表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集え、三英傑の探偵団  作者: aoi
緑色のホトトギス編
2/11

ep.2 学校の黒い噂

 

 2


 昔、この高校で殺人事件が起きたらしい、という噂を小出茉莉は、最近新しくできたお店を紹介するような口調で言いました。


 だから一緒に行ってみようよ、と彼女は言うのです。


 この提案にわたしは、教室内に響くような声で驚いてしまいました。視線がわたしに集中した途端、頬のあたりが熱くなりました。


「すみません」


 わたしは何度も多方面に謝りました。木瓜くんと目が合いましたが、彼はすぐに目を逸らし、友人と話をしていました。


「もう大丈夫だと思うよ」


 茉莉はわたしの肩に手を置いて言いました。


「はい」わたしは呼吸を整えます。「どこで殺人事件が起きたんですか?」


「案内するよ」


 茉莉は通学バックを肩にかけて、教室を出ていきました。わたしは彼女の後についていくように教室を後にしました。


 茉莉は以前、わたしが落とした“小説の創作ノート”を拾ってくれた恩人です。誰にも見せられない小説の案を彼女は嘲笑うことなく受け入れてくれました。


 これまでに会った人の中でわたしの書いている創作ノートを笑わなかったのは彼女で3人目。2人目はお母さん、そして最初の人が小さな男の子。


 小学生の時、創作ノートを取られてからかわれていた時に助けてくれた男の子。顔のあたりが黒く塗られていてどうしても思い出せません。


「着いたよ」


 考え事をしている内に着いてしまいました。西側の階段を降りて、4階から2階にひとっ飛び。


 着いたのは、硬く閉じられた教室。陽が当たっていないせいか、影ができて薄暗い。


「中には入れないんですか?」


「前に入ろうと思って、鍵を借りようとしたら先生がそこの鍵は貸し出せないって断られて」


「それはいつの事ですか?」


「先週だよ」


 だとすると、普段からこの教室は閉じられていて、生徒では入れないということ。次に聞くことは、


「殺人事件がここで起きたというのは確かですか?」


 茉莉を信じていないわけではありません。ですが、情報の信憑性を確かめればなりません。


「うーん、どうだろ。部活動の先輩から聞いた話だから……でも確かだって言ってた」


「なるほど」


 わたしは教室のドアにある窓ガラスから室内を見渡します。普段、わたしたちが使っている教室と同じ構造で黒板や教壇も見える。奥は黒いカーテンと電気が点いていないせいで見えずらくなっていました。


「その殺人事件の話、詳しく聞かせてくれませんか?」


「今から何十年も前の話なんだけどね。ここで男子生徒が女子生徒を殺害したっていう話。学校側が事件を隠ぺいするために教室には誰も近づけさせないように閉めたらしいの」


「生徒がここの鍵を借りられない理由がその事件に関わっていると」


「そういうこと……らしい」


 借りられないという理由だけで出来た噂にしては、飛んだ話に聞こえる。茉莉が聞いたと言っている先輩のところに行って聞いてもいいですが、それは彼女のことを信頼していないということになる。それはダメです。


 本当にここで事件があったのか、確かめる手立ては過去の新聞記事を見るしかありません。週末にでも図書館に行ってみることにしましょう。


「今日は、この辺で帰りますか。殺人事件なら新聞記事になっているはずです。週末、一緒に図書館に行きませんか?」


「うん、行こう」茉莉は言いました。「変だよね。ここの真上の3階と4階は普通に教室で開放してあるのになんでここだけ閉めきってるんだろう」


 たしか、真上の3階と4階は検定試験やこの前行われた数学の補修に使われていた。ここだけ閉められているのは確かにおかしい。


「ねぇ、こっち見てくる人がいるんだけど」


 わたしは茉莉の視線の先を見ました。すると、東側の職員室から木瓜くんが立っていました。先程、校内放送で松浦先生に呼ばれて職員室に行っていたので、用が終わって出てきたのでしょう。


「木瓜くん……」


「あの人なに考えてるか分からないからちょっと怖い」


「そんなことありませんよ」わたしは茉莉の方を見て言いました。


「そう?1人でボソボソ言ってるときあるし、目付き悪いし」


「話すと普通ですよ」わたしは笑顔で答えました。


 木瓜くんとは高校に入学して初対面のはずなのにどこか……うまく言葉では言い表せない違和感のようなものがあって。再び職員室の方を見ると彼はいなくなっていました。


「もしかして、姫花ちゃんって木瓜くんみたいなのがタイプなの?」


「まさか、そんな」わたしは手を振って否定します。


 ふーん、と茉莉は疑いの眼差しを向けますが、これ以上強く否定すると彼女の中の疑惑が大きくなる一方なので、話題を変えることにします。


「先程の茉莉の言葉で少し確かめてみたいことがあるんですけどいいですか?」


「うん、良いけど」


 わたしは3階と4階にある真上の教室を見に行きました。思った通り、机が少ない。検定や補修なら机の数は多くなくてもいい。再び2階に戻り、空き教室内を凝視します。微かにですが奥には積み上がった机に脚立のようなものが置いてありました。


 そして空き教室の隣は3年5組の教室。間違いない。


「茉莉、わかりました。この教室の正体」わたしは言いました。「ここは倉庫です」


「倉庫?どういうこと?」


「かつてこの高校は1学年に6クラスあったんです。少子化に伴い、募集定員を1クラス分減らした。残った机や椅子をしまう場所が必要だった。それがここです」


「なるほど。でも、なんで殺人事件があったっていう噂がたったの?」


「おそらく、生徒が入れないという状況が作った話ではないかと。念のため、週末に図書館に行ってそのような事件がないかどうか確かめますが」


「そうしよう。そうすればハッキリするもんね」


「はい」


「この事件の真相が分かれば、姫花ちゃんの書いている推理小説の役に立つかも」


「茉莉……ありがとう」



 良い友達が出来ました。茉莉は部活動に行くね、と言って1階に降りていきました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