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集え、三英傑の探偵団  作者: aoi
緑色のホトトギス編
3/11

ep.3 丹羽桧


 3


 俺はまだ、丹羽桧(にわかい)という男をよく知らない。


 彼は、高校に入学して始めて出来た友人で、友人になったきっかけが『名前いじり』という共通点。


 木瓜をボケといじられ、丹羽はにわかい!と関西風のツッコミを受ける。


 そこから仲良くなるきっかけになるのか、タチの悪いいじりに変わりクラスから浮いた存在になるのか。本当にいじりというのは、どう転ぶかでその後の運命を大きく変えてしまう。


 丹羽は前者の方だった。クラスに1人はいる、いじられ役のムードメーカー的な立ち位置に彼はなっていた。


 俺はといえば……思い出したくもない嫌な思い出が甦ってくる。いじられるのは嫌だ。だから俺は丹羽のことをにわかい、とイジったことはない。


 昨日の放課後、松浦先生に頼まれた“緑色のホトトギス”について、聞き出すタイミングは、授業で答案用紙が返ってきたとき。何点取ったんだよ、と言いながらさりげなく近づき“緑色のホトトギス”と書かれた解答を見つけて、書いた意図を聞く。


 先生の言ったそれとなく、とは程遠いかもしれないが、友人だからこそ出来る作戦なのではないかと思う。


 今日はちょうど世界史の授業がある。採点を終えた答案が返されるだろう。予鈴が鳴る。


 生徒たちが席に着くと、ほどなくして松浦先生が入ってきた。教科書と何枚も重なった紙を持っている。おそらく答案用紙だ。


 挨拶をして席に着くと、「それじゃ、テスト返していきます。呼ばれたら前に来て」と松浦先生が言った。気のせいか先生と目が合った気がした。


 名前が呼ばれて答案用紙を受け取りに行った生徒たちは各々リアクションをとりながら席に戻っていく。葵さんは表情1つ変えずに席に戻っていった。


 この前の数学の小テストで100点を取ったときと同じ表情に見える。取れて当たり前、当然といったところだろうか。


 丹羽は苦虫を噛み潰したような顔だった。悪かったのだろう。彼はちいさく溜め息をつきながら席に着いた。


 俺の名前が呼ばれ、答案用紙を受け取ると、松浦先生は俺を見て小さく頷いた。先生もこのタイミングを狙っていたのだろう。俺はあえて反応せず、答案用紙を受け取って席に戻った。


 帰る途中に丹羽が「何点取ったんだ?」と俺の腕を掴んだ。俺は無言で点数を見せると彼は大きく目を見開いた。取った点が意外だったのだろう。何度も答案用紙と俺を交互に見た。本当に失礼な奴だ。


 全員のテストを返し終えると、先生は口を開いた。


「はい、今回の平均点は62点でした。よくなかった人は期末で取り返してね。よかった人も分からなかったところちゃんと見直しておくように」


 ちなみに、と先生は続けた。


「最高点は葵姫花さんの100点、次点は木瓜湊斗さんの97点」


 納得だ。葵さんの知識量は計り知れない。だが今は点数のことなどどうでもいいのだ。丹羽から“緑色のホトトギス”について聞き出さなくては。


 授業が終わり、俺は丹羽の席の方へ行った。


「丹羽は何点取ったんだ?」俺はさりげなく答案用紙を覗きながら言った。


「イヤミか?」


「えっ?」少し時が止まったような気がした。


「いいよな。良い点取れるやつは。俺なんか赤点だぞ」


 タイミングが悪すぎた。ていうか松浦先生、人選が悪すぎる。


「さっき、チラッと見えたんだが、緑色のってなんだ?そんなこと答える問題なかったと思うんだが」


 無理矢理だ。本当は見えなかったが仕方がない。


「ああ」丹羽は折ろうとしていた答案用紙を開いた。「緑色のホトトギス……だろ?」


「そうだ。なんでそんなこと書いたんだ?」


「書けって言われて……」


 次の瞬間、丹羽は慌てた顔で俺の方を見た。


「誰にも言うなって言われてるんだよ。だからこれ以上聞かないでくれ。頼む」


「わかった」


 これ以上の深追いは禁物だ。やっと出来た友人を質問責めで失いたくない。


「絶対だぞ」と丹羽は念押しした。その表情は、何か怖いものに脅されていて怯えているように見える。


「わかった、これ以上聞かない」


 書けと言われた……か。



 昼休憩になると、俺は隣にある2組の教室に向かった。隣のクラスにいる友人に用があったのだ。


 生徒たちは何人かのグループを作って昼食を食べている中、彼は1人で黙々と読書をしながら食事をしている。


「飯食うのか本読むのかどっちかにしろよ」


 友人は後ろから来た俺に驚きもせず振り向くと、笑みを浮かべた。


「やぁ、湊斗くん。元気にしてたかい?」


 その変な話し方を何とかしてくれるか、と言おうと思ったが、友人はいつもこんな調子なのだ。


「頼まれてほしいことがあるんだが。いいか?」


「挨拶もなしか。つれないな」


 友人─桐紫月─は、ポケットからハンカチを取り出し口許を拭いた。


「引き受けてくれるってことか?」


「内容によるな」


 紫月はハンカチをポケットにしまい、読んでいた本を閉じた。どうやら引き受けてくれるようだ。


「いきなりだが、お前、弓道部だよな?」


「そうだとも。的を射るのはとても──」紫月は誇らしげに答えた。


「弓道部になにかしらの違和感がないか調べてほしいんだが」


「違和感?」紫月の目付きが鋭くなる。


「例えば、人間関係……とか」


 紫月は左手を顎の方へ持っていき、目を瞑った。少し経った頃、目を開き俺の方を見た。


「わかった、引き受けよう」


「すまんな。礼は弾む」


「まだ成果は出してない。気が早いぞ」


「とにかく頼んだ」 


「そういえば、湊斗くん」紫月は思い出したように言った。「先日の放課後、体育館裏で姫花さんと一緒にいたのを見たんだが──」


「それか……それは」


「君が言ったんたぞ。彼女には近づかないって」

 

 わかってるよ、そんなこと。

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