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お勉強

学園祭が終わり、早くも次の試験が迫っている。


ううっ……でも実は私、まったく集中できないままここ数日を過ごしているんですよ、そうなんですよ、はい。


学園祭で色々あったし、パーティーではサレオスとダンスできた。あのときの彼がかっこよすぎて……ふわっふわした気持ちが抜けなくて!


それに。苦手教科がヤバすぎる。基礎教科は万全なんだけれど、魔法理論が暗礁に乗り上げているのだ。


そもそも魔力の波動とか循環とか、そういう類がまったくわからない。先生は「聖属性だからねぇ」と笑っていたけれど、なんで聖属性なら理論がわからなくて当然なのかもわからない。


サレオスに聞いてみたら、なんか危険そうな紫色の光を手のひらに出して説明しようとしたから怖すぎて遠慮した。バチバチ鳴ってたし、あれ一体なに!?



そんなわけで私は毎日のように、空き時間や放課後は図書室で勉強に励んでいる。それなのに……!成果のなさに泣きそうだわ。



6人掛けのテーブルを占拠し、それらしき本を山積みにした私はまるで受験生。でも、この本たちが役に立つ日はこないような気がする。


そろそろ休憩でもしようかしら、と思っていたところ、上の方から明るい声が聞こえてきた。


「マリー、表情が冴えないね。どうしたの?」


#衝立__ついたて__#に腕を乗せ、こちらをのぞきこんでいるアリソンがいた。なんだか久々な気がするわ。


今日もムダにキラキラしている。私は魔法理論がわからないストレスでやや肌荒れ気味なのに……!


彼の白くてツヤツヤの肌がうらやましいなと思ってぼぉっとしてしまった。


「マリー?」


はっ!話しかけられていたんだった。


私は慌てて「何でもないです!こんにちは!」と言い視線を逸らした。


「どこがわからないの?」


自然に向かい側に座ったアリソンは、広げていた私のノートや本をペラペラとめくる。私は諦めモードというかやさぐれているので、「全部」と適当な返事をした。


「あぁ~魔法理論か。マリーは根本的に魔力の波っていうものがわかっていないんじゃない?」


「波?」


アリソンはニコッと笑うと、本を閉じてノートにさらさらと絵を描きはじめた。


「魔力は無意識のうちに身体から放出されているんだけれど、人によってリズムが違うんだ」


音楽みたいなものだよ、と言いながら丁寧に説明してくれる。


「火、水、風、土とか色々属性はあるけれど、聖属性以外はすべてこのリズムが規則的でね。マリーは魔力が少ないから、他人のそれを感知できないんだろう?」


「はい……だから波動とかいわれてもさっぱりです」


「魔道具の多くは、リズムを乱したり消したりすることで攻撃するから、そもそもリズムがほとんどない聖属性持ちには効かないんだよ。聖属性持ちは探知されにくいっていう特徴もあるね」


そうなんだ……。あれ、でもサレオスは私の魔力が乱れたって見つけてくれたのに?


「私、探知されましたよ?」


「フレデリック様かサレオス様じゃない?」


「そう!サレオスです」


アリソンは、彼ならね~という。何、どれだけ天才なの?


「多分、彼はマリーの魔力の特徴を覚えていて、微量でもわかるんだろうね。探すときは、自分の魔力を全方位に飛ばして、マリーのイメージで跳ね返ってきた方向に目星をつけるんじゃないかな……ってこのあたりは絶対に試験に出ないよ?」


うわぁ、そんな難しいところは求めていません!私は今、単位がもらえるだけの知識が欲しいです!


「こっちの本のここと……あとはこれ、それから……」


アリソンは素早く本を仕分けしてくれた。私はただ、それを必死でノートに書き写していく。ひとりで悩んでいたのが嘘みたいに解決していくわ!


「まぁこの範囲だけでもやっておけば、満点は無理でも及第点は取れると思うよ?」


「ありがとうございます!」


私はそこから必死で知識を詰め込み、黙々と勉強に励んだ。だから「やりきった!」と思って顔を上げたときに、まさか目の前にアリソンがいると思っていなかった……!


しかもあったかい紅茶まで手に持っている。にっこり笑った彼はそれを私に差し出した。あれ、一回どこかに行って戻ってきたってこと?まったく気づかなかったわ……。


え?ここ飲み物いいの?

私の無言の質問に、彼は自分の珈琲を飲むとふっと笑った。


「この自習スペースは大丈夫なんだよ」


「あ、ありがとうございます……」


私はおずおずと差し出された紅茶に口をつけた。あったかい……おいしい。ここのところストレスが溜まりすぎて、落ち着かなかったからなぁ。つい頬が緩む。


「マリーはまじめだね。疲れない?」


「疲れますよ。でも勉強はしなきゃ」


そもそも病弱設定でしたからね!身体も弱くて頭も……ってなったらちょっとお嫁の行き先がない。病弱に関しては完全に嘘だし。


「俺みたいにふらふらしないところがマリーのいいところだけど、がんばりすぎはよくないよ?」


「ふふっ自分で言いますか?それ。先輩はふらふらしすぎなんでマネできませんよ」


「もうふらふらしていないよ?だいぶ時間はかかったけれど、みんなきれいに別れたんだ」


「……みんなって表現するほど相手がいたんですね!?」


「うわぁそっちに食いついた?うーん、これはどう転んでも俺の好感度は上がらないなぁ。別れたって部分に興味を持ってくれない?」


アリソンは相変わらず色気ダダ漏れで、つい見惚れてしまうほどの笑顔を浮かべている。私にとっては「シーナが見たら喜ぶだろうな」という感想しか出てこない相手なんだけれど……。


