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70話 終わりよければいとエモし

前回までのあらすじ


 アラクネと魔族による大規模な襲撃は痛み分けに終わった。後始末をする中でノブリス以外の裏切り者やイソーの長を務める2人の過去が明らかになっていく。

 以心電心を実用レベルまで引き上げ、クレイヴモスの寄生体除去に成功したことである程度の自由を許されたエイジャーはある行動を開始するが…

ここは会議から数日が過ぎた刑務所の尋問室…陽光がほとんど届かない、コンクリート覆われた無機質な廊下にわざとらしい靴音が響く。

 古びた椅子に縛り付けられている男─襲撃事件の首謀者ロウンは部屋の前で止まった足音に視線を上げると、そこに映る見覚えある姿に眉をひそめた。

 

「…ブラヒムのクソ野郎と戦っていたガキか。傭兵でもない奴がなぜ俺と面会できる」


「あいつらは実力主義だからな。オレを無碍にはできねえんだろ」


 部屋に入ってきた青年─アルジードは心底不快そうに答えると、向かいの椅子へ乱暴に座った。

 組織への忠誠心に揺さぶりをかけ内通者を炙り出したアルジード。決して小さくない功績で能力を示した彼には、特別に首謀者への尋問権が与えられることとなったのである。


「…あいつらはどこまで吐いた」


「今ごろ傭兵どもが盗まれたもんの奪還と…出し抜かれた分の"お礼"をしてる頃だろうな」


 避難先のアジトが特定された─部隊の壊滅を察し苦い表情を浮かべるロウンに対し、アルジードは冷ややかな視線を崩さないまま続ける。


「『俺達は期待されていると思ったから一番槍を引き受けた、兄弟を囮で死んだバカにしたあんたを許さねえ』…最初に吐いた奴からの苦情だよ。盗賊の分際で死に方にケチつけるなんざいい躾してやがる」


「ボボルの野郎か…あの兄弟は物覚えはいいが火事場泥棒をやらせるには騒がしい。最適な配置をくれてやったのに寝返りやがって」


「んなこと知らねえよ。オレが聞きてぇのはもっと上…ボージャンについてだ。アイツは今どこにいる」


 ボージャン…かつて両親を殺害し家を焼き払った仇にして、アラクネの頂点に立つという男。防衛戦の際耳にした会話─いつからかボージャンが姿を見せなくなったという言葉の真偽を確かめるために、アルジードはここへやってきたのだ。


「ここ数年は大幹部ですら見ていないと聞く。だがもたらされる情報はどれも正確だ。案外お前たちのすぐ近くに…待て、そもそもなぜボージャンさんが上だと知っている?そう簡単に掴める情報じゃねえはずだ」


「質問で返すんじゃねえよボケナス。その大幹部はどこにいる」


 自身の推察に対して怒りと、わずかな焦りを滲ませるアルジードに悪趣味な興味を掻き立てられたロウンは知る限りのエピソードを記憶から掘り起こす。そしてあることを思い出し、不敵な笑みを浮かべながら披露した。


「むかし押し入った家でガキを取り逃がしたことがある、完璧な盗みを邪魔されたのはあれが最初で最後…酔ったボージャンさんが吐く有名な愚痴だ。まさかお前がそのガキか?」


「ッ余計なこと抜かしてんじゃねえ!」


 アルジードは湧き上がった怒りのままに、渾身の力で無防備な頭を蹴り上げる。対するロウンは椅子ごと吹き飛ばされたにも関わらず苦痛に悶える様子はなく、むしろ愉快そうな笑みを浮かべていた。


「ククッ…ハハハハッ!そうか仇討ちか!さては例の盗賊狩りもお前だな!?面白え、特別にヒントを教えてやるよ。大幹部のひとりはお前じゃまず見つけられねぇ。もっと人生経験を積むことだな」


「それはテメェの頭をカチ割ることも含まれてんのか?」


 アルジードは胸ぐらを掴んで椅子ごと引き起こす。彼がその気になればいつでも命を取られる状況下に置かれてもなお、ロウンの目には好奇の光が宿っていた。


「カッカしてるうちは見つからねえって話だよ。まずは今までの殺しを懺悔でもしに行ってみたらどうだ?憐れんだ神からの思し召しがあるかもしれないぜ。どっちに転ぶか見ものだがな。ハハハハ…!」


