Prologue
※注意※
この物語は、[愛の形、心の形]の続編となります。
あらかじめそちらを読了した上で呼んで頂くことを推奨します。
〈理性と本能の街、上空〉
ルチルがライラと結界の向こうへと向かい、ついに1年の時が経過した。ライラはすぐに帰還したが、ルチルは一向に戻る気配がない。時の神子の区画同様ヤグルマの力で連絡を図ったが、ヤグルマの力の及ばない位置に居るようで、連絡を取る事が出来なくなっていた。
『………駄目ですね…。生存しているのは確認できたのですが、それも半年前が最後…。彼なら大丈夫だと思ったのですが………』
ヤグルマはこの街のどの建物からも届かない程高い場所で街を見下ろしながら、ルチルの帰還を待ち続けていた。
『……ですが、今はそんな心配をしている場合ではなさそうですね。』
気が付けばヤグルマは、多数の翼竜に囲まれていた。
『ここは空域。判断を誤りましたね。』
ヤグルマがその場から目にも留まらぬ速さで上昇すると、それに続く形で次々と翼竜がヤグルマを追う。それらは各々が意思を持っているようには見えず、まるで何かに操られているか、モノとしてヤグルマに向かわされているようにも見えた。
ヤグルマは空中で大きく旋回し、翼竜を誘導する。翼竜は変わった軌道を描く事はなく、ただ真っ直ぐにヤグルマの方へと向かっていく。
『追尾式のミサイルと言ったところですか。ならば…!』
ヤグルマはその場で急停止すると、そのまま真下へと急降下した。地面付近まで来た時、その擦れ擦れを飛行しながら、乗り物や障害物の少ない通りを抜ける。だが、それでも翼竜は目標を見失うことはなく、ヤグルマの進む道の通りに真っ直ぐ追いかけて来る。
『キリが無いですね……1体ずつ片そうと思ったのですが。こうなったら……!』
ヤグルマは再び元居た上空へと真っ直ぐ昇ると、ある地点で停止しおもむろに杖を構える。翼竜はヤグルマへ近付くと、そのまま付近を通過しヤグルマの上で次々旋回し、再びヤグルマを囲う。
『そうしてくれるのを待ってたんですよ!』
ヤグルマは杖を上に構えると、そこから凄まじい光を放ち、翼竜が皆光に包まれる頃には、そこにはヤグルマを脅かす脅威など消えてなくなっていた。
『……ふぅ、ざっとこんなものでしょうか。にしても……』
ヤグルマは杖をしまい、再び街を見下ろす。
『.....私を狙ったという事は、もう滅ぼす手立ては整ってるとでも言うのでしょうか...?だとしたら、しばらくは私も表立って動くのはやめた方がよさそうですね。』
そう言うとヤグルマは、どこかへ姿を消した。
〈生物研究所、カイヤの研究室〉
「……そろそろ出てくるだろうねぇ。」
カイヤの研究室にはカプセルが3台並べられ、その内の2つには、カイヤの造った人造人間が誕生の時を待ち眠りについていた。既に輪郭は完成しており、後は完成を待つのみとなっていた。
「もう、ルチルにさみしい思いはさせたくないんだ。頑丈に作ってやらないと。」
カイヤは研究レポートに人造人間の状態を記録する。少しした辺りで、室内にノックの音が響く。
「誰だい?この辺には立ち入り禁止だと言ってあるはずだけど。」
「カイヤさん!貴方が今何してるか自分で分かってるんですか!!」
「何って、愛する我が子の為に友達を造ってあげてるのさ。」
「……カイヤさん?あまり言いたくないですが、貴方の息子は数年前にこの世を去ったじゃないですか。」
「何を言っているんだい?ルチルなら生きてるよ。私の父さんの所でピンピンしてる。最近会えてやれてないのが少し残念だがねぇ。」
「は……?あんたまさか!!!!???」
扉の前で焦燥に駆られた研究員は、扉に向かって怒鳴りつける体力も無く、ただ自身がここにいる理由を前に、呆れるしか無かった。
「そんな人だとは思いませんでしたよ。」
「人は何かの犠牲なしでは何も得られないそうだが、私は今全てを手に入れてるんだ。それに、さっきから何が君をそんなに焚き付けてるんだい?」
「はぁ……もういいです。」
その研究員は扉の前で立ち尽くした後、足音1つ立てずに自身の担当する場へ戻って行った。
「全く……あまり私の子供達の前で大きな声を出さないでくれよ。彼らの身体に何か不備が起きたら大変じゃないか。」
カイヤはそう言うと、カプセルに向かい、手元の紙に全てを記録する。その時だった。
「!?……っ……がはっ……!!!!」
カイヤの胸部を、黒い何かが貫いた。カイヤは何か言葉を発そうとしたが、口から溢れるのは多量の血液と断末魔のみだった。カイヤはその場で倒れうずくまると、そのまま動かなくなった。彼女は突然の出来事に、我が子の顔を見つめる事も出来なかった。カイヤだったものの前に、1人の影が立つ。
『これで満足なのか?鳥籠の番人は……。フッ……ハハハ…………ハハハハハハ!!!!もし俺が貴様に恩義を感じていると思ったら、それは大きな間違いだ。』
