#9『魔女裁判』
〈正義と悪の街? ???〉
「っ!?うわあああああああ!!!!」
「...うっさいなぁ、こっちは頭痛いんだってのに......ってあれ?なんで俺ここに居るんだ?」
「本当に変な夢...ってかなんだったのよ......」
「奇遇だな、俺も変な夢を見たんだ。」
家の中、路地裏、化け物の存在を知らない人々が、次々と目を覚ましていく。だが、中にはまだ眠りから目覚めない人もおり、民衆は戸惑いを見せていた。
「なぁ、どんな夢見たんだ?」
「俺は...なんというか、本当に変だったんだ、見慣れない街の中を...こう、宛も無く彷徨ってて...
そしたら、急に近くの建物の中が明るく照らされたんだ。気になって中まで入っていったら、その明かりは凄く大きな炎だった。おれはそのまま炎を眺めてたら、突然目の前から何か刃物が飛んできて...それで目が覚めた。お前はどんな夢を見たんだ?」
「お前......なんで俺の見た夢の事知ってるんだ?」
「え?」
「奇遇ね、私も同じ夢を見たわ」
2人の会話に混ざるように、横から女性が話しかけて来た。「奇遇」と言う者は連鎖し、その場にいる全員がほとんど同じ夢を見たという。だが、夢はまだ終わってはいないようだった。
「おい!!お前ら逃げろ!!!化け物が居るぞ!!!!」
路地裏の外から声がした。1人が声のした方へ駆け寄ると、そこには全身が液体の様になった人型の何かが居た。
「なぁ......あれ......」
「だから化け物だって言ってるだろ見てわからないのか!!さっさと逃げろ!!!!」
「知ってる.....」
「はぁ?」
「夢に出て来たんだ......炎を見つめてぼーっとしてた......」
「なぁ...それって......」
「おい!!」
男は声のした方を振り向くと、声の主が投擲したであろう火の点いた松明がすぐ目の前にあった。
「うおっ!?テメェ!何しやがる!!」
男は何とか火傷を負わず、それをキャッチする事に成功する。
「それをそいつの顔面に当ててみろ!!」
「あぁ?あぁ、焼き討ちって事か?それで俺が怪我したら、リカバリーはしてくれんだろうな!!」
男はそう言いながら化け物の顔の文様に火を当てる。少し触れただけでその炎は化け物の全身を覆い、化け物は動かなくなると、そのまま澄んだ水溜まりへと変わっていった。
「こいつは!?」
「お前らも松明を持て!!女子供は松明持ってる奴らと固まれ!!なんだかよく分からんがやるぞ!!!!」
「「「おうっ!!!!」」」
街は突如目覚め、文明の始まりを見つけると共に、その光を取り戻していく。目覚めなかった人々も次々と目覚めて行き、ある者はベッドの下、ある者はクローゼットの中から飛び出し、灯りを持つ群衆の中に混ざっていく。街はその一角から月明かりよりも眩しく輝き始めた。
〈虚城、4階〉
道中、これと言って何かあった訳でもなく、一行はあっさりと最上階手前まで来ていた。
「ぜェ......ハァ......なにも無かったのは良いのか悪いのか置いといて、ちょっと広すぎやしませんか?」
「まぁ、確かに私もずっと歩いてばかりで退屈している所だ。だが、」
アザミは正面に見える空いた大きな扉を指差す。扉の奥には、いかにもな階段が伸びていた。
「あそこから上がれば最上階だ。多分、グラスもそこに......」
「ねぇ、アザミ、それより......」
ローズは大きな扉のある部屋を見渡す。その場所はどういう訳か、見覚えがあった。
「ここ、あの翼竜と戦った時の場所と同じだ。」
「なっ!?何故ここに...」
2人が動揺していた時だった。開いていた扉が独りでに閉じ始めた。それを見たカーネリアンは、咄嗟に駆け出し叫ぶ。
「皆走って!!」
「急ぐ必要は無いんじゃないか?最悪私達2人が壊してしまえば―――」
「よく見てください!!あの扉!!僕の機械より遥かに硬い素材で出来ています!!!!」
『.....』
(これ、俺が隙間から入れるんじゃ......)
