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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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お昼寝

ゆっくりと朝食を摂った後は、シルヴィアとふたりで温室や庭の散策に出かけた。


ついて来ていたヴィーくんが「たまに霊がいますけれど、害はなさそうです」なんてことを大真面目に言うものだから、微妙な空気になったわ。うちのアサシンは霊が見えるらしい。


そしてお昼を食べ、シルヴィアはパーティーの準備をしなくてはと自分の邸に戻っていった。


なんだかんだで12時間以上、私たちは一緒に過ごしたことになる。帰り際に、もう叔父様のことは諦めるわと呟いていた。


叔父と姪という関係上、心の中ではとっくにわかっていたけれど、整理がつかなかったんだろうなって思う。今回のことがきっかけになってよかったと、本人も言っていた。



帰り際に、軽食を持ったイリスさんとたまたま回廊で出くわしたら、サレオスが朝からずっと執務室にこもっているという。


私は会いたさに負け、イリスさんについて彼のもとに向かった。「放っておくと食事を摂らないので、マリー様から休むように言ってください」と言われてしまう。



ーーコンコン


イリスさんが一応といってノックするが返事はない。いつものことだから、とそのまま扉を開けて中に入っていく。


広い部屋には、書庫と変わらぬ本がずらりと並び、応接セットと執務用のテーブルがあってもまだ余裕があった。


飾り気のない部屋で、少しだけ開いている窓から冷たい風が入ってカーテンが揺れていた。


「サレオス?」


姿が見えず、私はキョロキョロしてしまう。イリスさんが黙って指をさした先には、応接用のソファーに横になって眠っている黒髪の王子様がいた。


長い脚をひじ掛けに乗せて投げ出し、丸めた毛布を枕がわりにして仰向けで寝入ってしまっている。床には、解かれた銀色の髪紐が落ちていた。



イリスさんがテーブルの上の書類をすべて集め、封筒の中にいれたり引き出しにいれたりしてるから、おそらくすべての仕事は片付いたのだろう。


「こんなに忙しいのに、時間つくってくれていたのね」


朝早くからぶっ通しで働き、こんな状態かと思うととても起こす気にはなれなかった。髪紐を拾い、そっとテーブルの上に置く。


「いいんですよ、マリー様が来てくれなければ働きすぎますから。領地の管理やいざこざの後始末なんて、本来はテーザ様がやることですけれどね!」


イリスさんが恨めしそうに言う。


「でもサレオス様もいけないんですよ。昔から自己評価が低くて、兄君と同じくらいできなきゃいけないと思ってらっしゃる。いつまでご自分を兄君のスペアにしておくつもりなのか……サレオス様はサレオス様なのに。困った王子様ですよ」


「ふふふ、イリスさんお母さんみたいね」


私がそう言うと、イリスさんは苦笑いで呟いた。サレオス様は嫌がるでしょうね、と。


「では、私は下がります。マリー様、あとはご自由に」


え!?ご自由にと言われても!?


イリスさんはテーブルに昼食として運んできたパンなどが入った籠を置き、書類を持って出ていってしまった。


しんと静まり返った部屋に、眠っているサレオスと私の二人だけがいる。


わぁぁぁ、どうしよう。


私は着ていた赤いワンピースの裾をぎゅっと握りしめた。この状況、何でもできるけれど何もできないわ……。


とりあえずサレオスが風邪をひかないよう窓を閉め、自分が肩からかけていた厚手のショールを彼の身体に掛けてみた。


寝ている彼の傍らに座り込んだこの状況は、いつぞやの放課後によく似ている。私はつい、サレオスの髪をそっと指で撫で、柔らかな感触を楽しんでしまう。


はぁ……気持ちいい。はっ!いけない、触りすぎて起きるとだめね。学習する女よ、私は!


髪を撫でるのはほどほどにして、淋しいけれどこのまま退散しようと決めた。


「ふふふっ……」


あどけない寝顔を見ていると、自然に笑みがこぼれた。


「知らないでしょう?私がどれだけサレオスに会いたかったか」


本当に困った人。好きになった方が負けってよく言うけれど、私たちの関係はまさにそうね。いつお嫁さんにしてくれるのかしら~、なんて心の中で問いかけるけれど、さすがに心までは読まれないから安心だわ。


かわいい寝顔を見て、今だけはちょっとだけ優位に立った気分になる。


なぜキスしたのとも聞けず、私のことをどう思っているのとも聞けず……そんな私のこのもやもやを知っているのかしら?どうしてくれようかしらこの人は。


私はサレオスの頬にそっとキスをして、寝ていることを確認するとそのまま静かに部屋を出た。眠っているって素晴らしい。朝、もっと色々しちゃえばよかったわ、髪の毛も撫でたかったし。


夕方にはパーティーがあるから、迎えに来てくれる。まだしばらくゆっくり二人で過ごせそうにないなぁ。そんなことを思いながら、私は部屋に戻っていった。


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