あ、そういえばローザ先生だわ!みんなときれいに別れたなら、ローザ先生に本気でアプローチしたらどうかしら。


「あの、ローザ先生のことなんですが」


「ハイムス先生?」


「はい。本命のローザ先生を口説きに行った方がいいと思うんですよ」


「ええーっと、本命とは?」


あれ、だってずっと好きだったんでしょう?同じ愛称の私を好きだと勘違いするほどに。私は首を傾げて、アリソンとしばらく無言で瞳を合わせていた。


「あ~勘違いしてるね?別に俺はハイムス先生を本気で好きだったわけじゃ……ってマズイな、これもあんまり深く説明すると墓穴を掘るな」


アリソンは額に手を当てて、視線を落として何か考えごとをしている。私は紅茶をいただき、のんびりと彼の答えを待っていた。


あぁ、紅茶がおいしい。


「マリー。もう詳しい説明は省くけれど、俺はハイムス先生のことを好きだったわけでもないし、今も好きじゃない。今はマリーだけだよ?」


え、そんなこと言われても。私はサレオスだけですし。


「うん、心の中の声が顔におもいっきり出ているね……。まぁそれがマリーのかわいいところなんだけれど、そこまで露骨だと傷つくなぁ」


ちょっとだけ悲しそうな顔をしているアリソンだけれど、そこまで傷ついている感じでもない。やっぱり私のことはそれほど好きでも何でもないんじゃないかって思うんだけれど……。


もし私がサレオスに「シーナが好き」とか言われたら即、気絶すると思う。それこそお父様の甘言に騙されて自主退学するかも!?やけっぱちになってどこか適当な家に嫁ぐかもしれないわ。だからアリソンの反応は理解できないんだけれど……。


私の顔にはやはり疑問がすべて出ているのか、アリソンはふっと笑った。


「いいんだよ、長期戦で行くことにしたから」


「長期戦っていっても、もうすぐ卒業ですよね?」


「まぁね。でもいいんだよ」


本当によくわからない。でも、前みたいに無理やり触れてこないみたいだし、まぁいっか。


「このままじゃいけないって気づいたんだ。青いバラを送ったのは決意表明のつもりだったんだけど……まさか返されるとは思わなかったよ」


「え?青いバラって?」


「マリーが休んでたとき。お見舞いの中に入れて贈ったんだけど覚えてない?」


そんなことあったかしら?お見舞いのゼリーはおいしかったんだけど……はっ!


「あの、遅くなりましたが、あのときはゼリーありがとうございました。とてもおいしかったです」


「あぁ、いえどういたしまして……ってそうじゃない、青いバラの話」


アリソンが困った顔で笑っている。あれ?そういえばリサが、アクセサリーが入っているとか言っていたような……もしかしてあれだったの!?


まさか見もせずに送り返したなんて言えない……。


「ごめんなさい……!」


「いいよ、風邪で寝ていたときに、使用人が気を利かせて送り返したんでしょ?知らないって可能性も考えたから大丈夫」


うわぁぁぁ、なんか本当にすみません。私は気まずくて、体を小さく縮こませた。


「いいんだよ、これからちゃんと見てて。マリーには、もう無理に迫ったりしない。大事にしたいんだ」


どうしよう。そんなこと言われても私はサレオスが好きなんだけれど……。



私が困惑していると、静かな足音が聞こえてきてエリーが現れた。


「マリー様、お迎えに上がりました」


「あら、もうそんな時間なの?」


学園祭のとき以来、私が少しでも遅くなるとエリーが迎えに来るようになっていた。今日は図書室に行くと言ってあったから、正面玄関で待たずに直接ここに迎えに来てくれたようだ。私は急いで机の上の本や荷物を片付けて、椅子から立ち上がった。


一緒にいた相手を見て、エリーが一瞬ぎょっとしていた。ああ、ほっぺにチューされた現場を見ていたものね。あからさまに警戒しているエリーを見て、アリソンが苦笑いで立ち上がる。


「大丈夫ですよ。もうマリーに勝手に触れたりしませんから」


「え?」


おおっ、エリーが喜んでいる。


「そうなの!もう無理に迫ったりしないって言われたの!」


「あぁ~、その喜んだ顔!かわいいけれど傷つくな」


アリソンは大げさに胸に手を押さえる。


「でも本当だよ?マリーが許してくれるまで勝手に触れたりしないから安心して?」


許す日は来ませんけれど……っていう言葉をいったん飲み込んで、とりあえずはにっこり笑っておいた。


「それでは先輩、ありがとうございました」


「いいよ。またわからなくなったらいつでも聞いて?」


あぁ、本当にそんな事態になりそうで怖い。これですべてが解決したというほど、私の理解力は高くないことを知っているもの。


「またね、マリー」


「はい。さようなら」


手を振るアリソンに挨拶をして、私はエリーと一緒に寮へと戻っていった。


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