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#11『隠者』

〈虚城、5階〉



翼竜は動かなくなると、全身にヒビが入り、そのまま砕け散った。だが、それだけではなかった。砕けた中から大量の液体が飛び出し、それは水源の様になって間欠泉の如く溢れ出した。オブシディアンは逃れる事が出来ず、そのまま水源の中へ飲まれて行った。


(っ......クソッ、俺の海じゃねぇ、なんだこれ!?)


だが、不思議と苦しくは無かった。最初に地上に出た時、灰に入った液体であれほどむせ返ったというのに。上下左右の間隔が無くなり、オブシディアンは真っ暗な空間へとたどり着く。

気付けば目の前に、1人の光を放つ人物。オブシディアンは手足の間隔が無いが、不思議と意思のみでそれに近付く事が出来た。その人型はオブシディアンに手を差し伸べる。オブシディアンは手を取る意思を見せると、辺りは光に包まれて行った。光に飲まれる直前の彼は、どこか切ない表情を浮かべていた。



〈虚城、4階〉



「っ!?なんだ!?」


建物が散り埃を舞いながら揺れる。


「この感じ...崩れる。」


「えぇ!?どうするんですか!!」


「仕方ない、飛び降りよう。」


「いやいや無理ですって!僕は貴方たち程頑丈じゃないんですよ!!」


「まぁまぁ、」


そう言いながらローズはカーネリアンを割れた窓の隅に追いやる。


「まぁまぁじゃないんですよ!!本当に死んじゃいますって!!」


「これも特訓だよ!それじゃあ、行って来い!!!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


カーネリアンはローズに蹴り飛ばされ、地上まで真っ逆さまに落ちて行った。幸いガントレットのおかげで容易く受け身を取れ、地面には軽くヒビが入った。「なにするんですか!!!!」と言わんばかりに、カーネリアンは2人に向かって手を振る。ローズはカーネリアンに、サムズアップを送った。