 怒れるアルジードを煽るロウンの掠れた笑い声は、無機質な部屋に響き渡るのであった…


───────────────


「エイジャー君、この女性は臓器の内部に寄生されているようだ…まだ小さいがどうする?」


「手術だとより深く刃を入れることになる…深い傷が残るのは嫌でしょう。俺がやります」


 未だ大襲撃の傷跡が残る技術都市イソー。不調を訴える者が押し寄せる診療所にて、クレイヴモスがもたらした寄生体に対処する2人の姿があった。

 アインから信用に足る人物であるとお墨付きをもらったエイジャーはレプター族を招集。寄生体の位置特定と記録を彼らに任せつつ、手術負担が大きいと判断した者は以心電心で取り除く体制をとっている。


 幸いにも住民たちの進行は遅く未だ死亡者は出ていない。それでもたったひとりで複雑な術を酷使し続けるエイジャーの負担が大きい事には変わりなく、一通りの診察を終えて裏へ戻ると糸が切れた人形のようにソファへなだれ込むのであった。


「今日は深部まで寄生された者が多かったな…我々もその、いぺるぶ?というものを使えればいいのだが」

  

 逆立つ鱗に覆われた、ヘビのような姿の男がエイジャーの顔に温タオルを乗せる。彼の名はヒバァ…やむを得ずアラクネに協力していたところを助け出されたレプター族のひとりである。

 寄生体の探知を任されたレプター族の長として指示を飛ばす彼もまた疲労の色が見えており、向かいのソファにもたれかかると深いため息をついた。 


「現状でも十分ありがたいですよ…脅威判定までやっていたら時間が足りませんから」


「ようやく与えられた償いの機会だ、遠慮はいらないぞ。…それにしてもこの街で見る道具たちは面白いな。遠方の者と繋ぐ通信機といい、君たちは顔の見えない相手と取るコミュニケーションを大事にするようだ」


 ヒバァが言及している道具とは増振器…剥き出しのマザラ石板へ吹き込んだ音を増幅・広範囲へ拡散させる魔道具のことである。

 長であるアインは増振器を用いてとある町内放送をかけた。エイジャーとレプター族が未知の症状に対抗する手段を持っている、私の名にかけて身元を保証するから診察を受けてほしい、と。


「呼びかけひとつで動いた時は驚いたが…それだけ街の人々から信頼されているのだろうな。そんな男の信頼を勝ち取った君も見事だ」


「そんな大層なものじゃありませんよ。ここは技術を尊ぶ街…利害が一致したというだけだと思います」


 エイジャーは苦笑いで否定する。新たに発覚した内通者への取り調べは順調とのことだが、ノブリスの処罰については耳に入っていないし、面会も未だ叶っていない。

 自分を除いた騎士団への監視も続いており、アインから信頼されただけですべてが丸く収まるわけではないことはよく分かっていた。


「どちらにせよ俺たちがやる事は変わりません。皆さんの力、もうしばらく頼らせていただきます」


「望むところだ。…と言いたいが今日は切り上げよう。喫緊の患者はみな対処したようだし、彼女のことも心配だろう」


 エイジャーは顔にかかったタオルをくしゃっと握りつぶす。


 戦いが終わってから今日までの間、エイジャーはルルと話ができていない。魔力を使いすぎたのか薬の副作用か、彼女は1日のほとんどを睡眠に充てるようになってしまったからである。  

