うちの暗殺者がまじめすぎる
私は護衛になったヴィーくんを連れ、翌日からもきちんと仕事に向かった。
やたらとキラキラした細身のイケメンなので、どこのバンドマンですかと問われないかしら。そんなどうでもいい心配事が生まれていた。
お父様は彼を見るや否や「娘に指一本触れるなよ!」と警告していたけれど、もうすでにお姫様抱っこされちゃったのよね。言ってないけれど……。
だいたい適当に笑って濁せばいいのに、「緊急時には触れますのでお約束できません!」って答えちゃうもんだから、お父様との不毛なやりとりが長く続いたわ。
なんなのこの人、本当に暗殺者なの?どこかの軍人じゃないの?真面目が過ぎるわ。
それに、どこの中二病かと思う呼ばれ方もつらい。
「主様」
「それ……やめてくれない?普通にマリーって呼んで欲しいわ」
「いけません。俺にとっては生涯たったひとりの主ですから、お名前で呼ぶなど!」
「ただ名前で呼ぶだけじゃないの……あなたの基準がよくわからないわ。だいたい生涯ひとりって重いから!もっと気楽に生きて!うちは転職オッケーだから!」
「転職!?初日から捨てないでください!ちゃんと殺りますんで!」
どうしよう、会話が通じない。落ち着かないわ……。エリーはにこにこ笑っているけれど、私はちっとも楽しくない。
そもそもなんで仕事に行くのに暗殺者を連れ歩かないといけないのよ。命を狙われるような予定もないのに。過剰防衛だわ!
「あぁ、主様。今日もとても可愛らしいですね。この世のものとは思えない、天使のようだ」
「それはどうもありがとう……」
この挨拶代わりに褒めてくるのもうっとおしい。天使なんて見たことないけど、朝からこんなに叫んでる天使は多分いない。
サレオスに言われたらキュン死にするけれど、護衛からのお世辞なんて嬉しくもなんともない。言わせてる感じしかない。それにあなた踊り子が好みなんでしょ!?
はぁ……。
でもあと5日がんばれば、お城勤めも終わり。クレちゃんの領地に行って、そこからサレオスに会いに行けるんだもの!護衛にメンタルを削られている場合じゃないわ。何事もなく勤め終えてみせるわよ!
ところが朝からフレデリック様が私を待っていて、昨日のことを謝罪されてしまった。
「昨日は話の途中であんなことになって……すまなかった」
え?そこ!?
話の途中でっていうか、あなたが私の手にキスなんてしたからレヴィンがバズーカを……ってだめだ、この話を深堀しない方がいい。うちの暗殺未遂は何としても隠さなければ。お父様だって半眼でどこか遠くの方を見つめているわ。
そりゃ言えないわよね……「昨日あなたを狙った犯人はうちの息子でした」なんて。
お父様は「いや、てっきり小型のものを持っていくと思っていたんだ……」と言っていたわ。まさかなかなか大きめのバズーカを持っていくとは思わなかったらしい。お城の警備、どうなっているの?
フレデリック様は私に謝罪だけして、すぐにヴァンに連れていかれてしまった。めっちゃ忙しいらしい。
何でもフレデリック様が運営を任されている領地で、長雨による増水で橋が何本も流されてしまったらしい。それに関して被害状況をまとめたり、予算をどこかから持って来たり色々やらないといけないことがあるんだそうな。
国民のためにがんばってください王子様!
「さてと、お仕事をしますか」
私はいつの間にか天井裏にいってしまったヴィーくんをいないものとし、書庫へと向かった。