「さてと、終わったみたいだね。」


「あぁ。どうやら上も、何とかなったみたいだね。」


2人は向かい合った後、街にあふれる灯火を一望する。


「この街の人達は、こんなに暖かかったんだな。」


「あぁ......私達もやっと、彼らの仲間になれたって事かな。」


「ハハッ、さぁ、帰ろうか。私達の街に。」


2人は顔を見合わせ頷くと、窓の外へと飛び降りた。アザミは建物の壁を走りながら落下の速度を弱め、ローズは堂々と大剣を振りかぶり、地面との衝撃を相殺し着地した。


「ナイス着地だったよ、カーネリアン。」


「全く......次やる時は、もうちょっと段階を踏んでくださいね。」


「勿論だとも。そういえば、何か忘れてるような......?」


その時だった。3人の背後で轟音が響き、虚城の瓦礫は雨となり降り注ぐ。そんな中、天高くに光るモノが1つ。


「グラス!!!!」


ローズの叫びと共にアザミは飛び出し、まだ液状化していない瓦礫を踏み台にして、素早くグラスの下へ跳んで行く。


「カーネリアン、私達は落ちて来る2人を受け止めよう。」


「はい!って、今度はあの高さから落ちて来るのを受け止めるんですか!?」


「俺達に任せろ!!」


2人の背後から声がする。振り返ると、彼らが救った群衆たちが居た。


「そうか!!よし!!皆!!クッションになるものを集めて来てくれ!!」


「「おう!!!!」」



〈虚城跡、上空〉



「あと少し......」


グラスはどうやら意識が無いようだ。仰向けの体制で、尚も地面へと落ちて行く。


「うっ!?」


アザミは瓦礫を踏み違え、落下しそうになったが、何とかその下にあった瓦礫を踏み台にし復帰する。なんとか瓦礫の雨の中からアザミはグラスを抱える事に成功する。


「よしっ......おかえり、グラス。さてと、」


アザミは真下を見る。落下する2人の真下には、既に大量の毛布やクッションが敷かれていた。


「ありがとう、皆。」


2人は無事にその布の山に着地し、その場は歓声で満たされた。


「ナイスキャッチだったな!嬢ちゃん!」

「ローズの友達?美人さんじゃない!」

「あの子......どこかで......?」


ローズは周りの人達を見渡した後ほほえみ、アザミに歩み寄る。


「どうする?もう影には居られないみたいだけど」


「フッ、どの道今回の事に首突っ込んだ時点で、こうなるのは必然だろうさ。」


「じゃあ、構わないんだね。」


「あぁ。私も、君と一緒に歩むって決めたからね。」


ローズはアザミの頭を撫で、大衆へ口を開く。


「この子はアザミ、私の大事な友達だ。仲良くしてやってくれ!」



『......っ!ペドラ!!』


皆が歓喜の声を轟かせる中、グラスが勢いよく目覚め身体を起こす。大衆は静まり返り、そばに居た2人も首をかしげる。


「ペドラって?」


『あっ......いや、なんでも無い。忘れてくれ。』


「ねぇ皆、周りを見て?」


民達は皆、周りを見渡す。先程まで同じような街並みが広がっていた景色が、だんだんと本来の色を取り戻していった。


「よかった、ちゃんと全部元に戻ったんだね。」


「ねぇローズ、オブシディアンは?」


「え?」


ローズが再び見渡す。街の景色が元通りになると同時に、路地裏の影から探し人は出て来た。


「ちゃんと居るね。」


『......』


オブシディアンは髪が乱れ、片目が隠れていた。だが、3人はそんなこと気にも留めない。


「ありがとう、この街を救ってくれて。君は紛う事無き英雄だよ。」


『......別に、大した事はしていない。』


「まぁまぁ、素直に喜んでいいんだよ?あ、そうだ。君はこの後どうするんだい?」


『......』


「宛が無いなら、この街に留まっても構わないよ。私達はいつでも歓迎するから。」


『......』


オブシディアンは頷くと、180度振り返り、その場を後にした。オブシディアンの後ろからは、3人の別れの声が聞こえてきた。恐らく手を振っていたんだろうが、オブシディアンにはそれを知る由も無かった。



〈刻動の街、郊外〉



街の人は先程の騒動があった場に集結しており、ここはまだ人の子1人居やしない。そんな通りを、オブシディアンは1人歩く。


『—――おい。』


突然後ろから声がする。どうせ幻聴だと、オブシディアンは無視して進む。だが、声は実在する人物のもので、声の主はあっさりオブシディアンの前に立ちふさがる。


『...なぁお前、私の事覚えてるか?』


『......?』


オブシディアンは首をかしげる。当然だ。生まれたばかりの彼にとって、神子を知らない彼にとって、目の前の人物とは初対面なのだから。

オブシディアンは表情1つ変えない彼女を横目に、隣を通り過ぎようとした。


『待て。感謝くらいさせろ。お前はこの街の、そして......私を救—――!?』


目の前の人物、グラスは、オブシディアンの顔を見るなり目を見開く。


『.......?』


『なぁお前......鏡見たか?』


『......何の話だ?』


グラスは背中に背負ってる剣を片方抜き、その側面を鏡のようにしてオブシディアンに見せる。そこに映るオブシディアンの、髪で隠れた瞳の中には、化け物の文様があった。


『......』


『まさか......お前......』


『...誤解だ。俺はあの化け物と同族じゃない。』


『って事は後天的なものなんだな。』


グラスは顎に手を当て考える。しばらくの沈黙の後、口を開く。


『街に降りかかった呪いは......お前に移ったんだな』


『......あぁ。』



〈数分前〉



水源に溺れ、光に包まれた後、オブシディアンは自身の水底に居た。


(......)


オブシディアンは目を覚ますと、水面へ浮上する。地上はすっかり元の景色に戻っており、先程までの騒動が嘘の様。オブシディアンが上半身を浮かべると、水面に映った自分の顔を目にする。


(!?)


(お前の居場所は何処にもない。お前はずっと独りぼっちだ。)



『......私は、1人の神子として、お前と言う脅威をここから排除しないといけない。』


『気負うな。俺は自分が分からん。知ろうとする気も無い。もし俺が敵なら、だからといってその立場による理不尽な扱いに打ちひしがれることも無い。とはいえ、やる事が無いのは退屈だがな。』


『そうか―――』


オブシディアンは言い終えると、その場を去ろうとした。


『もし、』


グラスが呼び止める。


『もし、お前が犠牲になるとして、その呪いを背負って死ぬつもりなら、頼みがある。』


オブシディアンは文様の浮かんだ眼でグラスの方を見る。グラスは後ろを向いており、表情は分からない。


『なんだ?』


『私以外の神子も、私と同じ呪いに侵されている。助けてやってくれないか?』


『どこに居る?』


『お前が居た街から西に行け。お前の区画の神子が私の張ったこの結界にヒビ入れてる。お前も、その力で入り込んだんだろう。その先に1人。後はその先を北に行け。そこにもう1人居る。』


『.......嫌だと言ったら?』


『フッ、だったらこの島は終わりだな。白髪の民の歴史はここまでだ。』


『......どの道誰かがやらなきゃいけないって訳か。』


『頼んだぞ。』


オブシディアンは前を向く。片手をグラスに振ると、そのままその場を去った。


『......必要な犠牲......あいつは、死ぬ為に生まれて来たのか......?』


グラスは小さく呟くと時計塔の方へと跳んで行った。


  To be continued.

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