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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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私のために喧嘩しないで

サレオスとのダンスは、総合的に見ると幸せな時間だった。緊張して硬くなってしまった私を見て、ふっと笑った顔がとても優しくてかっこよかったわ……!


ダンスが終わり、いつもは誰と踊っているのかと尋ねると、シルヴィアか叔母様だという。


「シルヴィアは、叔父上に踊ってもらえなかったら俺のところに来る。今日は兄が一緒にいるはずだ」


叔父様がダメならサレオスって、なんて贅沢な組み合わせなんだ……!


「あとで挨拶に行こう。叔母は父のすぐ下の妹だ。さっぱりした性格だから、気を遣う必要もない」




最初の一曲だけ踊り終えると、私はサレオスに連れられてシルヴィアや彼女の両親、お兄さんたちに挨拶をした。


王妹のシルヴィア母は、母娘でよく似たスレンダー美女だった。黒髪が艶やかで、妖艶な笑みについ見惚れてしまい、何を話したかはあまり覚えていない。


「まぁぁぁ!あなたがサレオスの蝶なのね」


「蝶?」


「うふふ、次はぜひ、ストークスホルンのお城に行きましょうね!きっとみんな歓迎するわ」


でもシルヴィア父は、私の存在に少し困惑していた。「シルヴィアとの婚約話はなくなるのか!?」と動揺を漏らした瞬間、シルヴィア母に扇子で顎をぐいっと持ち上げられて「本人たちが望んでいないでしょうが!」とキレられていた。トゥランの女性、強し。



その後、すぐにソファー席の方へ連れていかれ、みんなが踊ったり歓談したりするのを眺めていた。病弱設定で押し通すには、座ってゆっくりしていないといけないものね!


それでもダンスのお誘いを受けたときには、サレオスが私の病弱設定をうまく持ち出してくれて誰とも踊らずに済んだ。


イリスさんの「サレオス様、心が狭いです」という呟きを聞いたけれど、こんな場で踊らなくていいって言ってくれるなんてむしろ心が広いと思うわ。


叔父様はクレちゃんとファーストダンスから3曲続けて踊った後、二人で早くも新婚さながらに挨拶まわりを行っている。もちろん、ダンス中に頬にキスをしたり、挨拶中にもしっかり肩や腰に手をまわして「俺のもの」アピールがすごい。トゥランの王族の愛情深さを体現しているわ叔父様!


「素敵ね、仲睦まじくて」


二人の姿に、私はつい頬が緩んでしまう。するとイリスさんに何か指示していたサレオスが、驚いたように視線を寄越した。


「あぁいうのがいいのか!?」


あら、心底納得できないって感じだわ。


「え?ええ、遠くから見ている分には」


ずっとお砂糖を浴び続けるのは困るけど、遠巻きに見ている分には和むと思うの。だって大好きなクレちゃんの幸せな姿だもの。




サレオスと一緒に庭園が見えるテーブル席でゆったりと過ごしていると、アルクラ公爵とおっしゃる方がやってこられて挨拶をされた。私の顔を見てにっこりと笑うと、サレオスに向かって少し話がしたいと頼んできた。


「マリーはここにいろ。どこにも行くな。特にダンスは絶対に断れ」


「わかったわ」


「欲しいものがあれば給仕に頼め、自分で取りに行こうとするな。寒くなったときも同様、それから」


過保護!次々と注意事項を並べるサレオスに、イリスさんとアルクラ公爵が引いている。そしてやっと言い終わったかと思うと、サレオスは立ち上がりアルクラ公爵と共に奥の方へ行ってしまった。イリスさんも後に続き、私はひとりでぽつんと座って唖然としていた。


迷子になると思われているのかしら。どこにも行くなって言われてしまったわ。お手洗いにも行けないじゃない。ここはアガルタじゃないから心配してくれているんだろうけれど、あまりに過保護だわ。



軽快で陽気な音楽が流れていて、みんな楽しそうに踊ったりおしゃべりしたりしている。キラキラと光る庭園の滝を見ながら待っていると、知らない男性に声をかけられた。


「おひとりで淋しいでしょう?私と一緒に踊りませんか?」


誰だろうこの方、茶色の短い髪に金色の目、スマートな体躯でいかにもモテそうな人だわ。サレオスほどの美形ではないけれど、ファンが多そうね。私なんかに声をかけなくても、他にたくさんお相手がいそうなのに。


私は控えめに笑いつつ、やんわりとお断りをする。


「せっかくのお誘い、ありがとうございます。あいにく、サレオス殿下を待っていますので遠慮させていただきますわ」


ところが目の前に立つ人は、私の渾身のお断りを聞き流してしまった。そして強引に誘い文句を並べてくる。


「大丈夫ですよ。サレオス殿下はしばらくお話があると思いますよ?その間に一曲くらい良いでしょう?あなたのような美しいお嬢さんと踊れる栄誉を、私に与えてくださいませんか?」


どうしよう、気持ち悪い。スペックと社交性がありすぎて、「俺の誘いを断る女なんていないよな」感がものすごく出ているわ。きっと高位貴族の方なんだ。これはお断りできないかも……?


