ミスコン
学園祭当日、午前中からひっきりなしにアクシデントが降りかかってきたものの、ジュールの武術大会は無事に見学できた。
なんていうか……ジュール強いな、の一言に尽きる。脳筋集団はケガなんて気にしていないようで、何人か骨折者は出ていたらしい。武器は不使用の大会だったはずなのに、流血している人も多かった。来年はやらせてもらえないんじゃないかしら、この大会。
興奮しすぎたアイちゃんは、何度か気絶していたような気がする。私はサレオスにもたれかかってちょっとウトウトしていた時もあったけれど、ジュールが優勝した瞬間はしっかりと目撃した。
優勝したジュールは女の子に囲まれていて、アイちゃんがものすごく不安そうな顔をしていた。でも女の子に見向きもせず、アイちゃんのところまで走ってきたのでまったく問題なかった!
なによ、もう付き合ってんじゃないの?
私はニヤニヤしてふたりを見守った。きゃっきゃしていたら「ご機嫌だな」とサレオスに笑われてしまったけれど、私の中では今一番アツいふたりなのアイちゃんとジュールは!
カフェテラスでお昼ごはんを食べた後、シーナのミスコンを観覧へ。
煌びやかな衣装を纏った出場者たちが、みんな自分らしいメイクやヘアスタイルで笑顔を浮かべていた。きれいに着飾ったら自信が湧いてくるらしい。
でも私がシーナを見つけたとき、誰よりも目立つ美貌を輝かせながら彼女は地の底まで落ち込んでいた。びっくりした私は思わず駆け寄った。
「何があったの!?」
もしかしてヒロインだから、嫌がらせされたの!?ドレスを破れられたり、ひどい言葉をかけられたりしたの!?
私が問いかけると、シーナは死んだ目のままにやりと笑う。
「そんなの対策済みよ。ダミーの安いドレスを用意して放置していたら、まんまとひっかかって汚していったわ。わざと目撃者も用意して、すでに2人のミスコン候補を捕獲済みよ。ふふふ……ライバルが減ったわ!」
うわぁ……抜かりないな!さすがシーナだわ、たくましさがハンパない。女性同士の争いなんて、実年齢+前世年齢、そしてキャバ嬢経験ありのシーナに勝てるはずがない。
「え?じゃあなんでそんなに落ち込んでいるの?」
「ジニー先生が……学園祭なのに休んでた」
「……」
先生ぇぇぇぇぇ!!!いいの!?そんなんでいいの先生!
「シーナ、元気出して……」
「ありがとう。……そうね。落ち込んでいても仕方ないもの。せめて告白するときに箔が付くように、しっかりと栄光をもぎとってきてみせるわ!」
パッと顔を上げたシーナは、声は元気そうだったけれどやっぱり表情は曇ったままだ。大丈夫だろうか……?
「大丈夫よ。逆境を乗り越えてこそ、ナンバーワンなのよ!」
シーナは目に涙をため、歯を食いしばりながら舞台へと上がっていった。ミスコンってあんな鬼気迫る表情をするイベントだったっけ。
女の戦いではあるけれど、シーナの顔はどう見ても戦場に行く覚悟の顔だった。私は一抹の不安を抱えながら舞台下に設置された観覧席へと移り、みんなと共にシーナの晴れ姿を見守った。
12人の候補者が舞台上に上がると、観覧に来ていた学生も来賓の貴族たちもわぁっと歓声に湧いた。
そして美女揃いの中でも、やはりシーナは根本的に美しさが群を抜いている。やはり遺伝子で忖度されているようだ。
この中では最も飾り気の少ないドレスを着ているのに、均整のとれた顔にメリハリのあるスタイル、何より明るい笑顔はみんなの注目を集めている。
ジニー先生、これを観られなくて損していますよ!と私は大声で言ってやりたい!まさかこんなにかわいい生徒が自分のこと好きだなんて、想像すらしていないんだろうな。あぁもったいない!
ミスコン出場者たちは、生徒会メンバーを相手にしてダンスを踊り、歌を披露し、ミスコンは観客の投票へと入った。ひとり一票を投じるんだけれど、私たちはもちろんシーナに投票する。
ジュールは座りながら寝ていたところ、投票になってアイちゃんに起こされていた。うん、武術大会で疲れたのね!
「ねぇねぇ、シーナが優勝だと思う?すっごく可愛かったよね!」
私は嬉々としてサレオスに問いかけた。
「そうだろうな。最後の歓声はすごかった」
「そうなのか?俺には全員似たような顔に見えるが……。さすがにシーナはわかるが、他の女たちは見分けがつかん」
サレオスの隣で、ジュールが失礼な発言をする。まぁ美人はだいたい似るっていうけれど、全員似たような顔とか今言っちゃダメよ!
結果はやはりシーナの優勝だった!表彰式では、すでに何人もの男子生徒がアツい視線を送っていて、あっという間にシーナの可愛さが知れ渡ってしまったようだ。私は大喜びで拍手を送った。
「シーナが優勝か。テル嬢の言ったとおりだな」
「そうでしょう!だって可愛かったもの!シーナだもの!」
「ってことは、夜に開かれる創立記念パーティーでフレデリックと踊るんだよな?」
ジュールがでかいパンをもぐもぐしながら、優勝特典のひとつである王子様とのダンスを話題にする。シーナはというと、ダンスよりも特典の記念ダイヤの方にロックオンしていたけれどね……。あの目は、売る気満々だわ!
「あいつ、ドレスとか持ってんのか?」
うん、それ心配よね。でも大丈夫なの。なぜなら……
「シーナさん!とても素晴らしい歌でした!美しいだけでなく歌声も清らかで……感動しています」
恋に溺れた弟が、私の目の前でシーナに想いを伝えている。そう、レヴィンがドレスを手配しているのだ。
シーナがミスコンに出るという一連の話をしたとき、どうしてもドレスを用意したいとレヴィンがごねたので、私がシーナに頼んだの……。まぁ、あっさりと「くれるものは何でも歓迎よ!」って笑ってくれたんだけれどね。よかったわ、さっぱりした性格で。
返事をもらったレヴィンの行動は早かった。フレデリック様のお姉様である第一王女御用達のドレスデザイナーに頼んで、それはそれは美しいドレスを作らせたと聞いているわ。私のドレスなんて一度もじっくり見たことがなければ、感想を言ったこともないくせに。恋は人を変えるのね……。
それにあの子、貢ぐタイプなのかしら?まぁ、自分で魔法道具を売って稼いでいるからいいけれど。私も、きれいなシーナを見たいし。
私は赤くなった手首を軽く掻きながら、見たくもない弟の恋模様を眺めていた。




