↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/75

11話 伝えるということ

前回までのあらすじ


 肉が抉れ、骨が砕け、魔力も枯渇したエイジャーを救ったのはマリーの癒しの秘術…を遥かに超えたルルの肉体再生だった。

 町を復興するためサノヴァ商会の護衛を任された4人は、リハビリと視察と外交を兼ねてダブルデートをすることになったのだった

─さあさあ営業再開セールだ!今後に備えて薬草はどうだい!


─貝殻を研磨して作ったアクセサリー!彼女や奥さんに是非!


─朝獲れのイモを揚げてみたんだ!お昼にどうだい!


「すごい賑わってますね~!迷子になっちゃいそうです」


 覚醒からさらに4日後…エイジャーたちは再開したサザンの市場を歩いていた。

 資材輸送に使う商会の船が修理の仕上げ中とのことで、鈍りきった体のリハビリも兼ねて町を視察するよう頼まれたのである。


(ラッツさんはガルフィン族の若き有力者とのコネを作るためって言ってたけど…気、使われてるよなぁ)


 エイジャーは貨幣が入った袋…町を救ったお礼という名目でラッツ、町長のポケットマネーから出された『軍資金』が入ったそれを見る。

 外交しつつ経済を回せというのは理解できるが…遊ぶための金を、それも身内から渡されるのはやはり居心地が悪い。


「わぁ〜…見て!これ綺麗!」


 …などと考えているとルルがジュエリー店の前で足を止めた。ショーケースには遠方で産出される希少な宝石やクラスターも並び、市場の中でも特にラグジュアリーな空気を放っている。


「これはディープサファイアだね!ルルちゃんの目みたいに青くて綺麗…でも値段がちょっと…ね?エイジャーさん?」


 断りきれず渡された外交費は共に最前線で戦った2人に、グルーノイから貰った報酬はルルへのお礼と今後の旅の備えにと考えていたのだが…

 全予算が吹き飛びかねない品にルルが興味を持ち、早くもお財布にピンチが訪れていた。


 体を動かせなくなる泡攻撃から回復し、元の生活に復帰できたポリプが肘でつつきながら耳打ちをしてくる。

 

(エイジャーさん!ちゃんとダメって言わないと!)


「ルル…ごめん!今の俺じゃ買ってあげられないんだ」


 ディープサファイア…深海生物の持つエネルギーが結晶化したものと言われており、その深くも透明感のある色合いはサファイアを超えるとしてかなりの値がつく代物である。


 できる事なら買ってあげたいが…先のことを考えればとても許容できない出費であった。


「そうなの?じゃあ…あれは?あれも綺麗!」


(価値に関係なくキラキラしたものが好き…なのか?)


 指差した先にあったのはキャンディの実演販売…カットされた色とりどりの粒が宙に舞い、宝石のように光を反射していた。

 ルルと出会ってから10日以上経つが、こうして平和に過ごした時間は多くない。彼女についてはよく食べること以外はあまり知らないので、この視察はよい機会でもあった。


「いいよ、何色がいい?」


「全部!」


「ぜ、全部…持ちきれないから少しずつ詰めてもらおうか」


 ルルとポリプは赤、青、黄、緑、混色と様々な色のキャンディが入れられていく様子を、目を輝かせながら眺めている。

 ルルは袋いっぱいに詰められたそれを受け取ると、その中から黄色い粒を差し出してきた。


「エイジャーにはバチバチの黄色、ポリプには体と同じ赤色!私は青で…ガラナの黒は入ってないみたい」


「それじゃあ…目と同じ緑色をあげよっか!そういえばガラナ遅いですね…大丈夫かな?」


 エイジャーはポリプの質問に曖昧な返事を返すり。

 昼の市場は人でごった返しており、ガラナはその熱気に気分を悪くして休憩に行っていたのだが…エイジャーはそれだけが理由でないことを知っている。



「彼女にプレゼントをしたい?」


 2人を視察に誘った少し後…エイジャーは秘密裏にガラナに呼び出されていた。聞けば告白じみた詠唱をしたあの日以来どうにも気まずさを感じてしまい、余計に上手く話せなくなってしまったのだという。