私が困っていると、それを見逃さなかったその人が不躾にも私の腕をつかんだ。


「さぁ!踊りましょう!」


「えっ!?嫌っ」


やめてー!気持ち悪い触らないで!ヴィーくんの殺気がすごいですよ、さっきから!私こう見えて暗殺者連れですよ!?


私の心の叫びを無視して連れ出そうとする男の人は、もう笑顔すら気持ち悪い。無理やり立たされた私は、腕を何とか引き戻そうとするも力負けしていてどうにもならない。


いよいよヴィーくんが降臨するかもと思った瞬間、高い女性の声が鋭く響いた。


「嫌がっていらっしゃるわよ!おやめになってエルヴァス侯爵!」


目の前に現れたのは、三人の女性たちだった。扇子を広げ、中央に堂々と立っている赤い髪の縦ロールの女性が私を助けてくれた声の主のようだ。


え……信号機ですか?


赤、黄、緑のドレスを着たトリオが自信に満ちた顔つきでエルヴァス侯爵と呼ばれた人と向かい合っている。彼は私の手を離し、舌打ちしながら去っていった。


私はほっと胸をなでおろし、三人に向かってお礼を言った。


「ありがとうございました。とても助かりました……!」


中央に立っていた黄色いドレスの女性はアリーチェ様というお名前らしい。私は自己紹介をして、もう一度お礼を言った。


「マリーウェルザ様とおっしゃるのね。ぜひ、奥のお部屋でサレオス殿下のお話がしたいわ」


まぁ、なんて素敵なお話!サレオスのかっこいいところを語り合えるのかしら?私はサレオスに動くなと言われていたことを思い出してちょっとだけ迷った。


「あの、私サレオス殿下に動くなと言われているんです」


「大丈夫、私たちは公爵家の娘だから身元は安心よ?イリス様に私たちと一緒にいることをお伝えしておくわ。ねぇ、リータさん?」


「ええ、もちろんですわアリーチェ様」


赤いドレスの黒髪女子・リータさんがにっこりと微笑んだ。ものすごく高価そうな真珠のネックレスをつけている。


「さぁ参りましょう。ロッセラさん、休憩室にご案内して?」


緑のドレスの茶髪女子・ロッセラさんが「わかりました」と言ってしずしずと前に歩み出る。アイちゃんと似たような細さで親近感が湧くわ!


あぁ、でも公爵家の娘さんなら、私に断ることはできないわね。イリスさんに伝えてもらえるっていうし、行かなきゃいけないわ。


しかしそこへ、さらなる女子軍団がやってきた。今度は5人だ。


「お待ちになって。私たちもこちらの方とお話がしたいの」


黒髪で夜会巻き、蒼いドレスのふくよかな令嬢が、扇子を握りしめて登場した。どうやら彼女がリーダーのようで、彼女以外は黄色やピンクなど淡い色のドレスを纏っている。


彼女たちの登場にアリーチェ様が目を見開き、牽制するように大袈裟な反応を示した。


「まぁ!イレーア様、不躾ではなくて?私たちが先に、マリーウェルザ様とお話する約束をしましたのよ!」


わぁ!なんだか私の取り合いが始まったわ!「私のために喧嘩しないで」というセリフは今絶対に言っちゃいけないことくらいわかるけれど、まさかこんな展開になるとは思わなかった。


え、みんなでサレオスのかっこいいところについて語り合うんじゃダメなの?どちらかのグループに属さないとダメなの?


「あの、みんな一緒に、ではいけませんか?」


「「「はぁ!?」」」


私の発言に、全員が一斉にこちらを見た。ものすごい鬼気迫る形相をしているわ!私何かおかしなこと言った!?


「まぁ、そんな余裕あるの?」


「余裕、ですか?ええっと、休憩室は広いから大丈夫じゃないでしょうか」


「は?何おっしゃってるの?」


どうしよう、トゥランの女の子と会話が成り立たない。



あぁ、しばらく睨み合いが続いているから、まわりもこちらを見ながらヒソヒソと何かを話し出した。


このまま膠着状態が続くかと思いきや、アリーチェ様が私の両手をぎゅっと握り、にっこり微笑みかけてきた。


「マリー様、わたくし達はお友達になったんですわよね?たった今!」


え?そうなんですか!?私はびっくりして「えっ!」と声を上げた。


「さぁ!私たちかこちらの方々か、どちらかお選びになって!」


えええ、選べと言われるとアリーチェ様を選ぶしかないわ。だってせっかくお友達だって言ってくださったんだし。


「では、先にお約束したアリーチェ様たちと一緒に参ります」


にんまりと笑ったアリーチェ様は、ぐいぐい私の背を押して休憩室に向かおうとした。


「そういうことですわ!イレーア様はまた今度の機会にでも」


おほほほほ、と優雅に笑った三人娘と一緒に、私は奥の休憩室へと向かった。



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