美女は酒豪で酒乱だった
朝食を食べていると、エリーが明るい笑顔でやってきた。
シルヴィアは昨夜のことがまったく記憶にないらしい。サレオスと三人揃って同じベッドで寝ていたことを、まったく知らなかった。
それを伝えると、サラダをもぐもぐしながら「あぁそうなんだ」と興味なさそうに呟く。
まったく動揺せず、こめかみあたりを痛そうに押さえながら「いとこなんだから一緒に寝ても別に」と平然と笑っていた。
あの、私はいとこじゃないんです。ただサレオスを好きなお友達なんですが……。
「昨日は皆様とても楽しそうでしたよ?」
一部始終を知っているエリーが、珈琲を淹れながら優しく笑う。
あぁ、なんで自分のところのお嬢様が、婚約もしていない人と一緒に寝ていて笑っていられるの……?大丈夫なのかしら、うちの従者は。
エリーは私の疑問を察し、またにっこり笑った。私の動揺も不安も、すべて織り込み済みらしい。
「昨夜、遅くになってテーザ様がクレアーナ様をお迎えに来ました。お酒の力で号泣していたので……お部屋にお戻りいただきました」
「あ!思い出したわ!」
「ええ~?マリー思い出したの?私は全然思い出せない……!」
シルヴィアが頭を抱えている。頭痛がするというので、リサが薬湯を用意した。
「それからシルヴィア様とサレオス様の飲み比べが始まって、マリー様はサレオス様の肩にもたれてうとうとしておられました」
「……続けて」
「お酒が足りないと言われて追加を持ってきたら、マリー様はサレオス様の膝枕で眠っておられました。シルヴィア様は、そんなマリー様の髪を結って遊んでおられて」
「うぐっ……!どうしてそんな幸せな瞬間を覚えていないの私は!?キュンをっ、キュンを逃した!」
「その後、飲み過ぎで完全におかしくなったお二人は、どちらがマリー様を抱き枕にするかで喧嘩になり、シルヴィア様が窓に雷を放って破壊して……」
シルヴィアは雷魔法を使うのね!?窓を壊すぐらいの爆音に気づかなかったなんて、私ったらどれだけ深く眠ってたの!?
「私がそれを直している間、窓から吹く風に震えたマリー様が寒い寒いと言いながら、サレオス様に抱きついて頭をグリグリ寄せていました」
いやぁぁぁ!知らない間に問題行動してるぅぅぅ!
「結局、サレオス様とシルヴィア様は眠気に負けて和解し、マリー様を間に挟んで寝るということに妥協なさいました」
「エリィィィ!?なんでそこで止めてくれないの!?」
「止められませんよ。サレオス様の手から、紫色した何かがバチバチ言いながら出てましたので」
あ、うん。よかったわ、エリーが生きてて。
「それでサレオス様がマリー様を運んで……ベッドに横になったのはいいんですが、シルヴィア様がマリー様を押し倒すような形で上に乗りました。二人でわりと長い間いちゃついていましたよ?まぁ、マリー様は寝ておられましたのでシルヴィア様が一方的にではありますが」
「あら、なにその素敵な展開!眠っていたのが残念だわ……!」
「嬉しそうねマリー」
ええ、美女は正義なの。
「それで、シルヴィア様がマリー様の髪を撫でながら、おもいっきり唇にキスしようとしたので、サレオス様が横から脇腹あたりを軽く蹴りました。あ、もちろん軽~く、ですよ?けっこう飛距離出てましたが」
「サレオスめ~!どうりで左の脇腹が地味に痛いと……!」
うわ~何そのカオスな状況……。でもサレオス、女の子を蹴っちゃだめよ。
え?シルヴィアならキスなんて余裕でおっけーよ。
「そこからは多分、起きたときの状態かと。マリー様はサレオス様の抱き枕になってぐっすり眠ってらしたので……3人とも起きそうにありませんでしたし、まぁ悪いことも起きないかなぁなんて」
「それでも起こすかどこかに運ぶかしてよぉぉぉ!」
「無理ですよ。奥様からは『もしも既成事実ができそうなら絶対邪魔しないように』と言いつかっております」
「お母様ぁぁぁ!!!」
「へぇ、マリーの家っておもしろいのね。今度遊びに行くわ」
薬湯をすすりながら微笑むシルヴィアは、二日酔いと思えない愛らしさだった。
私はショックを引きずったまま、食後にシルヴィアと温室を散歩したり書庫を案内してもらったりした。




