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トゥラン情報

「マリー、昨日大変だったわね」


書庫に着くとルルナがいた。大きな本をたくさん運んでいる。


「まぁね……」


ルルナは私と同じかちょっと高いくらいの身長で、華奢で今にも倒れそうなくらい色が白い。全体的にパーツが小さくて小動物のような守ってあげたくなる系の女子だから、こんなに本を持っていたら助けずにはいられない。


「持つよ!」


「ありがとう」


私は彼女の本を奪い、棚に戻していった。



「あれ?マリーも来たの」


本棚の裏からひょこっとアリソンが顔を出した。手にはペンとファイルのような分厚いものを持っていて、そこに何かを書き込んでいっているようだった。私は愛想笑いをすると、そのまま仕事を続行する。


「そうだわ、マリー。おもしろい資料を見つけたの」


ルルナがテーブルの上にあったファイルを私に手渡してくれた。そこには『トゥラン』の文字があった。私がぺらぺらとそれをめくると、ここ3年分の情報が書かれていて、ついつい私はそれを読んでしまう。


「トゥランの王族っておもしろいわね!マリーはサレオス様と仲が良いんでしょ?どんな方?」


ルルナが興味津々で声を上げる。


「どんなって……かっこよくって優しくて、語るには5時間くらいかかるわね」


「相変わらずの盲目だねぇ」


アリソンが遠くから突っ込んできた。盲目って、私は事実しか言っていませんけれど?


「ふふふ、マリーはサレオス様が大好きなのね!それなのに……」


「え?」


「なんでもないわ」


ルルナがかわいらしく微笑む。私も嬉しくなってへらっと笑った。



トゥラン情報が書かれた資料を見ていくと、サレオスのお兄様について書かれている部分があった。


なんでも、一昨年の春、海の向こうの国・フェローに視察に行ったときに出会った王女様にひと目惚れして、そのまま口説き落として妃にしたんだとか。


サレオスはクールイケメンだけれど、お兄様は情熱的イケメンなのかしら?あ、私の中ではイケメン決定だから。顔は兄弟よく似ているらしいし。


「へぇ……ものすごい求婚ね」


ルルナがびっくりしている。


「10日!?10日離れるのがイヤで求婚して連れ帰っちゃったの?どれだけ好きなのよ」


私は愕然とした。たった10日離れるのがイヤで結婚するって、情熱的にもほどがあるわ。


今は結婚して一年くらいで、王都であるストークスホルンのお城で国王陛下と一緒に暮らしているらしい。


お兄様に会ってみたいけれど、私とクレちゃんが行くのはルレオードだから会えないだろうなぁ。



「あ、でもマリー、トゥランの国王陛下もすごいわよ。こっちのページを見て?」


ルルナが私に別の資料を見せてきた。


「えええ!?留学中に連れ帰ってきちゃったの!?うちに留学していて、その後また北の国に留学して……そこの侯爵令嬢を拉致って」


「う~ん。相思相愛ではあったみたいだから、拉致っていう表現はちょっと合わないかもね」


「でもおもいきり拉致って書いてあるよ?」


「それはアガルタから見た印象だから……」


私とルルナが仕事をそっちのけでしゃべっていると、アリソンがこちらにやってきた。


「トゥランの王族は代々みんな情熱的なんだってさ。有名な話だよ?惚れたらとことん離れられないって」


え。なにそれ。血筋なの?無自覚イケメン攻めが血筋なんだろうなっていうのは、叔父様とサレオスを見ていたら存分に感じるんだけれど……。


はっ!?そういえばクレちゃんが、「叔父様から毎日お手紙が届いて、もはや詩集でも定期購読してるんじゃないかって思うくらい」って言っていたわ!やっぱり情熱的な一族なのよ!


ってことはサレオスも?


私の疑問が顔に出ていることを読んだアリソンが、笑いながら言った。


「もちろんサレオス様もそうなんじゃない?」


「そんな……」


これはとんでもなくショックな事案だわ。キスされて浮かれていたけれど、彼にとっては何でもないことだったのかも……。


だって好きなら離れられないんでしょう!?私なんて冬休みに入ってもう10日くらい離れちゃっているわ。


なんてことなの!?この先、サレオスが誰か別の人と運命の出会いをしたら、私のことなんて忘れちゃうってことでしょう!?


あああ……ショックで膝が震えるわ。でも仕事しなきゃ……。あぁでもサレオスが……!


