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ドジっ子はかわいい

お城勤め6日目。この日はルルナが廊下で危うく転びかけ、通りかかったイケおじ騎士に支えてもらって事なきを得た。「このまま恋が芽生えるか?」と邪な目で見ていたのに、キュンもラブも何もなかった。恋愛ハードモードなのかしら?


「マリー、私17歳なんだけれど」


ルルナの視線が痛い。最近気づいたけれど、イケおじにキャーキャー言っているのは私とクレちゃんだけのようだ。アイちゃんもシーナも20代と10代にしか興味がないらしい。ルルナもかぁ。イケおじ名鑑の貸し借りとかしたかったのになぁ。


お城勤め7日目。ドジっ子ルルナによって、書庫に閉じ込められてしまった。窓から出ようとしたら、ヴィーくんがやってきて隣の部屋まで抱えて連れて行ってくれて助かったわ。


「ここは4階ですよ!?今後は絶対に窓から出ないでくださいね!?」と彼にはすごく叱られちゃった……。


ヴィーくんに鬼の形相で詰め寄られたルルナが「本当にごめんなさいっ!」って半泣きで謝罪していた。


女の子になんて顔してんのヴィーくんたら。ルルナに「いいよ~何もなかったし」って言ったら、またそれも彼に叱られた。うちの護衛が私に厳しい。


お城勤め8日目。またもやドジっ子ルルナによって、本棚の雪崩に巻き込まれるところだった。


本棚の下敷きになるなって思った瞬間、ふわっと風が巻き起こって本棚が止まった。よくわからないけれど助かったわ!


ヴィーくんかと思ったら、お母様に持たされた風魔法の護身用具だった。


またもやヴィーくんがルルナに詰め寄って、今度は泣かせてしまった。そして、書庫に入ってきたアリソンにルルナが泣きつくという恋の予兆が見られた。


なのにアリソンは苦い顔をして、「迷惑かけたならまず謝らないと」と冷静に返していて恋は生まれなかった。お城の中って恋愛禁止なの?ハードモード過ぎない?



お城勤め9日目。もういいかげんルルナのドジっ子にも慣れてきて、私も事前に対策がとれるようになってきた。


お父様の部下に頼まれた資料を運んだときは、ルルナが目的の部屋に行く道を教えてくれたけれど「多分間違っているよね、ルルナだから」って予測して侍女長さんに正しい道を聞いた。やっぱり間違っていた!あぶないっ!


「これ……緊急避難用の地下通路に落ちちゃうわよ?」


「うわぁさすがルルナですね!こんな道を間違って教えちゃうなんて!」


「ちょっと後であの子とは話が必要ね」


「え?大丈夫ですよ、私がちゃんと言っておきますから」


「……あなた状況わかってる?」


「はい?」


侍女長さんはこの道20年のベテランで、とっても厳しい人。だからルルナのドジが見過ごせないらしく、その日は夕方から遅くまで呼び出してかなり叱ったらしい。……なんかごめん、ルルナ!


でもなんか、できない子ほどかわいいっていうじゃない?放っておけないのよねぇルルナって。


そして!いよいよお城勤め最終日がやってきた!


やっとよ!これでフレデリック様のパワハラから怯えなくて済むわ。


午後の早いうちに仕事を終えて、私はみんなに挨拶をして帰り支度をしようとしていた。あとは使用人部屋に行って服を着替えて、少ない荷物を持って帰るだけ。ルルナには連絡先を聞いて、今度一緒にお茶しようって誘うつもりだ。


私がウキウキと廊下を歩いていると、使用人部屋の前でルルナが待っていた。私はにっこり笑って挨拶すると、彼女もにっこり笑って握手してくれた。


「ねぇ、マリー。帰る前に一緒に来て欲しいところがあるの」


ぎゅっと両手を握られていて、なんだか熱烈なお誘いだわ。私はもちろん、頷いて了承した。


私はルルナと一緒に、お城のまだ入ったことがないエリアにやってきた。


ルルナは私の手をしっかりと握っていて、なんだかすごく仲良しさんになったみたい。女子って意味なく手をつなぐ生き物だわね。


「このあたり……」


「え?」


ルルナはある部屋の前で立ち止まると、壁のあたりに手をやって何かを探し始めた。ランプのスイッチでも探しているのかしら。でもまだ明るいから大丈夫だと思うんだけれど?


「ルルナ?」


「……あったわ」


何かを見つけたルルナが、こちらを見た。


「……ルルナ?」


彼女の笑顔がとても冷たい印象がして、背筋がぞくっとした。笑っているんだけれど、目が怖い。私を見ているのか見ていないのか、目は合っているのにその奥が怪しげな雰囲気で私は直感で恐怖を感じた。


「あの……?」


「初めて見た時からキライだったのよ……!何でも持ってて、みんなに愛されていて」


にやりと笑うルルナの顔は、知らない人のようだった。


「なんであんたみたいな女をアリソン様が……ずっと好きだったのに!」


怖くなった私は壁に背を預け、ルルナの瞳をじっと見ていた。あぁ、瞳の奥から憎しみを感じる。友達だと思っていたのに……。


「私がアリソン様をどれほど慕っていたかあなたにわかる?彼のハンカチをこっそり持ち帰ったり、制服のカフスボタンをバレないように盗んだり……大変だったわ」


なんかものすごく思いつめた顔で告白しているけれど、それは#追い人__ストーカー__#っていうものなのでは!?


「ハンカチはとてもいい香りがしたわ」


ひぃゃぁぁぁ!先輩、これは知らない方がいいわ!


動揺がおもいきり顔に出ている私を、ルルナは鋭い目で睨んだ。


「あなたなんてどっか行っちゃえばいいのよ!」


ルルナは、壁がわずかにへこんだ部分に右手の人差し指を差し入れた。カシャン、とどこかで鍵が外れたような音がする。


ん?