 ガラナ曰く受け答えもはっきりしているし、寝顔も安らかなのだが…普通とは言い難い症状に、エイジャーも気が気でない日々を過ごしてきた。


「呼ばれた医者たちも結果を出さねばならない。彼らに任せることで立つ顔もあるだろう」


「そう…ですね。俺が帰らないと皆さんも休めないですし、今日は引き上げることにします」


─それでは私もご一緒させていただきましょうかな


 2人は入口から聞こえる声に飛び上がる。そこにはいつの間にか王都騎士団の副団長 グレナルドが立っていた。


「これは副団長殿。いらっしゃるとは知らずご無礼を…」


「こちらもおおむね片付いたので、挨拶がてら顔を出そうと思いましてな。どうかお気になさらず」


「あまり顔色が良くないような…これから持ち帰る報告があまりいいものではない、とか」


「私の地位は立ち居振る舞いが組織の威厳に直結します。ゆえに弱いところは見せぬよう心がけていましたが…さすがに今回は疲れました」


 グレナルドはその場で体を伸ばすと大きくため息をつく。深い疲労の色が浮き出る顔に心配していると、視線だけをこちらに向けて困ったように微笑んだ。


「たまには良い報告をしたいものですが…現実はいつも非情ですな。ただ帰るのも勿体ない、君には先に伝えておきましょうか」



──────────────


 グレナルドが持ち帰った報告はこうだった。


 アラクネの襲撃については以前から内通していたAPFのメイニャン、経路を提供していたエイト、ノブリスの順に責任を問い、隠していたメモの内容から結末はさして変わらないと判断。

 一方で魔族の襲撃については対応の予知があったこと、ブラヒムの公言により街中に知れ渡っていることから相応の処罰が必要と判断。個人には永久追放処分を、騎士団には当面の監視と現状復帰義務が言い渡されることとなったのである。


 だがこれらは街から問われた責任の話。傭兵組織との間につけた"落とし前"案…それは王政が管理していた様々な権利へのガサ入れ許可。それもグレナルドの依頼という形で行うことだった。

 厳しい措置に部屋がざわつく中、ギャル軍団の1人…アゲハが立ち上がる。


「永久追放って…ボスだってアイツに騙されてたんだよ?それにウチら、ボスがいないとやっていけないんだけど!?」


「イソーは独立勢力です。住民がみな我々に好意的で、事を矮小化してくれるわけではありません。それに今回の件は尾ひれを纏って各地へと広まっていく…双方の信用を守るためにはこれが最低限の処罰です」


「だけど…!」


 なおも食ってかかろうとするアゲハを側近であるカーシルが諌めると、彼女に代わって立ち上がった。


「坊ちゃんの処罰に関しては理解しました。ですが後者の補填については疑問が残ります。傭兵たちに調査を依頼するのはいかがなものかと」


「アラクネが審査を掻い潜り、ロックリフ鉱山に出入りしていた件を覚えていますか?彼らと王政の関与が疑われる以上は組織の外側からアプローチする必要があると判断しました」


 かつてエイジャーたちが調査したロックリフ鉱山は王都を含む複数の権利者が共同で管理しており、出入りする組織には厳しい審査が課せられていた。

 にも関わらずアラクネの部隊…それも奴隷を引き連れたいかにもな連中が出入りしていたとなれば体制に問題があった可能性が高く、ブラヒムの例がある以上は王都関係者もグルの可能性がある。


 ゆえに権利関係に縁が浅く、外側の存在である傭兵たちはうってつけではあった。穏健派のセクメンズと荒事への対応力は確かなダイガロンという実績がある組織というのも大きい。


「ダイガロンの長とは旧知の仲で人柄も把握しています。依頼主はあくまで私です、手綱を誤らなければ無用なトラブルも─」


「そもそもの話…いつまで王都騎士団を名乗るつもりだ?ベルコ副団長。忠を尽くすべき王は死に、拠点である都も滅んだというのに」


 話を遮ったのはもう1人の側近 ゴルドンである。誰もが一度は頭をよぎりつつも見ぬふりをしていた指摘に緊張が走る中、グレナルドは冷たい視線を真っ向から受け止め、ゆっくりと頭を下げた。


「まずは問題を先送りにしてきたことについて皆さんに謝罪を。ゴルドン氏の指摘通り、今の我々は主を失った根無し草…私自身、残された組織をどうすべきか決めかねておりました」


「王都が壊滅してからというもの、アラクネや魔族たちが活発になっています。エルドラ王が築こうとしていた平穏な世界が、再び混沌へ向かおうとしている…旧時代の遺物の一人として、私はそれを阻止する義務がある」


「彼らから民を守るには力が必要です。それも傭兵たちのようなビジネスではなく、人々を救わんとする善良な力が。私は膿を出し切った上で組織を再出発させたいと考えています。楽な道ではありませんが…皆さんにも協力願いたい」


「・・・」


(このままいてもウチらお尋ね者だべ?お前どーするよ?)