3人と一緒に扉へ走るオブシディアン。カーネリアンにもまだ全身を溶かした所を見せておらず、腕の変形は神子石の道具と言う事で片付けられていたが、全身はさすがに弁解のしようが無い。
『ん?まさか......』
オブシディアンはその扉を見て、ある結論へと至る。
『あの扉、隙間が無い』
「なんだって!?それじゃあ挟まれたらひとたまりも―――」
「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
ローズとアザミが目にも留まらぬ速さで飛び出す。2人は扉へ辿り着くと、扉の両側を強引に抑えようとした。幸い閉じるまでに多少の時間稼ぎは出来たが、オブシディアンとカーネリアンがそこに着くまでに、人が入れるだけの隙間が確保できる保証はない。
「2人共!!急いで!!!!」
『くっ、仕方ねぇか。』
オブシディアンは扉に着くその瞬間、扉の隙間は人が入るには少し狭い位に閉じかけていた。オブシディアンはその隙間を抜ける瞬間、その一瞬だけ全身を溶かし、オブシディアンただ1人だけ、その奥へ入る事に成功した。
轟音と共に扉は閉じられた。ローズとアザミが色々試したが、扉はびくともしなかった。
「そうだ、扉の横の壁を......」
「そうか!なんで思いつかなかったんだ!」
「2人共脳筋過ぎるでしょ......しかし困りましたね...オブシディアンさんだけ分断されてしまいました...」
「あぁ。とりあえず、試してみていいかい?」
「まぁ......変に怪我しないでくださいよ?」
ローズは壁から距離を取り、助走をつけて、正面から剣をぶつけた。確かに壁は壊れたが、その向こう側に、扉と同じ材質の壁が現れる。
「くっ、仕方ないか。」
「ん?あれは......」
カーネリアンが窓の外を見る。街は変わらず同じような建物がずっと広がっている。だが、その一角。群衆の光が、虚城の方からもよく見えた。
「目を覚ましている!?どうして...でもよかった、これで―――」
安堵したのも束の間、気付けば部屋の天井からドロドロとした液体が漏れ、それにより発生した水溜まりの中から、次々と化け物が顔を出していた。
「出来ればどうにかしてオブシディアンの方に行きたいが、そうもいかないみたいだね。ローズ、行ける?」
「あぁ。」
2人は武器を構える。
「僕も戦います!」
「カーネリアン、君は自分の身を護る事に徹してくれ。」
「でも!僕だって」
「君の気持ちはよく分かる。だが、衝動に身を任せ、闇雲に突き進めばどうなるか。すまないが今は、分かってくれ。」
「......はい。」
「全部片付いたら、ローズと稽古つけてやるから。」
「!約束ですよ!」
「あぁ!!」
〈虚城、5階〉
3人と分断されたオブシディアンは、目の前の階段を駆け上がる。頂上は見えど、そこは親指の爪と大差ない大きさだった。
『......泳ぐか。』
オブシディアンは全身を溶かし水溜まりに潜る。だが階段の坂は激流流れる川の如く豹変し、オブシディアンは流されてしまう前になんとか外に出た。
『クソッ...まだこれにも分からんことが多いな。』
(......たい...)
『あん?』
(会いたい......)
(どこに居るの......?)
『......幻聴じゃ無さそうだな。』
(貴方は......違う......)
声は階段の上から?いや、オブシディアンのすぐ近く、至る所から木霊する。
(彼女はもう居ない)
(彼女は貴方の身代わりに―――)
『...彼女ってのは、加賀知カイヤの事か?』
(彼女は魔女だ)
(彼女は―――魔女—――)
『魔女とはなんだ』
(私は魔—――方も―――)
階段を上がるにつれ、声が聞き取りにくくなっていく。だがそれと同時に、違う声が聞こえ始める。
(お前の居場所はここには無い。)
『だから居場所とはなんだ。そんなに大事なものなのか?』
(お前はずっと一人ぼっちだ。お前は誰にも愛されない。)
『人と話すのは苦手だ。心を覗かれてる気分になって気味が悪い。』
(お前は嘘を付けない正直者だ。愚かで無垢な旅人だ。)
(お前はずっと独りぼっちだ。お前はずっと独りぼっちだ。)
『さっきからなんなんだ。いい加減鬱陶しくなる。消えろ。』
(楽しみにしておく。)
そう言うと声は最初から無かったかの如く消え去り、階段の終わりがすぐそこまで来ていた。
オブシディアンは残りの階段を駆け上がり、最上階へと辿り着く。
『......こいつが......神子?グラスって呼ばれてたな。』
オブシディアンは目の前の存在を凝視する。視界を覆うほど曲がった大きな角、胴体の倍はある翼膜に、4本の巨大な足と、強靭な尻尾を持った光を放つそれは、まるでオブシディアンが来るのを知っていたかのように、オブシディアンが上がって来た階段から、オブシディアンの方ををずっと見ていた。
『......お前、意思疎通は出来るのか?』
『—――』
目の前の翼竜は、オブシディアンを見つめじっとしている。ただ訴えかけるように、オブシディアンへ眼差しを送る。
『......あぁ、そうかい。その方が助かるよ。会話は苦手なもんでね。』
オブシディアンは片腕を刃に変えると、翼竜へと向けた。
To be continued.




