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#14『墓守』

〈後悔と願いの街?まつりごとの社〉



道中特に会話が弾むことも無く、気まずい時間が流れ、そのまま目的地に着いた。

2人が境内に入ると、建物の外側は風化し、鍛冶屋の男性の言う通り雑草が生え散らしていた。


「すごい、初めて来ました...」


『ここの裏だったな。』


オブシディアンはまっすぐ裏庭へ向かう。少し奥へ踏み入るだけでも、小さな枝葉が邪魔で思うように進めない。オブシディアンは藪蘭が見ていないのを確認すると、指先だけ溶かし、そこから細長い刃を形成し、テキトーに振り回しながら奥へと向かった。



〈まつりごとの社、裏庭〉



オブシディアンは辺りを見渡す。風化した空間の真ん中にぽつりとお墓が建てられており、どういう訳かその墓とその周りだけはきちんと整備されていた。少し遅れて来た藪蘭も、それを不思議に思った。


『...まぁ、神子だしな。それくらいする人が居てもおかしくはない。生前関わってた人の中に人格者でもいたのだろう。』


オブシディアンが墓石に近付いた、その時だった。


風邪で草木が揺れる音、藪蘭の足音、絶えず地に降り注ぐ雨音。その他に、明らかに何かが草をかき分け地を這う音。


『......』


オブシディアンは何も言わず、右腕を刃に変えると、藪蘭に自身の口元へ人差し指を当て静止を促す。


這う音は少しずつ速度を上げる。それは木材の軋む音、砂利を踏む音へと変わって行き、オブシディアンの周りの草むらへ侵入する。


『蛇......?』


それは迂回しながらオブシディアンとの距離を近付けて行く。やがてオブシディアンの間合いに入った時、オブシディアンは即座にその草むらごと薙ぎ払った。だが、そこには何もいなかった。


「取った。」


『!?』


(しまった、あの子供が居る前で潜る訳にはいかない。ましてやこの声の主も人だろう。どうする......?)


オブシディアンは光速で思考を巡らせる。ありとあらゆる可能性を絞り、1つの決断に辿り着くと、オブシディアンは少しだけ水溜まりを前に伸ばし、左手に拳銃の様な形を形成すると、自身の真後ろへ銃口を向け、伸びた水面から棘を1発飛ばした。


「チッ」


声の主は再び草むらへ姿を隠すと、墓の前に現れた。

肘まで破れた袖、膝下まで破れた裾、額には1本の切り傷がある。髪は若干赤みを帯びており、木の葉や枝が絡まっている。


「お前ら、ここに何しに来た。」


「げっ、なんかやばいの出て来た......」


『藪蘭、下がってろ。...俺は神子に会いに来た。』


本来ならコミュ障で人と話す事もままならないが、敵対しているのであれば話は別だ。


「ほぉ?お前も俺を殺しに来たのか。やれるもんならやってみろ。人間風情が。」


『......』


オブシディアンはグラスの事を思い出す。


『お前、羽が無ければ身体が微かに光ってもいない。』


「なっ!?」


目の前の人物は、明らかに動揺するそぶりを見せる。


「てめぇ、何を知ってる!!」


『......知りたいならその武器を下ろせ。その代わり、お前の知ってる事を教えろ。』


「ハッ、やなこった!!」


『あっそ。なら俺も教えられんな。』


微かに和解の可能性が見えたように思えたが、気のせいだったようだ。


「教える気が無いならそれまでだ。殺す。」


『やってみろ。』


オブシディアンは自分たちが来た方を見る。藪蘭がどこかへ隠れたのを確認すると、両腕を刃に変えた。


「気持ち悪いもん使いやがる......。やってやるさ。俺に挑んだ事、後悔しろ。」


彼はオブシディアンへ一気に距離を詰めると、間合いに入る直前で横に回り、オブシディアンの頭目掛けて刀を突き刺す。オブシディアンは最小限の動きでそれを躱し、そのまま左の刃で薙ぎ払う彼もまたそれを躱すと、互いに高速で武器を振るい、1歩も譲らぬ攻防が始まる。


「......」


その傍ら、藪蘭は建物の陰から2人を眺める事しか出来ずに居た。


「にしてもあの刀、あんなに赤いのは見た事無い...赤い......?どこかで聞いたような......」


藪蘭が思考を始めた時だった。藪蘭が大切そうに抱えている刀が、突如として振動し始めた。


「え?あっ、ちょ!!」


藪蘭は刀の持ち手をしっかりと握り抑える。しかし、その抵抗もむなしく、突如としてその刀から、強い風圧が発生した。その風圧に流されるまま、藪蘭は刀もろとも2人の方へと真っ直ぐ跳んで行った。


『ん?』


オブシディアンが飛んで来た藪蘭を躱し、風圧を腕で受け止めると、錆びた刀は彼の持つ真っ赤な刃に衝突した。その時だった。


「なっ!?」


真っ赤な刀に触れたその刀の錆びが全てひび割れ剥がれ落ち、中から透き通る白銀色の刀が姿を現した。

彼は藪蘭との衝突でそのまま仰け反ると、少し距離を取り刀を構えなおした。


「っ......まさか生きていたとはな。金緑(かなみどり)


