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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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王子様の片想い

出仕2日目。私の仕事は簡単なものだった。お父様や部下の方々がまとめた書類を決められた場所にしまったり、お茶を淹れたり、書庫の整理をしたり、そんなことをしているうちに1日が過ぎていく。


お父様は、会議のとき以外はずっと私をそばに置こうとするから困ったものだわ。これじゃあ私は迷惑をかけにきただけじゃない。


とはいえお父様から離れると、突然顔を出したフレデリック様に拉致されかけるから気を抜けない状況だった。


でもフレデリック様も忙しいらしくて、外務担当室に来てもすぐにヴァンや従者の人に連れ戻されるから大丈夫そうね。


「マリーも大変ね~」


同じく侍女になったばかりのルルナが、フレデリック様を見て呆気にとられてそう言っていた。


1つ年上の17歳で、学園ではクラスは違うけれどアリソンと同じ学年だと言っていた。




出仕3日目。この日はアリソンと一緒にお昼を食べた。「本当に美味しそうに食べるね」と言われてしまい、困ってしまう。太ることが心配になってきたわ。サレオスに会うまで、体重管理を意識しなければと気を引き締めた。


そこにノルフェルトのおじさまがやってきて、あまりのイケおじ感にキュンときた。アリソンより濃い青色の髪に白のメッシュが入っていて、目尻のシワがたまらなく素敵だったわ。


「大きくなって……!とても可憐なお嬢さんに成長したね、マリーちゃん」


「まぁ、ありがとうございますおじさま!」


「うちの愚息をよろしく頼むよ。昔から根性がなくてね……」


おじさま、あなたのスパルタがおかしいだけですわ。私はふふふと笑って濁したけれど、雷のトラウマから考えるとアリソンに同情する。


「おじさまは相変わらず素敵ですね!」


「嬉しいよ。いつでもアリソンのお嫁においで」


「やだわおじさま、そんな冗談!お父様が聞いたら激怒しそうね。ふふふ……」


わざわざ食堂まで私のことを見にきてくれたイケオジ宰相様は、笑顔で手を振って帰っていった。



その後アリソンが「俺、将来あんな感じになるよ?」と言ってきたので想像してみたら、ちょっと筋肉が足りないわねという評価になった。鍛えるよ、と言い出したので止めた。



出仕4日目。とうとうフレデリック様に捕まってしまう。この生活に慣れてきて、ウキウキと仕事帰りに歩いていたのがいけなかった。


ルルナの話がおもしろくて、しばらくふたりでおしゃべりしたのがいけなかったんだわ。


フレデリック様ににっこり微笑まれ、庭園を散歩しようと言われれば断ることなんてできない。王子様のパワハラがすごい。お父様が会議でいないことを知っての行動のようだわ。


夕暮れの庭園は、冬に咲く赤と白のユリの花がたくさん咲いていてとてもキレイだった。王族専用の庭園なんて初めて入ったわ。


奥の方は森林のようになっていて、滝や池もあった。フレデリック様がたまに訪れる場所らしいわ。


「ゆっくり時間が取れなくてごめんね?いつも一緒にいられればいいんだけれど」


「お構いなく。楽しく働いていますので」


結局、何の用なのかわからないまま散歩は続く。何か言いにくいことでもあるのかしら?


さりげなく要件を尋ねても、「ただ一緒にいたかったんだ」と無理がありすぎる嘘をつかれてしまう。


もしや、サボりたかっただけなのかしら。フレデリック様、忙しそうだものね。たまには休憩したいよね。


私はひとり頷きながら、現実逃避のお散歩をしたがるフレデリック様について歩いた。


森林の中ほどまで来たとき、フレデリック様が突然振り返って近づいてきた。私は怖くなって一歩下がるも、ぐいぐい近づいてくるからさらに下がった。


「あの……フレデリック様。近いです」


「マリー。私の目を見て」


ええっとこれは前世で噂を聞いたことのある、壁ドンならぬ幹ドン?ですかね。大きな木の幹に背中をピタッとつけた私は、フレデリック様の意外にがっしりした腕が顔の横にあり、逃走を許されない状況だ。


ものすごいパワハラだわ……。恐怖しかない。しかも視線を逸らしていると、目を見ろと言われた。洗脳でもする気なの……?


おそるおそるフレデリック様の顔を見上げると、切なげに瞳を揺らしたキレイな顔があった。


「フレデリック様?」


お腹でも痛いのかしら……?この体勢はパワハラかと思っていたけれど、しんどくなってもたれているだけなのかしら?


ちょっと心配になった私は、フレデリック様の名前を呼んだ。


「マリー……。想い人が自分以外の男を好きになってしまったときは、どうすればいいんだろうか?」


え!?このタイミングで恋バナ!?ってゆーか、フレデリック様ったら好きな人ができたの!?


