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集え、三英傑の探偵団  作者: aoi
緑色のホトトギス編
5/11

ep.5 25年前の悲劇


 5


 現在より約25年も前のこと──。


 清音には静という名の親友がいた。


 静と初めて出会ったのは、美術部の体験入部の時だった。大人しめな性格で、彼女はいつも1人で絵を書いていた。


「なに書いてるの?」清音は静の隣の席に着いて、絵を覗き込んだ。


「え?」静は慌てた様子で書いていた絵を両手で隠した。


 その日、清音はそれ以上静に話しかけることはしなかった。いきなり踏み込みすぎて相手を驚かせてしまったと思ったからである。


 隣から見えた静の絵はとても綺麗だった。鉛筆画で繊細に描かれていた名前も知らない鳥の絵。


 次の日も静は部活動で鳥の絵を書いていた。警戒されているだろうと思った清音は、静の斜め向かいに座った。6人掛けの木の机で他には誰も座っておらず、2人だけだった。


「昨日は驚かせてごめんね」清音はヒソヒソと言った。


 静は描いていた手を止めて、清音を見た。無視されると思ったが、静は消え入りそうな声で言った。


「わたしの方こそごめん」


 言葉が返ってくるのが嬉しかった清音は、小さな疑問を静にぶつけた。


「その鳥、なんていうの?」


「……ホトトギス」


「へぇ、そうなんだ。絵、上手だね」


 静はうつ向いてしまった。だが一瞬見せた彼女の恥ずかしそうな顔を見て、照れているのだなと思った清音は笑みを浮かべた。


 この日から、徐々に静と交わす言葉が増えていった。清音はなるべく踏み込みすぎないよう、優しく静に話しかけた。静から話しかけることはなかったが、清音の問いに静は笑顔で答えてくれることが多くなった。


 ある日、清音は決心した。これは賭けのようなものだ。だが静と友達になりたい、距離を縮めたいと思った。


「静って呼んでいい?」


 静は驚いた表情を見せた。少しの間を開けて清音を見た。


「いいよ。わたしも呼んでいい?……きよね」


「うん、いいよ」


 静は新しいオモチャをプレゼントされた子供のような、喜びいっぱいの表情になった。

 

 それからは週末にも会って遊んだり、一緒に公園で絵を描いたりした。


 静は絵を描くことだけではなく、絵の歴史も詳しかった。清音にはカタカナだらけで何を言っているのかわからなかったが、嬉しそうに好きなことを話す静を見ていると自分も嬉しくなった。


 静とは3年生になって初めて同じクラスになった。これまでは放課後の部活動や休日でしか会うことはなかった。清音はクラスと部活動で交友関係が違っていたのである。


 朝、教室に入ると静がいる。清音にとって不思議な感覚だった。


「おはよう、静」清音は後ろから近づいて、席に着いていた静に話しかけた。


 彼女は微笑むだけで返事をしなかった。


「どうしたの?」


 静は気まずそうな表情を浮かべ、うつ向いてしまった。


 交友関係が違っていたのは、静も同じのようであると清音が気付くのにさほど時間はかからなかった。

 

 クラスで静がどうであろうと清音には関係ない。放課後になれば部活動がある。いつしか部活動が、2人にとってかけがえのない時間になっていた。


 美術室は他の教室と違って黒板が大きかった。よくそこに2人で絵を描いては携帯で写真を撮ったりしていた。


 ある日、清音と静は早めに来て、大きい黒板に絵を描いていた。のびのびと描くのがとても楽しかった。


「すごいね、静。今にも飛び立ちそうな……」


 静が描いたのは鳥の絵。あの日のホトトギス。白いチョークだけで表現された鳥の表情はどこか遠くを見ていて、悲しそうに見えた。


「わたし、いじめられているの」


「静……」突然の告白に清音は掛ける言葉を探していた。どれも無責任な言葉たち。共感しても、励ましても全部うすっぺらに感じる。


「でも、1年生の時に清音に会えてよかった。教室で辛くても、放課後になれば清音がいてくれるから」


「そうだよ。教室の中だけがすべてじゃない。こうやって2人で楽しくさ──」


「3年生になったら部活動、引退しなくちゃいけないでしょ?そうしたらもう、わたしどうしたら」


 静はその場で泣き崩れてしまった。居場所が奪われてしまうと思ったのだろう。


 教室で静は幽霊のような扱いを受けていた。無視である。クラスのリーダー格が無視をすれば、弱い者たちは右へ倣い無視をする。自分が標的にならないための防衛手段だった。


 1学期の終わりに静は亡くなった。担任の先生からの知らせに3年6組の生徒たちは深い悲しみに包まれた。


 いじめていたリーダー格は逆にいじめを受けるようになった。その様子を清音はなんて醜い人たちと遠くから見ていた。


 亡くなった知らせを受けた次の日、清音は静の家に訪ねると、彼女の家はすでに引き払われていた。娘を亡くすきっかけを作った人間たちが住んでいる町から一刻も早く出たいと思ったのかもしれない。


 葬儀で一目会って謝りたかったが、家族が別の場所に行ってしまった。葬儀の場所を聞く手立てがない。場所は担任の教師にも知らされていなかった。


 清音の心の中にポッカリと開いた穴は、25年後に思わぬ形で更に広がることになる。


 

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