(実家帰るつっても気まずいんよなー…他に行くとこねーし)


(でもよぉボスがいないのに続ける意味なくね…?)


─ベルコ氏、1つよろしいでしょうか


 ギャル軍団は突然突きつけられた進路に困惑し、ステラナイトたちは視線を落として微動だにしない。永遠に続きそうな静寂を破ったのは、監視員として派遣されていたボッシュの秘書 フィズだった。


「収監中のノブリス氏から言伝を預かっています。読み上げても?」


「…ええ、お願いします」


『これが公になるのは組織の今後について迷っている頃だろう。お前たちを振り回してしまったことを申し訳なく思う。』


「「「ボス…!」」」


 手紙の真偽を確かめに来た側近2人が筆跡を見て頷く。ノブリスの意志であると証明されたところで、フィズは再び文章を音読する。


『ボクはクーデターによって全てを奪われた家の生き残りだ。だから民衆が憎くてたまらなかったし、いつか復讐してやろうと思っていた…中隊長になるまではな』


『お前たちとの生活は悪くなかった。それでもブラヒムさんの裏切りを確信した時…民衆が一泡吹く姿を夢想したのは確かだ。今回の一件はあの人への忠義だけじゃない、ボク自身の報復心がそうさせた』


「『くだらない私怨で街を振り回し、何よりお前たちまで危険に晒してしまったボクが言うのは図々しい限りだが…お前たちにはボクがいたという証を守っていってほしい』…以上がノブリス氏からの言伝です」


 手紙越しの告白に衝撃を受けつつも家の事を話したがらなかったことを思い出し合点がいくギャル軍団の横では、似た境遇のステラナイトたちが小さく頷いていた。


「騎士団にいるくらいだしスゲー貴族の跡取りだと思ってた…オレたちボスのことなんも知らなかったんだ」


「歴史の授業とかマトモに聞いてなかったしね〜…ねえフクダン、ボスがついほーだけどあーしらはどうなんの?」


「皆さんとの契約は更新したいとの話なので他の隊…おそらく仮設本部のアグーを呼び寄せることになるでしょうな」


 信頼を落としたとはいえ王都騎士団、特にステラナイトの戦力は本物である。街の特性を知っている彼らまで追放しては防衛網の穴を拡げることになる…ノブリスの独断だったことも加味した上で、部隊は残しておくべきというのが役人たちの判断だった。


 とはいえ彼らはノブリスありきの部隊である。大黒柱が消え、厳しい目に晒されることになってもなお残ると表明するのは覚悟のいる決断…再び静まり返ってしまった部屋に響いたのはアゲハの声だった。


「…決めた!ここに残る。そりゃウチらいい部下じゃなかったかもだけどさ、ボスにとっては家族みたいなもんでしょ?じゃあここも守らなきゃ!」


「アゲハ…」


「みんな先生によく怒られてたけど最後は許してもらえたっしょ?ウチらがマジメにやってれば永久追放だって…きっと…」


 そこから先が続かなくなってしまい俯くアゲハ。そんな彼女に助け船を出したのは調理担当のケインだった。


「…じゃあオレっちも残るわ!アゲハちゃん1人に背負わせるのはダサくね?そんな奴がランちゃんの隣に立って良い訳ねー!」


「いや勝手に隣に立つなし…ま〜でも?今のはちょいキュンだったかもね〜?」


─おぉ!?ケインの連敗記録ついにストップするカンジ!?こりゃ見逃せねーべ!


─それな!こんな激アツな展開を前にしてサヨナラはシャバいわ!


