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集え、三英傑の探偵団  作者: aoi
緑色のホトトギス編
6/11

ep.6 葵姫花のお出掛け


 6


 週末はとても良い天気で、気温も丁度いい絶好の散歩日和。ですが、今日わたしたちは図書館に向かおうとしています。


 休日に外で友人と会うなんて何年ぶりでしょうか。


 去年は受験でそれどころではなく、覚えているのは、2年前の夏休みに家にいたくなくて、図書館に行った時に偶然会った同級生の美乃里さん。元気にしているでしょうか。


「姫花ちゃーん」茉莉が走って来ました。シャツにカーディガン、白いロングスカートを履いていました。


「茉莉」わたしは小さく手を振ります。


「待った?」


「いえ。わたしも来たばかりです」


 嘘です。朝から会うのが楽しみすぎて、1時間も早く着いてしまいました。


 駅で待ち合わせていたわたしたちは、図書館を目指します。持っていた日傘を開くと、隣で歩いていた茉莉は驚いた顔をしていました。


「なんです?」


「いや、お嬢様みたいだなって思って」


「ああ。わたし、日に焼けるとすぐに赤くなってしまうんです」


「大変だね」


「だからいつも松平に車で送迎してもらってるんです」


「松平……さんって誰?」


「わたし専属の運転手をしてくれている人です」


 白髪はくはつで笑顔になると目が線になって、とても優しい男性なんですよ。


「はぁ……」


「行きましょう」


 この話をして引かれてしまうことをすっかり忘れていました。友人と話すのが楽しみすぎて、舞い上がってしまいました。


 図書館は駅の北口を出て、大きな紅葉の木を左に曲がり、坂を降りた右手にあります。


「あるかな?新聞記事」


「あると思います。県内でもここは大きい方なので」


 意を決してわたしたちは図書館に入りました。大きな2階建ての建物で、2階は学習室と奥に会議室があって学習室でよく勉強をしていました。目的の新聞記事は1階の奥にあります。


 要件は、出来るだけ過去を遡り、この地域で起きた殺人事件を調べること。通っている学校の名前が出ていれば尚良し。


 わたしは1階の受付に行き、図書館のカードを出しました。


「すみません。過去の新聞記事を見たいのですが。パソコンで見ることは可能ですか?」


「出来ますよ」受付の女性が優しい笑みを浮かべて言いました。「そちらのパソコンを使って頂ければ」


 受付の女性が手で指した方向を見ると、パソコンが6台並んでいました。ちょうど児童図書コーナーの隣でした。


「ありがとうございます」


 わたしたちは受付の女性にお礼を言って、椅子に腰を下ろしました。隣のパソコンは使われていなかったのでそこには茉莉が座り、パソコンはわたしが操作します。


 新聞記事と書いてあるところにカーソルを持っていきクリックすると、過去3年分の記事がデータベースで保管してあります、と書いてありました。


「3年か……あるかな」茉莉が心配そうに画面を見つめました。


「とりあえず、探してみましょう」


 全国紙で取り扱われる殺人事件は、凶悪なものばかり。それも他の県で起きたものでした。


「これ、覚えてる」隣にいる茉莉が画面を指差しました。


 記事の内容は、「連続郵便テロ事件」2年前に起きた、手紙に仕込まれた毒を吸った中学生4人が亡くなった事件。


「これはとても怖かったです。解決するまで手紙が届く度にビクビクしてました」


「わたしも。本当に怖かった。解決したのって確か──」


「同じ学校の男子生徒です。わたし、この中学校に通ってたんです」


「嘘?凄い騒ぎだったでしょ?」


「はい。凄かったです」


 解決に導いた彼はとても悲しい顔をしていましたが。警察からの感謝状も受け取ることもしなかった。


 わたしはマウスを操作し、地元の新聞記事を見ることにしました。この地域で起きた過去3年間の殺人事件は、連続郵便テロ事件のみでした。


「3年分のデータじゃ足りないね」


「うーん……」わたしは目を閉じて、今まで得た情報を整理します。あの3年5組の隣にあった空き教室の噂はどこから来たのでしょう?


「知っている人から聞くしかありません」


「いるの?そんな人」


「卒業生に会えばいいんです。当時の話を聞くんです」


「いつ起きたのか分からないんだよ?一体どうやって」


「ここは地元の図書館です。週末で多くの人が来館しています。この中に事件のことを知っている先輩がいるかもしれません」


「いるかな……」


 わたしと茉莉は、辺りを見回しました。雑誌コーナーにあるソファで優雅にゴルフ雑誌を読む年配の男性や児童書コーナーに行く母親と5歳位の女の子。ここから見えるだけで数十名の利用者がいました。


 2人で話しかけやすい人物を選び、聞き込みをしました。バディものの警察の様に。


 正午を過ぎた頃、有力な情報を得られました。40歳を超えた、優しそうな男性でした。休日だというのに髪は整えられていて、どこかの企業の社長の様に見えます。


「殺人事件?」男性は考え込んだ表情で腕を組みました。


「ありませんでしたか?」わたしが聞きました。


「うーん」


 3分程の沈黙が続きました。わたしたちは、男性の返答を息を呑んで待っていました。


「あっ。僕が2年生の時に1つ上の先輩が亡くなったっていうのは聞いたことがある。でもお嬢さんたちが言うような、殺人事件は聞いたことないな」


「そうですか。分かりました。ありがとうございます」わたしは笑顔を作ってお辞儀しました。


「あともう一つだけ、すみません」


「なんだい?」男性は穏やかに言いました。


「年齢をお聞きしてもよろしいですか?」


「今年で42になるよ」


「そうですか。貴重なお時間いただき、ありがとうございました」


 男性と別れた後、茉莉と一緒に図書館の中にある休憩スペースに向かいました。


「なんで年齢を聞いたの?」


「その亡くなったという事件が何年前に起きたのか知っておきたかったんです」


「今年で42歳だから……」茉莉は、宙を見て計算を始めました。


「男性が高校2年生、つまり17歳の時に起きた事件なので、今から25年前に起きた事件だということが分かります」


「でも起きた事件は殺人事件じゃない」


「亡くなったというだけでした」


「もしかして……」茉莉はそれ以上、口に出しませんでしたがわたしたちは薄々勘づいていました。


 話を聞いた男性は、殺人事件や事件と言わずに亡くなったと言った。つまり、自ら命を絶ったのではないか。


「今日はもう終わりにしよう?」


 同感です。自ら命を絶った事件の真相を知ったとしても後味の悪い終わり方をするだけ。


「はい」


 わたしと茉莉は一緒に図書館を後にしました。

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