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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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忘れていました

部屋に戻った私は、待ち構えていたリサとエリーにドレスアップの準備に取り掛かられた。


クレちゃんから届いていたドレスが、トルソーに着せてある。


「これ……!」


思わず息をのむほど美しい、紺色のドレス。サレオスをイメージしてつくられたことがすぐにわかるそのドレスは、濃紺の光沢ある生地にラメが散りばめられ、胸元は黒いレースがあしらわれていた。


いいの!?こんな露骨な衣装を着てもいいの!?叔父様!クレちゃん!


スカートは、紺色の優雅なドレープが左から右に流れている。その下から水色の生地が何枚も重なっていて、歩くたびに揺れるようになっていた。


ところどころに銀色の刺繍で蝶があしらわれ、控えめなカラーなのに地味じゃない。キラキラしていて美しい……。ものすごく手間がかかっていることがひと目でわかる、豪華な衣装だわ。


「とってもきれいですね」


リサが装飾品と合わせながら、にっこり笑った。


「そうね……」


これ、私に似合うかしら?美しくて気品があって、大人っぽい印象だわ。どう考えても背丈の足りない私が着こなせる気がしない。シーナなら着こなせたでしょうに……。


リサをちらりと見ると、「大丈夫です!マリー様なら絶対似合います!」と鼻息荒く言われてしまった。エリーはすでに髪のアレンジをする用意を始めていて、髪飾りも決めてしまっているみたい。にっこり微笑まれた。


「お、お願いね……!?」


縋るような気持ちで二人にすべてを任せることにする。


「まずはお風呂です!きれいにしますよ!!!」


リサが今までにないほどはりきっていた。


3時間後。ギリギリまで時間をかけて、私はこれまでで一番といっていいほど、丁寧に仕上げられていった。入浴後に何かいいにおいのする保湿剤っぽいものを肌に塗りこまれ、ときおりキラキラ光ってみえる。


鏡の前に立った私は、予想外に濃紺のドレスがしっくりきていて、自分でもびっくりしたわ。さすがクレちゃん、そしてリサとエリーの魔法レベルのセットアップのなせる技……!思わずほっとして嬉しいため息が出た。


髪にはサレオスの髪紐と同じ銀色をした細いカチューシャをつけ、ツイスト編みで薔薇をモチーフにしたアレンジが頭の真後ろでつくられている。


なんていうことでしょう!エリーが一時間かけて編み込んだ渾身のヘアスタイルだけあり、私の顔立ちの幼さをうまく隠してくれていた。


「ありがとう!エリー!リサ!」


「マリー様、本当にお綺麗ですわ!まるでお姫様のようです!」


「あぁ……なんだか嫁がれるような気分になってきた」


エリーが感極まって涙を浮かべている。


え、ちょっと待って、6時間後にはまたここにいるからね?多分。泣かれても気まずいわ!




叔父様からは、「サレオスにエスコートさせるからね!」と言われている。少し早いけれど、遅れるよりはいいかと思って一階のロビーへと向かった。


サレオスはどう思うかしら?綺麗だと言ってくれるかな?あぁ、胸がドキドキしてきた。


ロビーでソファーに座ってサレオスを待っていると、今日の歓迎パーティーにやってきたであろう令嬢たちが次々と姿を見せる。みんな豪華なドレスを纏っていて、黒髪や茶髪に似合う派手な色のドレスを着ていた。


私は髪が白金だから淡い色のドレスは似合わないけれど、「あ、いいなぁ」と思うレモンイエローやサーモンピンクのカラーのドレスを着た令嬢を見つけてニヤニヤしていた。かわいい女の子は正義だわ。


でもあまりにたくさんの令嬢が通りかかるから、「ここは通りかかるような場所じゃないのに?」と疑問に思っている。


ジロジロ見られるから不安になってしまったけれど、エリーが満足げで得意げな顔をしているから「私の姿、おかしいんじゃないか」なんてとても言える雰囲気じゃない……。


ヴィーくんが「視線がうっとおしいなら#殺__や__#りましょうか」と囁いてきたけれど、絶対にやめてと強く否定した。


いくら自衛のためとはいえ、他国の貴族をやったらダメだから!今日だけは、私の命に危険がない限りは自重するように何度もお願いした。


15分くらい経つと、さすがにおかしいとエリーも気づきはじめたようで、私と目を合わせて不思議そうな顔をする。入れ替わり立ち替わり令嬢がやってきては、みんな私を見て露骨にがっかり肩を落としてして帰っていくのだ。


「あれは無理だわ……!」


ひとりの令嬢が呟く声が聴こえてきた。


「エリー……私みたいな女の子は無理なの?」


「そんなことはありません!マリー様は世界で一番かわいいです!」


国が変われば美人の基準が違うっていうもの。エリーは私のことをかわいいって言ってくれるけれど、もしかしたら私はトゥラン受けしない#顔貌__かおかたち__#なのかもしれないわ。


それに私は知っているのよ。前世の記憶が「身内のかわいいは信用ならない」ってビシビシ信号を送っているわ!