それはカイヤの骸を見つめる。カイヤの表情は固まっており、安らかにも見えた。
『……自分の愛したものの前で死ねたんだ、本望だろ。』
それは辺りを見渡した後、カプセルの中を見つめる。暫くした後、カイヤの骸を抱え上げ、液体のみが入ったカプセルの中に投げ入れた。
『これが、貴様が俺にしようとした事なんだろう?これでお愛顧という訳だ。』
それはその場を去ろうとした。だが、突如として室内にノックが響く。
「おい!あんた!今度は何しやがった!これ以上私を失望させないでくれ!!」
『………』
扉越しに研究員の声が木霊する。
『…………』
「くそっ…!5秒数えて返事がしなかったら入るからな!!」
研究員はその場で5秒数えたが、あるのは静寂のみだった。
「数えたからな!!私はもう知らんぞ!!」
研究員は扉の横の端末にカードキーをかざす。確かに扉は開いた。だが、想定していた開き方とは違う開き方をした。それが彼の最後に見たものとなった。
研究所中に警報が鳴り響く。だが、研究員達は一向に研究所から出て来ない。駆けつけた消防や警察の人々が中へ入ったが、皆研究所から出て来る事は無かった。そのまま数日の時が過ぎ、研究所とその近辺は立ち入り禁止区域となった。
〈理性と本能の街、ペグマタイトタワー〉
「来てくれて感謝する。」
「……俺に何の用で?」
この街のどの建物よりも高い建物。その最上階にある大広間。エレベーターで昇った先にあるこの場所には、デスクが1つと客人をもてなす机とそれを囲むソファーが置いてあり、広々とした空間を持て余しているようにも見える。
「まぁ座り給え。ゆっくり説明する。彼に茶を注いでやってくれ。」
エリナの横に立つ秘書は、エリナの指示に無言で応え、瞬きする間に暁の前には茶が用意された。
「少し話が重くなるから、茶菓子でもつまみながらリラックスして話そう。」
そう言い終える頃には、2人の間にある机の真ん中に、小さな籠にいっぱいのお菓子が用意された。
「……あんたの秘書……優秀なんだな……」
「雇ったのは最近なんだが、やたらと成長が早くてな。私も驚いているよ。」
エリナは籠に入ったお菓子を少し手に取り、1つずつ口へ運ぶ。暁はそれを見ながら、何かに気づく。
(…ここにあるお菓子……俺がエリナとの初対面で出した茶菓子ばっかりじゃねぇか……そんなに気に入ったのか……?)
「……少しは和んでくれたかい?ほら、君も好きなのを取ると良い。」
「いや、大丈夫だ、……と言うより、そんな気分じゃなくてな………。」
「……」
エリナはお菓子を摘む手を止め、寝転がっていた姿勢を直す。
「すまないな……気の利いたことでも言えたらよかったんだが………。」
「………」
2人の間に、少しの間沈黙の時間が流れる。
「……人との関係を築き上げたり、そいつに悩みを打ち明けて欲しい時は、まず互いを知るところからだ。ほんの些細なことでも良い。それこそ食べ物でも、何でも。その何気ない会話の中で、互いの警戒を解き、肩の力を抜いて話せる時がやってくる。大事なのは偏見や憶測で物事を断定したり、事を急く様な事をしないことだ。だから、俺も無理にあんたに腹を割らせるような事はしねぇ。これは俺が精神科医の知人に世話になったときに学んだ事だ。」
「……!」
エリナは暁の一言に安堵する。
「ゆっくりで良い。別に俺はあんたを恨んじゃいねぇんだ。そんで、用があるんだろ?」
「………あぁ、君が良ければで良いんだが、協力して欲しい事がある。」
〈加賀知生物研究所跡〉
名前にそぐわず、生命の気配一つ無いこの場所で、未だ動き続ける機械が1つ。唯一照らされている3つのカプセルには、生命と呼んでいいのか分からないものが3つ浮かぶ。2つは脈動し、生き物としての特徴を完璧に再現している。もう1つは、他のカプセルと違い、赤黒く染まり、中身は視認できなかった。
静寂の中、ガラスの割れる音が響く。
そこには生命と呼んでいいのか、この世に存在していいものなのか、ただそれは、確実にそこに居た。自立が難しいのか、形が不安定だからか、その場でうねり回る。その様子は何処か溺れているようにも見えた。
暫くすると、それは段々と原型を失い、1つの水溜りになった。水溜りの波が止み、辺りに再び静寂が訪れる。その静寂を切り裂く様に、その水溜りの中から、人影が姿を現した。
「……………」
彼は血濡れた身体を引き摺りながら、研究室の外へ出るのだった………
To be continued
今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。
私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。
一生涯を賭けこの作品を完成させる意気込みですのでどうか応援の程宜しくお願い致します。
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それでは、また。