あのキスだって、私にしてはもう結婚してくれないと困るくらい心を乱されたわけなんだけれど、そこは価値観とか文化の違いがあるのかもしれないわ。


『キス?したか、そんなもの?』


まさか……まさか忘れていたりしないわよね!?そんなひどいこと言わないわよね!?


『キスしたくらいで結婚など……大げさだなマリーは』


あわわわわ、これはあり得るわ。もしサレオスにとっては、キスなんて私たちの感覚でいう手を繋いだ程度だったとしたら。


さすがに私も手を繋いだくらいで結婚を迫られたら……恐怖よ。サレオスなら大歓迎だけど!


震えるほど不安だわ……!でも、それなのにファーストキスがサレオスで嬉しいと思ってしまう私って本当にダメな子ね!!!


「マリー大丈夫!?」


ルルナが隣で心配そうに見つめている。


「大丈夫よ、多分。まだ。多分ね」


何とか正気を保って、私は資料の片付けや頼まれていた資料の確保を行った。あんなもの見なければよかった、と後悔してももう遅い。その日は何とか仕事を終えたものの、帰りの馬車でエリーに心配されるほど私は挙動不審だったみたい。


「マリー様、また何かあったのですか?」


エリーが心配して声をかけてくれる。またって……。人をトラブルメーカーみたいに言わないでよ。


「大丈夫よ」


「あまり大丈夫そうには見えませんが」


言えないわ。この先、サレオスに運命の人が現れるかもしれないなんて!口に出したら本当になるっていうもの、絶対に口に出してなるものですか!


「サレオス様が浮気するかもって心配してるんですよ、主様は」


天井裏ですべて聞いていたヴィーくんが、あっさりとエリーに向かって虚偽を伝える。


「そこ、間違っているから。浮気じゃないから。運命の恋だから」


「は?」


エリーが首を傾げる。


「サレオス様が?誰と運命の恋をするんです?」


「だから……」


私は今日見た資料の話をかいつまんで話した。情熱的な一族だから、いずれサレオスも運命の恋をしてしまうかもしれないと。


「私なんてっ……!私なんてしばらく会えないのに!きっとサレオスは自分の国で私のことなんて忘れて過ごしているんだわ。淋しいのは私だけなのよ!」


ぐったりとうなだれた私は、きっと今一番うっとおしい女だろう。泣き言なんて言ってもどうしようもないのに、エリーが慰めてくれるから愚痴が止まらないわ!


「あぁ!私がこんなことしている間にも、キレイな女の子に囲まれているかもしれないわ……。淋しいなんて微塵も思ってくれないのよ!」


「またそんなに勝手な想像して……。大丈夫ですよ、マリー様」


エリーが私の肩にそっと手を置いて優しく宥めてくれる。


「どこが?何が大丈夫なの?」


「とにかく、大丈夫ですから……きっとサレオス様も淋しがっておられますよ?」


「ぐすっ……そうかしら」


「ええ、そうですよ。だってテルフォード領に帰っていたときは、淋しかったって言ってくれたんですよね?」


はっ!!!そうだったわ!私ったらすっかり忘れていたわ!あのときはぎゅってしてくれて……。


『俺も淋しかったよ』


きゃああああああ!思い出しキュンがすごいわ!サレオスったら離れていてもキュン死に追い込んでくるなんておそろしい人!



「あの、主様はどうされたんでしょう?」


「うん、大丈夫なんだ。マリー様はこれが通常モードだから」


ヴィーくんが動揺しているけれど、私はそのまま両手で顔を覆って悶えていた。


はぁ……思い出しただけでキュンが押し寄せたわ。まだしばらく会えないなんてどんな拷問なの!?妄想と思い出でやり過ごさなきゃ。


「そういえば、クレアーナ様がマリー様にとっておきのドレスを用意してくださるとおっしゃっていましたよ?」


「ドレス?」


クレちゃん、どうしたのかしら。トゥランに着いたら、2日目に歓迎パーティーを開いてくれるっていうのは知っているけれどそのドレスかしら?


「楽しみですね、マリー様」


「ええ?そうね!クレちゃんだもの、きっと完璧な作戦が立てられているに違いないわ。あ、ヴィーくん。ヴィーくんもトゥランに行くけれど、クレちゃんは私の親友であり女神であり賢者であり……なんていうか大事な人だから、何かあったら絶対に守ってね!」


「かしこまりました」


ふふふ。思い出しキュンでいっぱいになっている間に、何だか楽しくなってきたわ!ああ、早くクレちゃんとサレオスに会いたい。


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