 彼女はいつも通りに接してくれているというのだが…どうにかしたいと思っていたところへこの話が舞い込んできたのだった。


(プレゼントで追い詰めて自分に発破をかけたい、はだいぶ強引だな…でもいい機会だし手伝ってあげよう)


「日頃の感謝を形にするのはいいね、お金のことは心配しないで。それでプレゼントするものは決まってる?」


「それが思いつかないから相談してるんだ…エイジャーはほら…こういう経験あるみたいだし」


 そういえば奥さんがいることを話したっけ…エイジャーは作戦前のことを思い出す。言葉を濁したのは彼なりに気遣ってくれているのだろう。

 

「さすがに知り合って数日の子の好みは分からないな、種族ごとの傾向もあるだろうし…俺なら直接聞けるし、それを参考にすればいいんじゃないか?」

 

 本当は一緒に探してあげたかったが…ルルがいると間違いなくバラしてしまうし、この人混みで別行動は避けたかったため彼を1人で送り出したのだ。

 

(さてと…ガラナは上手くやってるかな)


────────


「失礼しますよ小隊長殿。暇なのでお茶でもと思いまして」


 エイジャーたちが市場を回っていた頃─憲兵が復興や周辺地域の調査へ出払い、寂しくなった基地の隊長室をグルーノイが訪れていた。

 何やらご機嫌な彼とは対照的に、ラッツは『めんどくさい』とでも言わんばかりの表情に変わる。


「暇でここにいる訳じゃないんだが…内密な話か?」


「ちょっとした世間話ですよ…グラム卿にお小遣いを渡してデートに行かせたとか。お優しいですねぇ」


 からかうように笑うグルーノイに呆れたようなため息をつきながら、彼の持ってきたコーヒーを焙煎機にかける。

 暇ではないと言ったものの今後の方針を決め終わり、瓦礫の撤去も交代でうまく回せている。今の彼の仕事は各所の報告待ち…持て余していたのも事実だった。


 調査に向かわせた憲兵隊には現地で問題が起きていた場合は協力して解決を優先するよう指示を出しており、現にまだ戻らない。

 先日の扇ガザミのような大事件ならば報告か何かしらのサインを寄越すよう教育してあるので心配はしていないが…そちらの業務が止まっている限りはラッツも動きようがない。


 業務が止まっている彼もまた、話し相手が欲しいのだろう。


「外交だよ。元よりガルフィン族とは険悪でもなかったが、戦いを経ていい関係が芽生えつつある。こんな時こそ味方は増やさないとな…それに」


「それに?」


「あいつには息抜きが必要だ。現状の最高戦力が、いつまでも自殺しそうな顔してちゃ困るからな」   


 パラブブと名乗る未知の魔族による侵攻は大きな被害を生んだ一方で町の結束力を強めていた。

 昔から交流のあった漁師たちだけでなく、種族の違いから『なんとなく』避けていた人々も積極的に交流し、復興のため支え合っている。


 最前線に立っていたのが族長の娘と強大な力を発現させた若者というのもあり、これを期に種族を超えた結束を図りたい、というのが双方の望みであった。


 だがラッツも打算だけで提案したわけではなく、エイジャーを立ち直らせたかったのも事実である。

 抵抗の余地もない力にすべてを奪われ、魘され続けるほど自責の念に囚われている…そんな境遇の彼の扱いに私情が混じったことは否定できない。


「そういう事にしておきましょうか。彼の放っておけない不器用さには、私も甘やかたくなりますからねぇ」


「…まったく、困った男だよ」


 ラッツはどちらに向けたか分からない言葉を漏らし、慌ただしく人々が働く様子を窓から眺めていた。


─────────────


「こっちこっち!酔っちゃったみたいだけど…大丈夫?」


「緑のキャンディあげる!甘くて美味しいよ!」


「ちょっと迷ってた…ん、これいけるね」


 日が沈みかけてきた頃、買い物を一通り終えて休憩していた3人の元へ紙袋を抱えたガラナが駆け寄ってきた。買い物をしている間に本当に酔ってしまったようで顔が少し青ざめている…


(どう?良さそうなプレゼントは見つかった?)


