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突然のお誘い

ゆったりと流れる音楽。バイオリンやフルートの生演奏が流れるホールで、みんな色とりどりの衣装を纏って優雅に踊っている。


それなのに……私の心はまったく優雅じゃない!


軽く握られた左手。腰に添えられた大きな手。密着する身体はゼロ距離……!

い、息の仕方を忘れたわ!ここの酸素、薄くない!?ダンスってこんなにも胸が苦しいものだったかしら!?


自分の脈がドクドク鳴る音が聞こえる。それなのに、令嬢たちのヒソヒソ話までが耳に届くからやってられない。


「サレオス様だわ……素敵!」

「あぁ……一度でいいから踊ってみたいわ!」


周囲の女子たちが色めきだっている。あぁ、私のサレオスが注目されてしまっている。「なぜあの子が相手なの?」という非難の圧がすごいわ……!


「なんでいつもマリー様ばかり!」


殺気のこもった視線をバシバシ感じつつ、私は必死に平静を装っていた。

「マリー?そんなに硬くならなくても、上手に踊れている」


頭上からは、サレオスの心配そうな声が響く。でも私はとても顔を上げられない。夢にまで見たダンスなのに、全然楽しむ余裕がないっ!包み込まれるように優しく握られた手が、小刻みに震えてしまっている。


「ご、ごめんなさい。久しぶりで緊張しちゃったのかしら……」


くるくると回るステップも、完全にサレオスによって回してもらっている状態だわ。得意じゃないって言っていたのに、やっぱり何でもできるのね……!


くぅっ……!どうしてそんなにかっこいいの!?王子様だとは知っていたけれど、やっぱり本物だったわ!これ以上好きにならないと思っているけれど、毎日「好き」の新記録が更新されてしまう!!!


「ダンスは得意じゃないって言っていたのに、サレオスに助けてもらってばかりだわ」


私はどうにか笑顔を作り、ちらりと彼の顔を見上げてみた。


「やっと顔を上げたな」


いやぁぁぁぁ!!!ふっと笑うその目が好きなのー!無理よ!無理すぎるわ!好きすぎて動悸息切れがするー!


私はまたパッと顔を下げてしまった。私の心は大荒れなのに、音楽はゆったりと流れている。


「国で習っていた先生には、センスがないと言われた。まったく楽しそうじゃないところがだめだと。……そういえば、そもそもダンスが楽しいと思ったことはないな」


楽しそうじゃないって、それ完全に個性のせいですね。今はかすかに笑ってくれているけれど、ダンスの先生からすると無表情でつまらなさそうに見えたんだろうな。


「でも今は楽しいな。マリーがおもしろい」


「お、おもしろいとは!?」


どういうこと!?いよいよお笑い要員として採用されるんですか私!?どうしよう、乙女のイメージがとか考えていたけれど、そもそも彼の中で私はちゃんと女子なのかしら……?なんだかそれすら怪しくなってきたわ!


「その顔……マリーは表情が豊かだな」


ちらっと見上げたサレオスは、またもや笑いを堪えている。私は今どんな顔をしているんだろう、やばいことだけはわかるが現実を知りたくない。身長差のせいで、真正面から表情を見られなくていいのが唯一の救いだわ。


「俺は今まで、家族以外とは深く関わってこなかったから……。マリーを見ていると、色々と気づかされることが多い」


「そ、それはどういう……!?でも、おかしな女でごめんなさい……」


「それがかわいいと言ったら?」


「かっ!?」


サレオスの言葉に足がもつれそうになったけれど、間一髪で彼の足を踏まずに済んだ。私がバランスを崩したのがわかったらしく、スッと自然に身体を反らして私の体重を預かってくれるなんてスマートすぎる。


思わず顔を上げると、彼は意地の悪い笑みを浮かべていた。あぁ、これはからかっているときの顔だわ。いいように遊ばれている……!でも好き。


「ありがとうございますって言っておきます。これでも侯爵令嬢だから、お世辞には慣れているもの」


この精一杯の抵抗は、まったく意味がないんでしょうね!でも仕方ないわ!サレオス相手なら、からかわれようが美人局だろうが、オレオレ詐欺だろうが繋がりが持てるなら飛び込むまでよ!


「世辞ね」


「そうでしょう?」


「世辞は疲れる」


「?それはごめんなさいだわ」


「マリーといると、面倒な建前ばかり並べる連中と会話する#術__すべ__#を忘れそうだ。休みになって国に戻るのが思いやられる」


「ふふふ……サレオスでもそんなこと思うのね」


「だからせめて今だけは忘れておくよ」


「あら、じゃあ忘れられるくらい、楽しんで踊らないといけないわね!」


気を取り直した私は、リズムに乗ってなるべく楽しもうとして踊る。次第に慣れてきて、サレオスを見上げて笑う余裕もちょっぴり出てきた。婚約者でないと一曲しか踊れないんだもの、この幸せな時間を堪能しなきゃ!


「マリー」


「はい」


「冬休みにトゥランに来ないか?」


え!?えええ!?それはまさかお嫁さんに


「クレアーナが叔父上に会いに来るそうだ。それでマリーも一緒にと叔父上が」


あ、はい。すみません、勝手に期待して。叔父様のお誘いだったんですね!行きましょう!


「行きたいわ。お父様にお願いしてみる!」


冬休みは40日もあるから、サレオスに会えないと禁断症状できっと死ぬ。たった一週間でアレだもの、40日なんて脅迫状を書くだけじゃ済まないわ!それこそ#追い人__ストーカー__#になっちゃうかも。


「よかった。侯爵には叔父上から手紙を出してもらうよ」


「え?そこまでしなくても」


「いや、連れ去ると思われでもしたら……」


「さすがにお父様もそこまで過保護じゃないと思うんだけれど……クレちゃんもいるんだし」


私は否定したけれど、サレオスは苦笑いだった。結局、叔父様からお手紙を出してもらうことは決定だった。


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