それでいて、その方は他の人が好きなの!?えええ、見た目だけは完璧王太子のフレデリック様でも、好きな人には好かれないんだ。本当に、現実って無理ゲーってやつなんだなぁ。


「どうすれば振り向いてくれるの?ちゃんと恋をしたことがないからわからないんだ。教えて、マリー」


どうしよう。初めてお友達として頼られているわ。でも答えがわからない。


「そうですね……。振り向いてもらう方法、ですか。えええ……それは振り向かせたことがある人に聞いてみないことにはなんとも言えません」


「私はマリーの意見が聞きたいんだ」


うわぁ、どうしても今答えが知りたいのねフレデリック様!そういう短気なところがダメなのに……。


「告白して振られてしまったら諦める、ではダメですか?もしくは諦められないなら、気が済むまで好きでいるしかないんじゃないでしょうか?」


うん、だって好きな気持ちはどうしようもないもの。私だってサレオスに万が一好きな人ができたとしても、じゃあやめるってできないわきっと。ずっと好きでいるんだろうなって思う……。


「振り向いてくれる可能性はある?」


えええ、そんなこと聞かれてもわかんないよ。その女の子のこと知らないし……。可能性、可能性ね?うーん。


「私にはわかりませんが、純粋な気持ちで好きになってもらって嫌がる人はいないと思いますよ?気持ちが動くかどうかはわかりませんが……」


王子様の初恋かぁ。なかなか前途多難よね。結婚が絡んでくるし、しかも王太子妃だもんね。よかった、私がフレデリック様を好きじゃなくて。苦労する未来しか見えないよ。


「気持ちが、動く……その可能性はゼロではないな。マリー、私は君のためにがんばってみるよ!」


ん?私のため?


あぁ、好きな人を振り向かせて結婚して、私を婚約者候補だっていうデマや嫌がらせから救ってくれるってこと?


「え?あ、ありがとうございます」


よし、まったくアドバイスはできなかったけれど、フレデリック様がやる気を見せているからよしとしよう。


私たちはにっこりと微笑み合い、かつてない平和な話し合いがなされた。


と、思っていたのに。


「あぁ、マリー。このまま帰したくないな」


フレデリック様が流れるような所作で、私の右手をふいに持ち上げた。そしてあろうことか、私の指先に唇を押し当てたのだ。


「ひっ……!?」


帰したくないって、このまま夜まで恋バナですか!?それならそうと、普通に誘ってくれればいいのに!断るけれどね!?


ってゆーか、なんでそんなに自然にキスするの!?信じられない!!!こういうのは好きな人にしかしたらダメよフレデリック様!


私は顔面蒼白で、絶句した。嫌すぎて手が震えている。脚もガクガクしはじめた。


き、緊急体制レベル2……かもしれないわ!命に別状はないけれど、とにかくやばい状態だもの。

今にも気絶しそう!


ところがその瞬間、私たちの間に鋭い閃光が突き抜けた。


ーードォォォォン!


「「なっ……!?」」


すぐさま護衛がわらわらと走ってきて、フレデリック様は緊急避難指示を出す。私はわけがわからず、ヴァンによって保護された。


「ヴァン!マリーを頼んだぞ!」


フレデリック様は私の頭を撫で、護衛たちと共に犯人を追うために駆け出した。


ゾワっとした。なんてことなの、こんなに心に響かない無自覚イケメン攻めがこの世にあるなんて……!


私は自分の体を抱えるように抱きしめ、身震いした。



「マリー様!今すぐに避難を!」


「はっ!?さっきのはまさか……!」


私はヴァンに守られてすぐにその場を離れた。でも、あの閃光の元を私は知っている……!


(レヴィンだわ!あれバズーカの……!)


だ、大丈夫かしらレヴィン!?捕まったりしないよね!?あれ絶対、私がフレデリック様に襲われていると思って撃ったのよね???


私がオロオロしていると、まさかのまさかでその本人が颯爽と駆けてきた。


「姉上!たまたまお迎えにきたんですがどうされました?」


いやいやいや、どう見てもあなた背中にバズーカ背負っているわよね!?パワーゲージのランプがゼロになっているわよ!?おもいきり魔力切れで点滅しているわ!


え!?なんで誰も反応しないの?はっ!そうか、バズーカを見たことないんだみんな!!なんてことなの、完全犯罪が出来上がっているじゃないの!


「どうされましたって……!?」


なにその、えへっていう顔。王太子にバズーカ放っておいて、イケメンに限るはさすがに通用しないわよ!?


私はヴァンに、レヴィンがいるから大丈夫だと言ってすぐにさがってもらった。「フレデリック様の護衛でしょ!」と言って、強制的にバイバイしたのだ。



そして、レヴィンを連れて、バズーカの閃光が放たれた方向に向かう。もし誰かがケガをしていたり、森林火災みたいになっていたりすると怖すぎるもの!証拠隠滅できるならしなきゃ……。


テルフォード家を暗殺一家にしないために、私は走った。


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