 エイジャーの耳打ちにガラナは首を縦に振った。仮病?を理由にじっくり選ぶ時間を捻出したわけだが、彼なりに納得のいく品を見つけることができたようである。



『そういえばポリプは気になる店はある?欲しかったものとか』


『市場に来るのは珍しいから目移りしちゃって…エイジャーさん見てたら指輪もかわいいな〜って思うんですけど、泳ぐ時に邪魔になっちゃうんですよね』


(…って会話を少し離れたところから聞いてたはずだけど…上手く選べただろうか)


 ガルフィン族の掌には普段は折り畳まれているが泳ぐ際に展開する水掻きが備わっており、指輪があると上手く開かないため、指輪をつける文化はない。

 海での活動が長いことから、人間用の金属製品を手に取りにくいという事情もあるのだという。


「あれ?何か買い物してきたんだ。見てもいい?」


「!えーっとこれはその…まだ見せられないっていうか…心の準備が…」


 ポリプはガラナが抱えている紙袋─恐らくプレゼントだろう─に気付き興味を示す。

 何を買ったかは知らないが、皆がいる時に渡してはムードが台無しだろう。慌てるガラナをフォローしようと身を乗り出したその時、聞き覚えのあるしゃがれ声が耳に飛び込んできた。


「おーぅ!兄ちゃんたちじゃねぇか!久しぶりだな!」


 サプライズを守ったのは先日の討伐作戦にも防衛部隊として参加し、扇ガザミの弱点を教えた組合長 ゲンである。


 大きな箱を抱えて偶然通りかかった彼を含め、町の漁師たちは面会こそできなかったが、療養中のエイジャーに自ら料理した海の幸を欠かさず差し入れてくれていたのだ。

 

 そのほとんどはルルの胃に収まることになったのだが…肉体再生を促せる彼女の糧となり、早期回復に大きく貢献したのだから恩があるのは間違いない。


「差し入れありがとうございました。すみませんご挨拶が遅れてしまって…ほら、ルルもごちそうさまでしたって」


「美味しかったよおじさん!ごちそうさま!」


 ぺこりと頭を下げる彼女を見て、ゲンは満足そうに笑顔を返す。


「おう!俺達ぁ朝早いからな!ようやく漁に出られるってんで張り切ってんのよ!…にしてもみんな薄情だよなぁ町を救った英雄がここにいるってのによぅ…」


 ゲンの言う通り、市場を回っている時にエイジャーたちが声をかけられる事はほとんど無かった。最前線で戦った3人の話は広まっているが、遠く離れた高台に避難していた民間人はその顔までは知らなかったからだ。

 ガラナが買い物で離脱しており、種族の数が噂と合わなかったからというのもあるのだろう。


「あまり目立つと落ち着かないですから…それに2人はともかく俺は英雄なんて器じゃありませんよ」


「謙虚だねぇ…でも元気になった事くらいは知らせてやれよ?みんな安心するぜ。…っと配達の途中だったんだ、またな!」


 ゲンはそう言い残して走り去っていった。昼間は混雑していた市場も夜に向けての準備に入り、人もまばらになっている。


 エイジャーたちが休憩している場所は夕日が差し込み、人も少ない…この後基地へ戻る事も考えると、今が絶好のチャンスだろう…ガラナにアイコンタクトを送ったあと、わざとらしく立ち上がった。


「そうだルル、ちょっとこっちに…」


「???」


(あとは渡し方だ、誠意を持って伝えれば大丈夫!頑張れ!)


 エイジャーは親指を立てながらウインクするとルルを連れて足早に立ち去っていく。長すぎる酔い覚ましに突然の離席…さすがのポリプも不信感を抱き始めているのか、ジト目でガラナに迫る。


「…エイジャーさんなんかおかしくない?ガラナも戻って来るの遅かったし…なにか隠してる?」


(う〜もっと自然に雰囲気作ってよ!不器用だなぁ!)


