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#10『灯火行進曲』

オブシディアンが刃を向けると、翼竜も翼を大きく広げ、臨戦態勢を取った。


『...行くぞ。』


息を吸い、1歩踏み出して、両者一斉に間合いを詰める。翼竜は前足を上げ、オブシディアンをその鋭い爪で裂こうとする。オブシディアンは腹から下を沈めそれを避け、そのまま腹部を真っ直ぐ裂く。


『っ...やっぱり駄目か。まるで手ごたえが無い。』


裂いた傷口は断面から溶け、そのまま塞がり再生した。オブシディアンが後ろ脚の間をすり抜け背後に回ると、翼竜は尻尾でピンポイントにオブシディアンの頭を貫く。オブシディアンは全身を溶かし、その場には液体が飛び散る。

それによって出来た水溜まりは分裂し、翼竜を囲うとその中から多数の棘が飛び出し、翼竜を滅多刺しにする。


『これで終わってくれたら助かるんだがなァ!!』


オブシディアンはもがく翼竜の顎下から飛び出し、そのまま頭部を貫こうとした。しかし、飛散した翼竜の溶けた液体が硬化し、オブシディアンへ向かって真っすぐ飛んでくる。


『お前もそれ使えるのかよ!?まぁ、この程度でお前がくたばるなんざ思ってないさ』


オブシディアンは硬化し槍の様になった体液を、翼竜から距離を取りながら回避する。翼竜がオブシディアンの拘束を解くと、オブシディアンは翼竜の周りを走り出す。


『傷が癒えるなら、これはどうだ!』


翼竜は真っ直ぐオブシディアンを追う軌道はさながら黄金比を描くかの様で、だんだんとオブシディアンとの距離を近付けていく。


『あぁそうだ。どうやらお前の本質は野生動物とほとんど同じようだな。特に肉食、獲物を狩る為に真っ直ぐ自分の武器を向けて来る。動物と違う事と言ったら、お前は道具を使うってところかァ?』


そうこう言ってる内に翼竜はオブシディアンを間合いに入れ、鋭い爪を再び振りかざす。


『そうしてくれるのを待ってたんだよ!!』


オブシディアンは爪を正面から躱すと、懐に潜り、今度はその足を根元から切断してみせた。

翼竜はバランスを崩しその場に倒れかけるが、翼を広げ、足を必要としない空中へと舞い上がる。


『くっ......ミスったな、翼の切断が先だったか...』


翼竜はホバリングしながら体勢を立て直すと、その断面から漏れた液体が少しずつ硬化していく。


『おいおい...冗談だろ。』


オブシディアンは咄嗟に切断した前足から距離を取る。予想は当たり、前足は独りでに自立しオブシディアンを追い始めた。また、その断面からは液体が飛散し、それらも硬化しオブシディアンへまっすぐ飛んでいく。


『こいつめちゃくちゃすぎるだろ!!不死身の吸血鬼かなんかかよ!!』


オブシディアンは再び水溜まりへ潜る。


(あいつを地上に落とすには......このまま飛び上がるか?それは駄目だ。外す可能性がある。それに水面は波打ってて地上の様子が分かんねぇ。落ちつけ。時間はあるはず―――)


そう思った時だった。今まで何も無かったオブシディアンだけが存在するこの海に突如、あの翼竜の体液が飛んで来た。幸いオブシディアンには当たらず、水の抵抗ですぐに失速したが、それは海の中に残り続けた。


『あいつ本当にめちゃくちゃだな......そうだ、こいつ使えるんじゃないか?』


オブシディアンは飛び込んできた塊を水流を造り操作する。オブシディアンの海に飛び込んだ塊は持ち主を見失ったのか、オブシディアンにされるがままだ。


『よし、やってみるか。』


オブシディアンは水中から半身を外に出すと、さながらイルカショーのインストラクターの如く、地上を走るよりも素早い速度で移動し始めた。


『これでもくらえ!!』


オブシディアンは半身浸かった水溜まりを拡張すると、自分の周りから翼竜の翼の根元へと真っ直ぐ針を飛ばす。翼竜は空中でよろめいたが、すぐに傷が再生し、オブシディアンが飛ばした針はすっぽ抜け水溜まりへと戻って行った。


『さすがに小さ過ぎたか。だったら!!』


オブシディアンは先程よりも大きな棘の塊を、翼竜の翼へと飛ばす。翼竜の翼には大きな穴が開き、再生する間も無く完全にバランスを崩し地に落ちた。


『今だっ!!』


オブシディアンは再び水溜まりに潜り、それを分裂させる。くるくると回りながら、水溜まりは翼竜の周りを囲うと、それら1つ1つから、オブシディアンが飛び出した。だがそれらは全て濁った海の色そのもので、一目で偽物だとわかる。オブシディアンの分身は一斉に翼竜へと飛び掛かるが、翼の傷口から無造作に飛び出す大量の体液に、全て倒されてしまう。

翼竜が分身達に意識を移し、体を起こしたたその瞬間—――


『はあっ!!!』


オブシディアンは片腕に大きな槍を形成し飛び出すと、翼竜の頭部の真上に来る。だが、翼竜の切断した足が、空中で無防備になったオブシディアンの身体を引き裂いた。


『そいつも偽物だ。』


声の主は翼竜の背中に居た。翼は既に再生し切っており、体液は飛ばせない。暴れ振り払おうにも羽ばたく隙も無い。翼竜はオブシディアンを攻撃する手段を失い、オブシディアンは形成した大きな刃で翼竜の頭を貫いた。


