。
......まぁ、その後、俺は見た。何か大きな黒い影が、空に向かって飛んで行くのを。それからだ。雨が止まないのは。俺はどうしたらいいのか分からねぇ。俺はあいつを本当に殺したいのか?
「......まぁ、そういう事だ。あの鬼、お前が言ってた羽があったし、体が微かに光ってた。あいつが神子になっちまってんだ。で、話したぞ。お前は何を見た?」
『......』
オブシディアンは、幻覚の中で見たものを話した。
「クソが、話して損したわ。そんだけかよ。」
『あ?』
「まぁいい。あの空に消えてった影が、お前の捜してるもんなんだろ。1つ頼みだ。」
『聞くと思うか?』
「いちいち話の骨を折るな。お前、どうせあの影の場所分かんねぇんだろ。それに、倒すなら数居た方が楽だろ?だからまた取引だ。」
『俺になにしろと?』
「藪蘭を育てろ。強くして、俺と戦わせろ。」
『何故そこまでするんだ?』
「渦律組のメンバーに、あの妖刀持ってた奴がいる。そんであいつは、その子孫だ。使えるかもしれん。」
『......俺一人で勝てると思うんだが。』
「はぁ.......仮にそうだとして、俺にも一太刀振るわせろって言ってんだ。俺の仇だって話しただろ。」
『......考えておく。』
「あぁそりゃよかったよかった。話は終わりだ。人に弱み握られんのは嫌いだってのに、なんでお前なんかにここまで話しちまったかね。またな。」
そう言うと灰礬は、再び森の中に消えて行った。オブシディアンも神子の墓を少し見つめた後、その場を後にした。
〈後悔と願いの街?鍛冶屋前〉
鍛冶屋に戻ると、相も変わらず建物の中から金属を打つ音が聞こえて来た。
「おう、戻ったか。道場なら、そっから先の角曲がってすぐだ。すまねぇな、さすがに女性には敵わねぇ。なんかひどい目に逢わされなかったか?」
『......特に』
「それなら良かったァ。文目さん藪蘭引き摺って帰ってったけどよ、あの刀の錆び完全に取れてやがったな。お前さんがやったのかい?」
『......いや』
「そうか。不思議な事もあるもんだよなぁ。っといけね。あんたは道場に用あるんだったよな。引き留めて悪かったな。」
鍛冶屋の男が作業に戻ると、オブシディアンは道場へと向かった。
〈後悔と願いの街?渦律道場〉
道場の門をくぐり、建物の扉を叩くと、中から文目が出て来た。
「おぉ、来たな。と言うかあんた、傘も差さずに風邪引かないのか?」
『......まぁ、特には』
「ふぅん、まぁ入んな。冷えはするだろ?」
文目はオブシディアンを中に入れると、オブシディアンに布を投げ渡した。
「藪蘭は囲炉裏の傍で休んでるよ。そうだ、あんたもし戦えるなら、道場破りになってくれよ。」
『......はい?』
「なんだい、刀の錆び取れたのって、あんたと戦ってたからじゃないのかい?」
『......』
『灰礬って名前の奴が、藪蘭と真剣で勝負してた。だからあの錆びを取ったのは俺じゃないし、藪蘭がバテてたのも、灰礬と戦ってたからだ。』
「......その話、詳しく聞いてもいいかい?藪蘭からは嘘しか聞いて無いからな。」
『......』
(口裏合わせずに人を騙せる訳が無いだろ)
To be continued.




