証拠隠滅は全力で
森林の奥にやってくると、やはりところどころ木が焦げているのが見えた。レヴィンに魔法で水をかけてもらったから、何とか火事にならずに済みそう。
「ねぇもう帰ろうよ。試射の結果をまとめて改良したい」
「試射!?あなたやっぱり撃ちたいだけだったのね!?わかってたけど!」
「あれ?姉上、なんか落ちてる」
レヴィンが指差した方向には、真っ黒な何かの長い塊があった。人が倒れているように見えなくもない。
「ひっ!?焦げてる!?」
私はすぐに駆け寄り、生きているかの確認をしようとした。ところが膝をついたとき、パッと起き上がったその人に腕を掴まれてしまう。
「え……?」
「はぁっ……はぁっ……お、女?」
生きていた、というか黒焦げではなく黒ずくめの男の人だった。頭を覆う布が破れ、紫色のキレイな髪がいくつか落ちている。
年は少し上かしら、20代前半くらいに見えるわね。瞳が紅い……、めずらしい容姿だけれどキレイな顔。
私はしばらくその人と見つめ合っていたけれど、彼が肩を怪我していることに気づき、すぐに回復魔法をかけた。
「何をっ!?」
「暴れないで!じっとして!」
私は必死だった。レヴィンが撃ったバズーカの証拠を消すために……!もしこの人が被害を訴えでもしたら、間違いなく#テルフォード__うち__#は負けるわ!だってバズーカ撃ったんだもの!
「回復魔法……!?俺なんかを治してくれるのか……?」
これは治療に見せかけた証拠隠滅である。治してくれるもなにも、やらかしたのは#弟__こっち__#なんだから治すしかないわ。
「あははは……。生きてくださいね、寿命まで」
私はドキドキしながら、一生懸命に彼の怪我を治した。
「おまえ……俺が怖くないのか?」
「……」
いや、怖いわ。訴えられたら困るもの……!
あぁ、もう!治りが遅い!
止血が済んだら、今度はポケットにあった例のどす黒い薬をおもいきり擦り込んでやった。彼はやはり薬の見た目にびびっていたけれど、私が逃すはずもなく強制的に塗り込んだ。
「あ……痛くない」
彼は腕を回し、怪我が治ったのを確認している。
「姉上?早く帰らないとバレるよ?」
「誰のせいだと思っているの!?」
レヴィンが他人事のように言い放つから、私はおもいきり叫んだ。
「す、すまない。俺のせいで」
ちがーーーう!あなたはただの被害者!悪いのはそこのレヴィンよ!はっ、ちがう、フレデリック様だわ!でもそんなこと言っている場合じゃない。
「まだダメよ!木も元に戻さなきゃ帰れないわ!」
私は焦げた木の幹に手をかざし、回復魔法をかけていった。木も生き物なので、組織が死んでさえいなければ治すことができるのだ。
紫の髪の人が呆気にとられてこちらを見ている……!証拠隠滅をばっちり見られちゃってる!
でもそんなの気にしていられないわ!こっちは証拠隠滅で忙しいのよ!
幹を回復し終わった私は、ただでさえ少ない魔力をほとんど消費してしまった。ふらつく意識をどうにか保とうと頭を振ると、紫の髪の人が私の両肩を支えてくれる。
「俺が運ぼう」
え?被害者に運ばれるの?加害者が!?あなたうちの弟のバズーカで怪我したのよ!?
「そんなわけには!」
私のお断りが聞こえていないのか、彼はさっと私を横抱きにして一瞬で抱え上げてしまった。
嘘でしょぉぉぉぉ!?サレオス以外にお姫様抱っこされるなんて……!?呆然とする私に構わず、レヴィンは彼と共に馬車のある方向に走り出してしまった。
えええ!?なに!?何でこんなことになっているの???
そしてすごい揺れているわ!気持ち悪い!
私は知らない人に抱えられたまま、魔力切れによる酔いと頭痛で意識を失った。




