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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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歓迎されました

ルレオードのお邸は、近づくほどその大きさに圧倒されてしまった。


真っ白ないくつもの塔が中央の大きな建物を囲んでいて、攻められないように計算され尽くしている感じがする。それぞれの三角屋根はダークグリーンで、厳かな雰囲気がとても邸とは言えない。やっぱりこれは城だわ、しかも世界遺産クラスの……!


私が言葉をなくしているうちに、王子様御一行を迎えるたくさんの兵の姿が見えた。サレオスと同じ黒衣を纏った、見るからに強そうな軍団が緊張の中にもイキイキと目を輝かせながら並んでいる。


アガルタの騎士団は髪がカラフルで意味不明な華やかさだったけれど、こちらは黒髪半分、他は茶髪や赤髪、たまに金髪という構成で比較的落ち着きのある色彩だ。


そして、ローブを着た魔術士が半分くらいいるけれど、なぜか彼らも筋肉質で体格がいい。


「彼らは前衛に出る精鋭だ。ガラは悪いが腕は立つ。今は冬場で荒事が少ないから出迎えに揃ってくれた」


あぁ、クレちゃんは未来の公爵夫人だものね!私が先に着いてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだわ。こちらまで熱気が伝わってきて、クレちゃんが歓迎されていることがわかる。


こんな場所でなら、きっとクレちゃんは幸せな結婚生活を送れるわ。私は嬉しくなって、自然に頬が緩んだ。ふふふ、もうすぐふたりが到着して、この人たちも大量のお砂糖を浴びるんでしょうね。そう思うとニヤニヤしてしまう。


大門にずらりと整列した男たちの正面に、私はサレオスに連れられてやってきた。


「言い忘れていたが、団長はこの男だ。だから礼儀などは気にしなくていい」


サレオスはちらりとダンさんの方を振り返った。ニカッと笑ったダンさんは、うんうんと頷いている。


彼は子爵という決して高くない身分から成り上がった実力派らしく、基本的に強ければ平民でも出世できる仕組みになっているという。アガルタとの違いにびっくりした。


「まぁ、だからこそ強さ第一と思う者もおりまして……サレオス様を王太子にと推す勢力はそういった者たちなんですよ」


イリスさんが困ったように笑った。


どこの国も色々とあるらしい。アガルタはフレデリック様以外のふたりの王子が側妃様の子で、しかも脳筋だからとても国の運営はできないということでまったく王位争いはない。けれど、それでも貴族の派閥争いは絶えないし、政略結婚で力を保持する必要がある。


お父様がのらりくらりと派閥の誘いを断っていられるのは、お母様のご実家や親交の深い公侯伯あたりの武力がずば抜けているからだと本人はよく言っている。



サレオスが兵たちの前に来ると、一気に歓声が湧いた。地鳴りのように響く声の渦に、私はびっくりして身を#竦__すく__#ませる。


「サレオス様が恋人をお連れになられたぞー!!!」


え?この人たちは何を勘違いしているの!?


「うぉぉぉぉぉ!奇跡だ!!!」


え?なんで奇跡なの!?サレオス美形だからモテるでしょ?


オロオロして周りを見ると、私の左には額に手を当てため息をつくサレオス、右には満面の笑みを浮かべるイリスさん、そしてなぜか片腕を高く掲げて歓声に応えるダンさんがいた。


あまりに場が湧いているので、大声で「違います!」というのも#憚__はばか__#られる……でも否定しないとマズイわ。


これだけ喜ばせておきながら、実は運命の恋の相手じゃありませんでしたなんてことが知れたら私は袋叩きに遭うんじゃないかしら!?


やばい。やばすぎて震える……!失恋するだけじゃなく襲撃までされる可能性が出てきたわ。顔がゆっくり青褪めていくのを感じる!


「マリー?どうした?」


どうした、と言われても答えられないわ!まさか「御宅の兵たちからの報復が怖いです」なんて言えないもの。


「オマエらぁぁぁ!お嬢様が怯えているだろぉぉぉぉ!!!」


ダンさんの怒鳴り声とともに、いくつもの氷塊が兵たちの集団に向かって降り注いだ。


ちょっとこれ大丈夫なの!?地面におもいきり氷が刺さっていますけども!?


サレオスの袖を掴んで顔をちらりと見上げると、ざまあみろという風な悪い顔をして笑っていた。まったく心配なんてしていないのね!?


あの、私が怯えているのは報復なんですけれど……それさえしないとおっしゃってくれれば怯えずに済むんですが……!


「さぁ、マリー様。騒いですみませんでした。お部屋にご案内いたします」


イリスさんが何事もなかったかのように、私を邸の中に誘導する。静まり返った庭から、アツイ視線だけが注がれていた。


ど、どうしよう。みんな誤解しているわ。今のところ私の自己紹介は、依然としてお友達なんだけれど……!


「マリー、行くぞ」


サレオスが私の背中に手を添え、邸の方へと押し出す。


「あ、はい」


それに従って歩き出せば、なぜかサレオスがふっと穏やかな笑みを浮かべた。


「はねてる」


スッと伸びた指が、私の前髪を当たり前のように梳かす。突然の無自覚イケメン攻めに、全身をビクッと揺らした私は一歩下がってしまった。


うぐっ……!

ひ、久々に見せる優しい顔はだめ!好きすぎて内臓がよじれそうだわ!



「サ、サレオス様が笑っておられる!」


「祝いだ!祭りだぁぁぁぁ!!!」


「やかましい!」


それからしばらく、兵たちの雄叫びとダンさんが氷塊を撃ち込む音が聴こえていた。


あぁ、どうか、クレちゃんと叔父様のイチャイチャぶりを見て、みんなが私の存在を忘れ去ってくれますように……!


私は到着早々、まさかの事態に震えていた。


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