私としては、誰になんて思われようがサレオスにさえかわいいと思ってもらえればそれでいいんだけれど……。


不安に思っていると、ロビーの扉の向こう側がざわついているのがわかった。多分、サレオスが来たんだわ。


「マリー様、大丈夫です」


エリーが私の手を握って、優しく笑ってくれた。そうよね、エリーとリサががんばってくれたものね!?信じるわよ!


立ち上がり、深呼吸するとロビーの大きな扉がゆっくりと開いた。



ところがその瞬間、私は膝から崩れ落ちそうになる。破壊力抜群のかっこよすぎる王子様が現れたからだ。トゥランの正式な隊服だろうか、鮮やかな蒼い詰襟の上衣に黒いズボン、銀色の装飾がきらりと光る袖や襟元……。あぁ、寝てすっきりしたのね、顔色が良くなっているわ。


忘れていた。しまった、サレオスだった。見た目だけで好きになったわけじゃないけれど、中身もいっぱい好きなところあるけれど、やっぱり彼の見た目は私のドストライクだったのよ……!


これはやばい。どこの王子様!?ってここの王子様ですね!?どうしよう、まぶしい。目が眩む。直視できない。


「え、私、この隣に立つの?」と狼狽えながらエリーを見上げると、「俺と同じ人間とは思えない」という呟きがこぼれ落ちてきた。ええ、私も自分と同じ人間とは思えないわ、激しく同意する。


何人かロビーには人がいるけれど、みんな一斉に彼の姿に注目していた。「うっ……!」という誰かの呻き声が背後から聞こえたわ。やめて!つられるから我慢して!


どうしよう、見つかってしまう。私はエリーの後ろにシュッと隠れた。


「マリー様!?」


「お願い見逃して!無理よ無理!見たでしょうあのかっこよさ!キュン死にしちゃう、本当に無理!」


「いやいやいや、ドレスがあるから隠れきれていませんよ!諦めてください!」


「いやぁぁぁ!」


「諦めて討ち死に……じゃなかったキュン死にしてください!」


「今討ち死にって言ったわね!?」


「言い間違いですって!かわいいです!大丈夫です!」


「討ち死にって言われたのに出られるわけないでしょぉぉぉ!?」


私は絶対に出てなるものか、とエリーの背後にへばりつく。でも無情にも、そこにカツカツと足音が響き、サレオスが近づいてきたのがわかった。


「マリー?何を遊んでいる?」


あぁ、遊んでいるんじゃないのよ……こっちはあなたのカッコよさで大惨事になっているの。心の中は炎上、氷瀑よ!


「マリー様。もう諦めて出てください。時間切れです」


「エルリック、何があった……?誰かに何か言われたのか?」


「エリーに討ち死……んぐ!」


一瞬で振り向いたエリーに口を塞がれてしまった。私は目だけで抗議し、苦笑いするエリーをひたすら睨む。


「マリー?」


あぁ、もう諦めるしかないのね……!散るなら早い方がいいか。


私は覚悟を決めて、エリーの陰からサレオスの前に出た。


「「……」」


あぁ、至近距離で見てもものすごくかっこいい。好きすぎて胸がぎゅっと締め付けられる感じがするわ!


サレオスは目を見開いて、驚いた顔をしている。一体このドレスは何なのかしら。


「あの……どうかしら?」


「……」


彼はゆっくりと私の頬に手を伸ばして、触れる直前でその手を下ろす。


「どうしたの?」



長い長い沈黙の後、サレオスが低い声で問いかけてきた。


「そのドレス、クレアーナか」


あれ?聞いてなかったんだ叔父様から。私はサレオスの瞳をじっと見つめて答えた。


「ええ、クレちゃんが……叔父様も監修してくださったと」


「だろうな」


サレオスは前髪をかき上げ、「はぁ~」っとため息をつく。


え……ため息つかれるほどダメなの!?あぁ、どうしよう。体が小刻みに震えだすのがわかる。


「わかっているのか?そのドレスを着る意味が」


「……意味って?」


何を言われているのかまったくわからない。私は首を傾げて、不安でいっぱいだ。紺色は、みんなが着られるベターな色でもあるからセーフかと思うんだけど?


「いや、マリーのせいじゃない。すべては叔父上の(はかりごと)だ」


私は困ってしまって、後ろに立つエリーを見つめた。


……どこ見てるの!?あなた私のこと助ける気ないのね!?エリーは白々しく、どこか遠くの方を見つめていた。


「もういい、着替える時間もないしそのまま行こう」


サレオスは諦めたように、投げやりに言い放った。


え、クレちゃん。これって作戦失敗してない?けっこうがんばったんだけど、何も言ってくれなかったわ……。お世辞で褒めてくれてもいいのに、と胸がチクっと痛んだ。


「マリー、手を」


私はぎこちないつくり笑顔を浮かべ、差し出された腕に傷心のまま手をまわした。



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