お勤めです2
外務担当室に到着してすぐ、私はお父様に連れられて広すぎるフロアを見て回っていた。
「室」っていっても、城の一角を占拠しているといっていいほど広い。四階はすべてお父様たちの管轄らしく、10日間なんかでは何がどこにあるか覚えられないだろう。
お父様と一緒にいるせいか、いろんな人にじろじろと見られてしまう。
「あぁ、メアリー様が来られたのかと思った。何て美しい……!」
「まったくアラン様に似ていないな……」
「今でも覚えているよ。『あんた今すぐ死んできなさい』って言ってもらえたのを!メアリー様、我が女神……」
「ほんと、メアリー様にそっくりだなぁ」
何人かがそんなことを呟くのが聞こえた。いくつかは聞き流すことにする。
確かに、お父様に似ていないとはよく言われる。私の外見は、ほぼお母様とおばあ様の遺伝子で構成されているらしい。
「あぁ、マリー。急いで仕立てた甲斐があった。メアリーの昔を思い出すよ」
お父様は、新しい侍女服を見てご満悦だった。首元のあたりはレースになっていて、全体は紺色でうっすらと花模様があしらわれている。腰に大きめのリボンがあり、王妃様も「あら、新しい制服かわいいわね」と言っていたらしい。
侍女長によれば「前のがおそろしくダサかったんで」とのことで、私が来ることで制服が一新されてみんな喜んでいるんだとか。上司の娘が働きにくるなんてみんなにとっては悪夢だろうなと思っていたので、まさかの好感触でびっくりだわ。
でも。外交関係の資料がある部屋にやってくると、そこには脚立に乗って本を手にしているアリソンがいた。
お父様と同じ、外務専用の黒い制服を着ている。なんだろう、お父様が着ているときは何も思わなかったけれど、若者が着ていると学ランっぽいデザインに感じるわ。
「先輩、なんでここに!?」
「なんでって、卒業までは1ヶ月ごとに城の各部門をまわって研修だよ?今日からよろしくね、マリー」
「気軽に娘の名前を呼ぶなぁぁぁ!」
「あ、侯爵様、どうもすみません」
お父様が禿げそうなほど怒っている。血管がプチッと切れたりしないかしら……!?
そもそもお父様が私のことをここに配属するより前に、アリソンの研修は決まっていたはず。どう考えても彼に非はない……。お父様の八つ当たりが過ぎるわ!
「いいか!?絶対に、絶対にマリーに手を出すなよ!指一本、触れることは許さんぞ!何かしたら速攻で前線の基地送りだからな!」
「あははは、気をつけまーす。俺、完全に防御系なんで前線に送られたらすぐ死んじゃいますよ」
お父様は私を隠すようにして、急ぎ足で書庫を去った。
連れ去られた形になったので、試験勉強を助けてもらったことのお礼が言えなかった。またそのうち会うだろうし、まぁいいか。




