拾いました
城から近いタウンハウスの一室。ここは普段、お父様が生活の拠点にしている邸で、私たちこどもの分の部屋もそれぞれに用意されている。
3階の一番手前の部屋が私の居室だ。
「ん……?」
目を覚ましたとき、私のそばにはお母様とレヴィン、リサがいた。
「マリー、起きたのね。もう夜中よ?」
「お母様……」
私は上半身を起こし、ベッドの上でクッションにもたれて座った。お仕着せから厚手のパジャマドレスに着替えさせられていた。
リサがそっと背中をさすってくれる。
「話はレヴィンから聞いたわ」
はっ!そうだレヴィンよ!
「ぷっ……!いくらなんでもフレデリック様にバズーカ撃っちゃだめよ」
お母様は一応という感じでレヴィンを叱るが、完全に声も口元も笑っている。楽しんでいるのねお母様!
「あはははは。今日はたまたま、姉上を見張ってろって父上に言われてさ。父上もそろそろフレデリック様くるなって思っていたんじゃない?」
勘が良すぎでしょう、お父様!
「ちょうど威力調整の機能を取り付けたところだったんだよね~!姉上のそばなら撃てるかなって思ってたら、本当に撃てたよ。よかったぁ!」
私は額を手で抑え、瞳を閉じた。何この子、だいたいどこから撃ったの?パワーゲージがゼロになるほど、最大の威力で撃つ必要なんてあった?
破壊神に向かって爆走する弟が恐ろしい……!
ん?
そういえば何か忘れているような。私が部屋を見回すと、端っこの方で椅子に座っている紫色の髪の人がいた。ものすごく居心地が悪そうだ!
「あのっ!怪我は治りましたか!?」
私はうちの犯罪をなかったことにしたい一心で尋ねた。
「あなたはっ……自分のことより俺の心配を!?」
「いや、そうじゃない」
「「あはははははは!!!」」
私はお母様とレヴィンの顔をちらっと見るが、ふたりとも爆笑していた。いやいやいや、あなたたちも当事者だからね!犯人とその親だからね!?
まだ笑いが収まらないお母様が、彼について説明してくれる。
「ひぃー……マリーちゃん最高ね。大丈夫よ、証拠隠滅はもう済んだの。あ、彼はヴィンセントくん22歳ね!」
「はぁ……ヴィンセントさん」
彼はゆっくりと私のベッドサイドに近づき、なぜか椅子に座らず片膝をついた。
「ヴィンセント君は、テルフォードで雇うことになりました!密使、暗殺、諜報、なんでもありの仕事人です!」
はぁぁぁぁ!?なんですって!?どういうこと?被害者を雇うってなんで!?
「彼はねぇ、フリーの暗殺者なのよ~。それでお城にいたんだけれど、マリーちゃんに恩義を感じでぜひ仕えたいって」
ちょっと待てぇぇぇ!どこに恩義を感じる部分があったの!?あなたが怪我したのはテルフォードのせいなのよ!?
私は衝撃のお知らせに、目を見開いてヴィンセントさんを凝視した。
「あのとき、どこからどう見ても怪しい俺を……あなたは迷わず治療してくれた」
うん、だってヤッたのうちだからね。そのキレイな顔が傷つかなかっただけでもよかったわよ。
「そして植物にまで心を配るその優しさ!清らかな心に……俺は守るべき人を見つけたと思ったんだ!」
うわぁぁぁぁ。壮絶な勘違いを……。
「あはははははは!!!」
私は白けきった顔で、床に転がるレヴィンを見た。笑い死にそうになってるよこの子!
「見る目はあるとしても……マリー様に恋心など抱かないでくださいね」
リサがなぜか高圧的にヴィンセントさんに忠告する。いや、見る目ないよこの人!?完全に誤解したまま忠誠誓っちゃってるよ!?
「まさか!主として忠義を尽くすまで!決してそんな邪な目で見たりはしない!」
何この人、コントかと思うほどの真面目ね……忍び?侍なの?髪の毛が紫なのに???
「それに俺の好みは踊り子系のセクシー美女だ」
「なら安心です」
こらぁぁぁぁ!そこで納得するなぁ!
「いいじゃない、マリーちゃん。ヴィンセントくんね、ちょうど南の国との契約解除の時期だったらしいの!きっとこの先、マリーちゃんを助けてくれるわ!」
「お母様……なんでそんなに楽しそうなんですか!?」
「うふふふふ。いい駒が手に入ったわ」
駒!?駒って言ったよ!
「それじゃ、ヴィンセントくんは明日からマリーちゃんの護衛ね。お仕事中は陰ながら見守って、ついでに諜報活動もお願いね」
「かしこまりました」
お母様は手にぴらぴらと書類の束を持っていた。どうやらすでにヴィンセントさんは契約済みらしい……。
「あの……ヴィンセントさん」
「ヴィンセントと、もしくはヴィーとお呼びください主様」
うわぁぁぁぁ!イケメンがにっこり笑っているー!好みじゃないけれど、ハンパない破壊力だわ!よかった、好みじゃなくて!
「ヴィーくん。ええっと……」
何を言えばいいんだろう。私は盛大なため息を上掛けに向かって吐き出した。
「よ、よろしくお願いします」
「お任せください。なんでも#殺__や__#ります」
「……殺らないでね?」
よくわからないけれど、#暗殺者__アサシン__#拾いました。
あぁサレオス。
おかしな人が増えたわよ。早くあなたに会いたい……。
くすん。