何も起こりませんね!?


勝ち誇った表情をしていたルルナが、「あれ?」という微妙な顔つきになった。やっぱり何かあるべきだったみたい。


「そこで何をしている!?」


私たちの間に沈黙が流れていたところに、アリソンが息を切らして走ってくる。


「ア、アリソン様……!」


ルルナは一瞬だけ怯えた表情を見せたけれど、私はとても複雑な気分だわ。今まさに、追い人(ストーカー)被害者が現れたんだもの。


先輩、知らないんでしょうね。いつのまにかハンカチの匂い嗅がれていること……!


あぁ、可哀想に思えてきた。ルルナが告白したことは、私の胸に留めておくわ……!


「マリー?こんなところにいちゃダメだ。早く戻ろう」


アリソンが私の手を引き、その場から離れようとした瞬間。


「だめよ!」


ルルナが私に向かっておもいきり突進してきた。


――ゴンッ!


私はルルナに押されて後ろにあった木製の扉に体を打ち付け、背中と後頭部を強打した。

「ん!!!」


令嬢らしからぬ悲鳴を上げた私は、その場にしゃがみこむ。一緒になってルルナも座り込んでいる。


「っーー!!!いったい!!!」


ぶつけたところが痛くて、じわりと涙が滲む。私は高速で後頭部をさすった。衝撃で胸がドキドキしている。


「なぜ!?なぜ扉が開いていないの!?」


床に手をついたルルナが狂ったように叫ぶ。


ん?扉?そう言われてみればそうね。あまり頑丈そうな扉じゃないのに、私たちがおもいきりぶつかっても開かなかったね。鍵でもかかっているのかしら?


あぁ、とにかく後頭部が痛い。タンコブになっているかも。私はとにかく必死で頭をさする。


「マリー!」


アリソンがすぐに駆け寄り、私の身体に腕を回して強制的に立ち上がらせた。


いや、ちょっと今見てた!?後頭部が痛いんです!お願いだからちょっとだけ待って……!


ワケがわからず、ほぼ抱きしめられるような形でアリソンの顔を見上げた。


ところがその瞬間、ジャラッと鎖の音がした。そしてーー


「主様、こいつどうします?」


「え?ヴィーくん!?なんでルルナを縛ってるの!?」


突然のヴィーくんの声に前を向くと、そこには倒れたルルナを鎖で縛り上げている衝撃的な光景があった。


なんてことしてんだ、女の子に。イモムシみたいになってるじゃないの!


「ここは地下通路の扉だよ。マリーを突き落とすつもりだったんだこの子は」


すぐそばでアリソンの声がした。肩に触れる手にぎゅっと力がこもる。ちょっと、今大事なところだから離れて!


私はぐいぐい彼の身体を押しやるも、力の差がありすぎてまったく身動きが取れない。


え?なに地下通路って。あ、侍女長が言ってた緊急避難用の通路のこと?


「突き落とすって……」


私が唖然としていると、ヴィーくんがあっけらかんと言い放った。


「こいつは主様を妬んでいたんですよ。わざとらしく嫌がらせしていたでしょう?」


「え……?」


「主様が大きな慈悲で見逃してやっていたというのにこの女は!」


「は……?」


「あなたの優しさは人を救うときもありますが、御身を危険に晒すこともあるのです!」


「ちょっと……」


どうしよう。またいい感じに勝手に脳内変換されているわ。私はただ、ドジっ子って可愛いなぁって思っていただけなのに……!


ヴィーくんて、洗脳されやすいタイプなのかしら?もう何をやっても、いいように勘違いしてくれるのね!


もしかして先輩も勘違いを……?


って、うん、それはないわね!ちょっと顔が引き攣ってるわ!ヴィーくんの妄信に困惑しているのね!?わかるわ先輩!私も困惑しています!


「アリソン様っ!あなたを一番愛しているのはこの私、うぐっ!」


私たちがヴィーくんの盲信ぶりにドン引きして動きを止める中、そのご本人は暴れるルルナをさくっと気絶させた。


ほんっとに仕事が早いな!そして容赦ない!さすがプロだわ!


「あぁ、主様、お怪我はありませんか?」


「え、ええ……一応」


「俺は守りには向いていないので……。朝のうちに地下通路への入り口はすべて封鎖しておいたのですが、こんなことになり申し訳ございません!次からは、怪しい者は動きを察知した時点ですぐに#殺__や__#りますんで……!」


「いや、それもうただの殺人だからね?まだ何もしていない人を#殺__や__#っちゃだめだからね!?」


どうしよう、この人の洗脳を解く方法はどこかにないかしら?


呆れたアリソンが腕を緩めた隙に、私はスッとヴィーくんのところに歩みでた。


「ええっと、このことはお父様はご存知で?」


「ええ、もちろん」


知ってるんだ。これはごまかせないわ。


「さぁ、主様。この女の処分はノルフェルト様にお任せして、私たちは帰りましょう」


ヴィーくんはルルナに巻きつけている鎖を、当然のようにアリソンに渡した。女の子を鎖でぐるぐる巻きにして、その端っこをアリソンが持っているというものすごい#画__え__#ヅラにびっくりだわ。


「あぁ、うん。俺も侯爵様から聞いて、それでここに来たからね。この子の身柄はもらっていくよ……」


あ、そういうことなんだ。なんか色々とすみません。


また菓子折りの出番だわ。


「それにしても本当に優秀な護衛だね……。俺の出る幕はなかったよ。マリーに何もなくてよかった」


「あ、ありがとうございます。来てくれて……」


こうして私の出仕生活は終了した。



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