「なっ、どうしてお前が俺の名前を知ってる!!」


「ほぉ、って事は息子ってとこか。じゃあ納得だ。特別に名乗っといてやるよ。俺は佐久巳灰礬(さぐみかいばん)、お前ならこの姓を聞いた事があるんじゃないか?」


「え...知らないです......」


「は?」


急に流暢に話し始めた灰礬に、オブシディアンはなんだコイツと言わんばかりの目線を送る。


「まぁいい。気が変わった。お前、名前は?」


「......藪蘭。」


「そうかいそうかい。なぁ、その刀何処で手に入れた。」


「......」


藪蘭は少し考えた後、灰礬に1つ提案する。


「貴方も、オブシディアンさんも、多分、目的は同じはずです。協力しませんか?」


「何言ってんだお前。ちょっと俺を驚かせたからって調子に乗るなよ。だったら言ってみろ。ずっと俺の事変な目で見てるお前、目的は何だ。」


『...この街の呪いを解く事だ。』


「あぁそうかい。どうやって?」


オブシディアンはいくつかの憶測を立てる。そして、その1つを口にする。


『化け物になった神子を元に戻しに来た。』


「......やっぱり刃を向けて正解だったな。」


「...え?」


「不思議に思わなかったのか?何故この雨は止まないのか。この雨は彼女の涙なんだ。泣きたいんだ、泣くしかないんだよあいつは。」


「どういう事ですか」


「知りたいなら俺を負かしてみやがれ。」


『あっそ。』


2にんは武器を構える。


「おい、2対1は駄目だろ。どっちかとサシだ。」


『聞くと思うか?』


「だったら俺は帰らせてもらう。神子の事は諦めるんだな。」


『チッ......』


「俺にやらせてください。」


『......戦えるのか?』


「これでも道場のものですよ。サボってますけど。」


「ハッ、俺も舐められたもんだな。」


灰礬は再び赤い刀を構える。


「妖刀・大百足(おおむかで)の恐ろしさ、味わわせてやる。」


「臨むところです」


藪蘭は灰礬に向かって真っすぐ向かっていく。灰礬は微動だにせず、藪蘭が灰礬へ刃を振りかぶる瞬間に横へ回り、そのまま肩へ刃を突き立てるが、藪蘭はそれに反応し鍔迫り合いに持ち込む。


鎌鼬(かまいたち)との力比べか。ハッ、どっちが強いのやら。」


灰礬は藪蘭の刀を弾き距離を取る。


「基礎は出来てるみたいだな。だったら、」


灰礬は鞘からもう1振りの刀を取り出す。


「なっ、そっちこそ卑怯でしょ!!」


「ほざけ。お前もその風持て余してるクセに。ちょっとは楽しませろ。」


「風...?」


刀の錆びが取れてから、藪蘭に纏うように風が吹いている。


「よそ見してる場合かよ!」


灰礬は藪蘭の意識が自信から逸れた瞬間に藪蘭の懐に潜り込む。藪蘭はなんとか刃が当たる前に刃を防ぎ、そのまま力任せに灰礬を刀ごと吹き飛ばしてみせた。


「へッ、そうこなくっちゃあな。」


灰礬は体勢を立て直すと、今度は左右に蛇行しながら間合いを詰める。


「百足ってのは、捕食者の蛇を逆に食い殺せるらしい。お前は俺に食われる側だ」


「だったら捕食される側なりに、精一杯足掻くだけだ!!」


3つの刃が交差する。藪蘭の纏うつむじ風のおかげか、2振りの刀相手でもしっかりと食らいつけていた。


「そろそろだな......」


藪蘭は再び灰礬を吹き飛ばそうとする。だが灰礬はその場に片方の刃を突き刺し、逆に藪蘭の方を反動で飛ばしてみせた。


「なっ!?」


「同じ手が通用すると思うなよ。」


「だったら!」


藪蘭は灰礬との開いた距離を縮めようとした。その時だった。


「っ!!はぁ......はぁ......」


「だろうな。俺より背丈の小さい子供。体力に差が開くのは当然だ。」


「クソッ......」


灰礬は獲物に近付こうとする。だが、社の陰からする足音を、灰礬は聞き逃さなかった。


「チッ、良い所で......残念だったな、時間切れだ。」


灰礬は崩れた塀の方へ振り向き、その場を去ろうとする。


「待て...!まだ、決着が......」


「馬鹿言うな。俺は別に人殺しになりたい訳じゃない。それに、今のお前が呪いと対峙したところで、足元にも及ばんだろうさ。もっと強くなって出直してこい。楽しみにしといてやる。」


そう言うと灰礬は、森の中へと消えて行った。それと同時に、社の陰から1人の男が姿を現した。


「随分楽しそうだな。」


『ん?』


「あっ、」


「うちの者が世話かけたな。」


男の顔を見た藪蘭は、雨粒と疲労による発汗の他に、冷や汗で顔が濡れ、真っ青になっていた。


  To be continued.

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