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すべては気持ちの問題

早いもので、ルレオードでゆっくりできるのはもう今日が最後になってしまった。


今日も例の延長戦は続いていて、部屋に迎えに来てくれたところでいきなりキスをされた。しかも唇に。


何!?部屋だから婚約者候補は見てないし関係ないのに!?もしかしてこれは、単に好きだからしてくれたの!?

私はドキドキしながら問いかけた。


「これはその、か、関係ないのでは?」


でも問いかけてから気づいた。ここの使用人たちがめっちゃ見てた!

そ、そうか!使用人たちが噂を広めてくれるってことね……?色恋がバレるのは使用人の噂からってことは多いものね。


意図はわかったけれど、人に見られるという恥ずかしさが徐々に込み上げてきて、私は膝から崩れ落ちた。


「ひ、人前でその、口はやめてくれませんか……?」


懇願する私を見て、サレオスは「また気絶しないように慣れてくれなくては困る」とだけ言って笑った。

くっ……!女性使用人たちの「あらあらまぁまぁ」という、温かい目がさらに私の羞恥心を突いてくる!


リサなんて感極まって涙ぐんでいる。いや、おかしいから、そんな感動するシーンなかったから。この子、情緒不安定なのかしら……。




そして温室でお昼をいただいた後、遊びに来たシルヴィアと一緒にお茶をしている。


「ねぇ、せっかくきたマリーを放っておいてサレオスは何してるの?」


白い襟つきの青いワンピースを着たシルヴィアは、今日も絶好調に美しい。長い髪を高い位置でひとつにくくり、黒いバラの髪飾りをつけている。


「サレオスは今、来客中よ。イレーア様っていう婚約者候補とそのお父様が乗り込んで来たらしくて……」


「あぁ、あのぷっくりした魚顔ね」


「シルヴィア、すごい表現力だわ」


用件は、多分というか絶対に私のこと。自分こそが婚約者にふさわしいと主張していて、私に会わせろと怒っているらしい。イリスさんが困っていたわ。

昨日、街で尾行してきたのも彼女の雇った者だろうとサレオスは言っていた。


シルヴィアはそんなイレーア様のことを嘲笑した。


「気が強いから引くに引けないのよ。もともと彼女はカイム様を狙っていた一人なの。どうせまた、鉱山の作業を止めるぞとか言ってるんでしょ?馬鹿じゃないのかしら。あんなもの、サレオスひとりで爆破した方が早いのに」


「爆破って、爆破!?あぶないじゃない、そんなこと王子様にさせたら!」


どこまで本当かわからないけれど、脅されるわけじゃないのね。サレオスも「すぐ始末してくる」って平然としていたような……。相変わらず言葉が物騒だわ。


そんなわけでサレオスはいないんだけれど、シルヴィアの来訪のおかげで私は暇を持て余さずに済んでいる。


クレちゃんは、叔父様が相変わらずの独占欲を見せ、お昼を一緒に食べてすぐ街へデートにでかけてしまった。なんでも、きれいな景色が見られるスポットがあるんだそうな。


「本当にすごいわね、トゥラン王族の愛情深さって」


私は紅茶のカップに砂糖を入れて、かき混ぜながら笑った。シルヴィアは「まぁね」と複雑そうだ。


「ねぇ、マリーは……サレオスがもし異常なまでの執着をみせたらどうする?」


え?それは私にってことかしら?何そのステキな妄想トーク。


「昔はね婚約者やお妃様が、王や王子の執着を受け入れられなくてけっこう血みどろな話があったらしいのよ」


「血みどろ!?」


「ええ、逃げようとした婚約者を地下牢に監禁したり、すでに恋人がいる女性を好きになってその相手を焼き殺したり、あぁ、もちろんもう何代も前の話よ?」


「まぁ……!愛情が狂気になるパターンね」


「そうね。もうこれは血筋だから仕方ないんだけれど、もしもマリーがサレオスにその、監禁とかされそうになったらどうする?」


シルヴィアがためらいがちに、でも興味半分という感じで質問を投げかけた。


「それは私もぜひ聞いてみたいですね!」


「イリスさん!」


いつのまにかそばに立っていたイリスさんが、相変わらずのにこにこ顔で参加してきた。おもしろがっているわね!