「「「「つーわけで…オレらも残るか〜!!!」」」」


(ひ、人の色恋を理由に決断するとは…)


「過去やしがらみではなく今を生きる…それが彼らの良いところよベルコ殿。もう少し熟慮すべきというのは同意にございますが」


 先ほどまでの空気はなんだったのか…あまりの落差に呆然とするグレナルドに気付いたのか、カーシルは苦笑いをしながら囁く。いつもの騒がしさを取り戻したギャル軍団を見つめる2人には困惑と、少しの羨望が宿っていた。


「…あ。でもオレらだけ残ってもあんま意味なくね?オジサマたちいねーと戦えないっしょ」


「「「「それな…」」」」


 純粋な戦力として求められているのは自分らではない事に気付いたギャル軍団の視線がステラナイトに、ステラナイトの視線が長であるゴルドンに集中する。


「我々ステラナイトは坊ちゃまにのみ忠義を尽くすと決めている。ここに残るとするならば手紙ではない、坊ちゃまの口から指令が下った場合のみだ…そこの秘書、まだ面会は叶わないのか?」


「お互いの立場を弁えてほしいところですが…少なくとも首謀者たちが潜伏していたアジトを壊滅させるまでは無理でしょうね」


「残党狩りにはド・フィス氏の隊を合流させました。明日には壊滅の報が届くことでしょう」


「よっしゃ勝確ぅ!じゃあメチャ強お爺ちゃんの無事を祈って〜?」


「「「「「今夜はパーリナーイ!!!」」」」


 ギャル軍団は宴を始めるべく、軽い足取りで厨房と倉庫へと繰り出していく。謹慎中とは思えぬ態度に顔が引き攣るグレナルドの元に、アゲハとランヅキの2人がやってきた。


「そういえばこの話ってグラセンにもしてるんだよね?なんて答えてたの?」


「もちろん協力すると。即答でしたよ」


「「ですよね〜…」」


 呆れたように笑う2人の視線は、エイジャーたちがいる部屋の方角に向けられていた。


─────────────────


「〜♪」


 一方こちらは3人が借りている部屋…偶然起きていたルルと再会できたエイジャーは彼女の髪をメンテナンスしていた。寝たきりで荒れてしまった髪に水分を与えつつ絡まないよう櫛で梳かす…一連の所作も手慣れたものであり、あっという間に艶が蘇る。

 

「とりあえずこれでいいかな、あとは元気になったらやろう。…ごめんなルル。こんなになるまで無理させたのに奴らを取り逃がして…おふっ!?」


「ごめんじゃなくてありがとうがいい!」


 エイジャーは不意の頭突きにうめき声をあげる。ルルは胸に後頭部を押し付けたまま膝に座ると、そのまま全体重を預けてきた。


「あのね、本当はいつもイヤだったんだ。エイジャーが誰かのために無理するの…でもその気持ちがちょっとだけ分かった気がする。私も無理したくなっちゃったから」


「ルル…」


「でもやっぱりエイジャーがひとりで無理するのはイヤ。だからこれからは私のことも頼ること!もう何回も言ってるからね!」


 何度も後頭部をぶつけて怒りを表現するルルに湧き上がる感情から、彼女の腹へ手を回すエイジャー。いつもとは少し空気の違う抱擁に驚いていると、背後から唸り声が聞こえてきた。


「良くないって分かってるのに…そんな風に言われたら愛おしさが抑えられなくなってしまう」


「イト…?」


「愛おしい。意味はそうだな…大好きよりもっと上、あなたがいないと生きていけないみたいな…」


「大好きより…もっと上?…エイジャーーーっ!!!」


 昨日までの衰弱はどこへやら、振り返ったルルは喜びのままにエイジャーを押し倒すと全力で抱きしめた。


「私も愛おしい?よエイジャー!これからもずっと一緒にいようね!」


「分かった、分かったからちょっと落ち着…あぁっ…!!」


(あわわ…ルルったらあんな情熱的に…!)


 死線の果てにまた一歩心の距離が近付いた2人…だがやや暴走気味なルルの愛情表現に、ネックレスの中から様子を見ていたセレーネは慌てて自我を眠りにつかせるのであった…


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