翼竜は声にならない雄たけびを上げると、そのまま光を失い溶けて消えて行った。



〈虚城、4階〉



「「はぁぁぁぁぁあっ!!!!」」


ローズとアザミは、相変わらずの剛力と技量で、化け物を圧倒していく。だがそれと同時に、水源から立て続けに化け物は現れる。


「こいつらどんだけ出て来るんだ?」


「分からない。だが、分断されたオブシディアン君の負担を減らすためだ。やるしかないだろう。」


「闇雲に走るにしたって、最後に飯食ったのいつだ。さすがに飲まず食わずで持久戦はきついぞ...」


(2人の力は僕もよく知ってる。だけど、このままじゃ......一体どうしたら―――そうだ、)


カーネリアンは天井から漏れ出る水源を見つめながら、何かを閃く。


(オブシディアンさんが中庭を燃やした時、寄って来た化け物達の動きが鈍くなっていたような?)


カーネリアンは最後の蝋燭に火を灯すと、ランタンに入れ、高くかざす。


「化け物!!こっちを見ろ!!!!」


「なっ、カーネリアン何して......ん?」


カーネリアンの挑発に視線を移した化け物達は、次々と動きを止め、ランタンに灯る日をじっと見つめる。


「これは......」


「オブシディアンさんが中庭を燃やして煙を上げていた時に、化け物達がたくさん襲って来たんです。ですが化け物達は激しく燃える火を見た途端に、動きが鈍くなっていました。」


「......カーネリアン、その火を貸してくれるか?」


ローズはそう言いながら、身に纏っていた深紅のマントを脱ぎ、大剣に巻き付けると、カーネリアンに向ける。


「点けてくれ。」


「えっでもいいんですか?貴方が騎士である証ですよ?」


「元より身分や権力などに興味は無い。私は、君達と一緒に居られればそれで良いんだから。だから、」


「...分かりました。では、これを」


カーネリアンはランタンから蝋燭を取り出すと、マントで包んだ大剣に火を点けた。


「出来ればそのガントレットで、窓を割ってくれないか。酸欠になっては元も子もないからな。」


「...!!はい!」


「なるべく派手にね。あの灯達に、この光が届くように。アザミ、言いたい事は分かるね。」


「もちろん。君は表、私は影から、この街を護るんだ。さて、どう刻んでやろうか。」


3人は一斉に飛び出し、ローズは反旗を翻すかの如く、その炎の剣を天に掲げた。


「私達の街を、取り戻すぞ!!!!」


「あぁ!!」

「はい!!!!」



〈正義と悪の街?、〉



「おい!こっちにもたくさんいるぞ!!」

「こっちもだ!!誰か手伝ってくれ!!」

「おい!こっちに人が倒れてるぞ!!誰か担架持ってこい!!」


街は群衆の連携と共に、見る見るうちにその光を拡大していく。また、街の様々な所で見つかる意識のない人々も、群衆の拠点とする建物に運ばれ、その人々も少しずつ目を覚ましていく。


「どうやら、俺の感は当たったみたいだな。あの化け物を倒す度、眠ってる奴らに意識が戻っていく。つまり、この眠ってる奴らはあの化け物に魂を抜き取られたってとこだな。さてと、取られたんなら取り返さねぇとな。お前らァ!!あと少しの辛抱だァ!!俺らの街を取り戻すぞォ!!!!」


「「「オォォォォォォォ!!!!」」」


「あいつ、普段は仕事サボってばっかのクセに随分調子が良いみたいだな」


「まぁ、良いんじゃないですか?こういう状況で、ありがたい存在は、なんだかんだあの人みたいな人です。さて、私達も行きましょうか。」


「そうだな。今日くらいはあいつの英雄ごっこに付き合ってやるか」


普段は赤の他人でも、今、この場においては志を1つにする仲間だ。彼らの灯火は衰える事を知らず。あっという間に街全体を覆い尽くした。


「っと、この辺のはコイツで最後だな。」


「お母さん!!」

「よかった......私達、乗り越えたのね!!」


「へっ、感動の再開か、泣かせるじゃねぇか。」


「おい、あれ見てみろ!!!」


1人の指差す方向へ、一斉に視線を向ける。


「あの城の上の方、光ってないか!!?」


「まさか、ローズ!あんたなのかい!?」


「ローズ!!何してるのかは知らんが、俺らはこうして全力で生きてる!!お前も死ぬんじゃねぇぞ!!」


「ローズ!あんたはこの街の英雄になるんだ!!!!」



〈虚城、4階〉



「見てください!!街が光で溢れてます!!」


「何故かは知らんが、うまく行ってるみたいだな。だったら!!」


ローズは掲げた大剣を、化け物の群れへと向ける。


「アザミ、」


「よし、」


2人は背中合わせに1方向へと構える。


「最後の仕上げだ!!」


「「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」」


刹那、2人は水源へ向かい一閃を放つ。水源は炎により硬化し、化け物も動きを止めると、木端微塵に砕け散った。


  To be continued.

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