「う~ん……監禁?どう考えても、サレオスは監禁するほど私のことを好きなわけじゃないと思うんだけれど」


だって20日ほど離れていられる存在ですからね?好きだとはっきり言われたわけでもなければ言ってもいないし、そもそも私の方が圧倒的に好きなわけで……。


「ただの自由な妄想っていうならそうねぇ、監禁場所には何を持っていけばいいかしら?」


「「え?」」


「だって生活環境がわからないのは不安だわ。浴室とかお手洗いとかどうなっているのかしら?まずそこが心配よね」


「まずそこが心配なんだ」


「そうね。欲を言うなら、一緒にごはんが食べられるのか、寝巻きはお揃いを着てくれるのかも気になるわ」


「逃げようとは思わないのね」


「逃げる?どうして?あ、追い出されるかも知れないって話?確かにあまり依存すると、愛想を尽かされる可能性はあるわね。そのあたりの線引きがとても難しいわ……」


あら?シルヴィアがちょっと引いてる気がするのは気のせいかしら。


「あ、あとどれくらいの頻度で会いに来てくれるかしら?それも気になるわ」


「頻度?」


「ええ、だってずっと一緒にはいられないでしょう?お仕事だってあるし……。あまり放っておかれると暇だし淋しいから、本は持ち込んでもいいかしら?あぁ、あとクレちゃんの持ち込みもお願いしたいわ」


「マリー様、監禁されているのに生活環境を良くしようとしてますね?」


イリスさんの口元が笑っている。私、そんなにおかしなこと言ってるかしら?


「もちろんじゃない!せっかく監禁してくれるんだから、なるべく暮らしやすいようにしたいわ」


「あ、喜んで閉じ込められるのね?」


あれ、シルヴィアが眉根を寄せた。ダメなのかしら、好きな人に閉じ込められるのを喜んでは。私は受け入れる気満々なんだけど。


「あくまで仮定でしょう?そこまで愛してくれるなら、その生活を楽しむわ。あ!お仕事のときは、絶対に邪魔しないって約束するから隣に置いてくれないかしら?それならずっとサレオスを視界に入れておけるわ」


なんだろう、シルヴィアのお口が開きっぱなしだわ。でも美人は何してもかわいい。


「あ、お散歩とかできるのかしら?適度に筋力がないと早死にしちゃう」


「長生きする気ね!?監禁生活で長生きするつもりなのね!?」


え、何言ってるのシルヴィアったら。そうしないと、サレオスを寿命まで見届けられないじゃないの。

私はきょとんとしてしまう。


「私の目標は彼を長生きさせることなんだから。それにはもちろん、私だって長生きしなきゃいけないのよ?」


「マリー様……!もうそれは監禁じゃありません」


イリス様が笑いを堪えきれていないわ。私は真剣に妄想しているのに。


「あぁ、でもステキね!帰ってきたサレオスに『おかえりなさい』って言えるのよ?新婚生活、素晴らしいわ」


「マリー、違う。新婚生活じゃなくて監禁生活」


「え?シルヴィア細かくない?そんなの気持ちの問題よ、気持ちの」


「マリーがたくましいのはよくわかったわ。存分に監禁されてちょうだい」


「ありがとう?って返しで合ってるかしら?」


イリスさんはやっぱり笑いを堪えているし、シルヴィアは呆れている。サレオスに監禁してもらえるなんて夢のまた夢だから色々言っちゃったけれど、何か間違っていたのかしら?


私は妄想の国から引き返し、リサが淹れなおしてくれた温かい紅茶をいただいた。



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