「…実はエイジャーに相談して手伝ってもらったんだ。今までこういうの無かったから…その…色々なことのお礼、です」


 そう言って紙袋から取り出したのは─月桂樹の模様が刻まれ、赤い縁取りがされた金属製のバングル。


「アクセサリーに興味があるって聞いて。これなら水掻きの邪魔にならないし、錆びない金属だからいつでもお洒落できるかなって。銀と、鱗と同じ赤が入ったやつにしてみたんだけど…ってなんで泣いてるの!?そんなにイヤだった…?」


 プレゼントを受け取ったポリプが泣き出したのを見たガラナは右往左往と取り乱す。センスが悪かった?言葉が間違っていた?それとも実は嫌われて…


「違…こんな事してくれると思ってなくて…男のコってどんどん成長するんだね…えへへ、どうかな?」


 ポリプはさっそく腕に装着してみせた。銀色の金属が夕日に照らされ、月桂樹の模様が燃え盛る炎のように輝いている。


「うん、綺麗だよ。…あ、綺麗っていうのはそのバングルが…だけじゃないんだけど…ああぁぁぁ…」



(なかなかやるなぁ…あの2人はもう大丈夫そうだな)


 無事にプレゼントを渡しながらもヘタれるガラナの様子を影から様子を眺めていたエイジャーとルルはうんうんと頷く。


「2人にイチャイチャさせたかったから隠れたんだね」


「それもあるけど…いつも助けてもらってるお礼をプレゼントしたくて」


 そう言ってエイジャーが取り出したのは乳白色の大きな髪留め─光を反射して淡い虹色を発現させる貝殻を加工し、キラキラ好きらしい彼女のために青い宝石を特別に埋め込んでもらった品である。


「ルルは活発だから動きやすいように髪留めにしてみたんだ。ラピスラズリっていう幸運のお守りも埋め込んでもらって…ディープサファイアほど高級なものじゃないけど…どうかな?」


 ルルは受け取った髪留めをぐるぐる動かしながら、光の向きによって変わる輝きを眺めている。

 夢中になっているのを見るに気に入ってくれたようだが一向に着けようとしない…聞くと使い方が分からないようなので、エイジャーは後ろ髪をまとめて留めてあげた。


「首がスースーするぅ…どう?似合ってる?」


「うん、似合ってるよ」


「かわいい?」


「そうだね。雰囲気が変わったこっちもいいと思う」


 それを聞いて満足したのかドヤ顔でムフーッと息を吐くとエイジャーの手を取り、2人の元へ走り出した。


「私たちもイチャイチャしたって見せに行こうよ!早く早く!」


「イチャイチャはしてな…聞いてないし」


 かたく握られた手の温もりを感じながら、新たにできた大事な存在を今度こそ守る…そんな誓いを込めた髪留めを見つめながら。エイジャーは失った人々に語りかける。


(サーヤ、みんな…この景色を守ったことで、あの日生き残った意味を示せただろうか。みんなの事は決して忘れない。だから…少しだけ前を向いて生きてもいいかな)


 合流した女子2人は貰ったものを自慢し、男2人は相手に喜んでもらえたことをお互いに労いあうのであった。


「エイジャーのおかげで上手くいったよ。これだけじゃない、出会ってから大変なこともあったけど…一歩踏み出せたと思う。ありがとう」


「この景色が見られたのはガラナのおかげだよ。君は町だけでなく俺の心も救ってくれた…ありがとう」


 エイジャーが差し出した手をガラナが取り握手を交わしたその時。指輪に埋め込まれた石が青い光を放ち始めた。


 色こそ違うものの、現象自体はマリーと握手を交わした際に起きた反応とほぼ同じものである。

 青い光はすぐに収まり、やはり石は元のくすんだ色に戻ってしまった。

 

「な、何?今の…魔法…?」


(今度は青…マリーさんの時とは違うな。何か条件があるのか?)


 試しに魔力を込めてみるがやはり何も起こらない。だが2度も同じ現象が起きた以上はただの偶然ではないのだろう…何度も手を繋いでいるルルに反応しないのも謎を深めている。


「実は俺もよく知らなくて…この指輪の事も調べてみるよ。しばらくお別れになるけど、何か分かったら報告する」


 それを聞いたガラナは何を言っているんだ?とでも言いたげな、不思議そうな顔をする。


「あれ、エイジャー聞いてない?僕らも護衛の依頼をされてるから途中まで一緒だよ」


「…え?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。