表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集え、三英傑の探偵団  作者: aoi
緑色のホトトギス編
8/11

エピローグ “再会”


 エピローグ


 清音は息子を送り出し、家事をひと通り済ませた後、ソファに腰を下ろしてカップに入った紅茶を飲んでいた。


 半分ほど飲み終えた頃、インターホンが鳴った。清音は立ち上がりモニターを見ると、1人の女性が立っていた。


 清音は唾液を飲み込んだ。右手を左手で包み込む様にして玄関へゆっくりと歩いた。


 ドアを開けると、25年前に亡くなったはずの親友が立っていた。あの時の大人しい雰囲気から垢抜けた大人の女性になっていた。


「静……」


「清音、話があるの」


「入って。立ち話もなんだから」清音は精一杯の笑顔を作った。


「うん」静の表情が陰る。


 静をリビングへ案内すると、ソファに座るように勧めた。低いテーブルに置いてある飲みかけの紅茶を見て清音が言った。


「ごめん、さっきまで飲んでて」


「大丈夫。長居はしないから」


 清音は、新しく淹れた紅茶を静の前に置いた。静は1人掛けのソファに座り、清音は長い3人掛けの方に腰を下ろした。


「ごめん、静、わたし──」


「まさか、丹羽くんのお母さんが清音だったとはね」


 話を遮られてしまった清音は、「うん」としか言えなかった。膝の上で軽く握っていた手が少し震えていたので、両手を組んだ。


「なんで?なんであの時、死んだなんて」


 清音が投げかけた疑問に静は、穏やかな表情をしていた。


「あの時わたし、イジメられてたでしょ?家族に全部話をしたらすぐに引っ越しをしようって言ってくれてね。おかげで地獄を抜け出せた。


 死んだことにしたのは、せめてもの仕返し。殺した罪悪感を背負わせたかった。先生に無理を言って協力をお願いしたの」


 静の仕返しは成功を収めている。清音は静が去った後のクラスが崩壊する過程を見ていた。


「わたしに黙っていたのはなぜ?」


「それは本当にごめんなさい。手紙とか、連絡すればよかったわね。でもね、完全に死んだことにしたかったの。消えたかった。あの高校から跡形もなくね」


「そう……」


 清音は飲みかけの紅茶のカップを見つめた。


 静を見かけたのはひと月程前、息子の桧を高校に車で送ったときの事だった。清音は目を疑った。25年前に亡くなった静が生きている。笑顔で生徒たちに挨拶をしている。


 似ているただの人違いだと最初は思っていた。だがこの日から清音の中には静のことで頭がいっぱいになった。直接会う決心がつかなかった清音は桧を使った。


 2人の共通する思い出を言って、何も反応がなかったら人違い。もしも静だったら謝りたかった。もっとあの時、寄り添えていたらと、清音は長い間後悔していた。


「正直わたし、最初に“緑色のホトトギス”って見たときに何も思い出せなかったのよ。でも担任してるある男の子がね、思い出させてくれたの。イジメられていた頃なんて思い出したくないもの。最初は混乱したわ」


 静は、昔を懐かしむような微笑みを浮かべながら言った。


「辛いことを思い出させてごめんなさい。あの時、助けになれなくてごめんなさい」


 清音は深々と頭を下げた。目のまわりが熱くなるのを感じる。


「清音、頭を上げて」


 清音は恐る恐る頭を上げた。


「謝らなきゃいけないのはわたしのほう。ずっと辛い思いをさせてごめんなさい。清音の気持ちも考えないで。わたし、清音にありがとうって言えてなかった。あの時、ずっと、ずっと助けてくれてたのに」


 静の目には光るものがあった。声も話すにつれ次第に上ずっていた。


 清音はソファから腰を浮かせ、静に近づきそっと抱き寄せた。静も応えるように清音の背中に腕をまわした。


 静はありがとう、と言い続けた。清音も涙を流しながら「生きていてくれてありがとう」と言った。


 外ではホトトギスたちが庭の木に止まり、夏を告げようと何度も鳴いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