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拐われました。

腕輪の鎖で繋がった私とメガネくんは、壮絶な引っ張り合いの末、西棟の中にたどり着いた。


いくら私が女子にしては腕力強めとはいえ、やはり男子の本気に勝てなかったのだ。とはいえ、ふたりとも手首が真っ赤になっている。


最後の方は抵抗して引きずられるような形になってしまい、足の裏がかなり痛い……。しかも転んで左膝をちょっと擦りむいた。血は出ていないけれど、地味にじんじんして痛い。


私が連れ込まれたのは、普段は使われていない魔法実験室。改装前で部屋の中には何もなく、しんと静まり返っていた。そもそも西棟は学園祭で使用されていないから、生徒も先生も誰もここには来ない。


やばい、これは本格的にマズイ。


捕まっている右手をブンブン振っても鎖は切れず、ただ手首が痛いだけ。それに必死で叫ぶもまったく声が出ない。


なんなの?モブ仲間かと思ったのに!とんでもない裏切りだわ!


私はメガネくんをおもいきり睨みつけた。


「大丈夫。サレオス殿下に脅されているんですよね?僕と一緒に逃げましょう」


(は?何言ってるのあなた。私がサレオスを脅すことはあっても、その逆はないわ!こっちはもう脅迫状も書いちゃってるのよ!?このバラなんて脅し取ったも同然なんだから!)


あぁ、なにを言っても声が出ない。口をパクパクさせるだけの私の反論はどこにも届いていなかった。


メガネくんは扉を背にして立ち、満足そうに微笑んでいる。その笑顔にゾッとした私は、鎖の長さの限界まで後ずさった。


「少しここで待っていてくださいね?」


私が抵抗しないと判断した彼は、自分の手首の腕輪を外しその場に落とした。こんな気持ち悪い人と鎖が切れたことは嬉しいが、ここから逃げられる感じでもない。


もうこれは乙女のイメージがとか言っている場合ではない!


(サレオス助けてー!!!)


私はその場に座り込み、声にならないとわかっていても思いきり叫んだ。


ーードゴォォォォン!


「がはっ!」


メガネくんの後ろにあった扉が、勢いよく爆破された……!?


爆風を受けた私は、思わず両腕を顔の前に出して頭を下げる。何!?なんかすごいの来た!!!


(はっくしゅん!はっくしゅん!)


埃が舞い、私はくしゃみを連発する。ううっ、目が痛い。何?何なの次から次へと……!


「生きてるー?」


モヤモヤとした煙の中から現れたのは、愛する王子様……ではなく、ただの弟だった。


あれ、ちょっとだけ背が伸びてる?学園祭でシーナに会えると思って、見たことないくらいきちんと身なりを整えているわ……。え、なのになぜバズーカ持ってきた!?


「姉上、なんだ元気そうじゃん。あれ?敵はどこ?」


レヴィンはバズーカでぶち壊した扉を踏んづけ、部屋の中に入ってきた。


(踏んでる!メガネくん踏んでるからレヴィン!!!)


扉とレヴィンの下敷きになっているメガネくんは、頭だけがかろうじて見えていて、どうやら気を失っているらしい。


メガネが割れて、床に転がっていた。


「あぁ、こいつ?また変態を製造したの姉上」


あぁ、レヴィンがメガネくんの髪の毛をぎゅっと掴んで、無理やり頭を引っ張り上げた。


我が弟ながら、やっていることが悪魔みたいだわ……!どう見ても悪者にしか見えないんだけれど!?


(ちょっと!あなたが悪者みたいになってるわよ!)


口をパクパクさせている私を見て、レヴィンがようやく私の異変に気付いたようだ。


「姉上?声出ないの?」


(あぁ!そうだった!レヴィンならこれ外せるでしょう?)


私は腕輪を指差して、「これこれ!」と合図してみせた。


レヴィンはいったんメガネくんをその場にポイっと捨てると、私の腕輪を観察する。


「あーこれだめだね。工具がないや。サレオス様なら破壊できんじゃない?すぐ来るから助けてもらって」


(はぁ!?どういうこと?)


レヴィンがリュックからタブレット端末のようなものを取り出して、指で操作している。


「ええっと、母上、父上に……変態を回収しましたっと。これでよし」


なにそのオーバーテクノロジーは!?先端で光っているのは魔法石だろうけれど……え?もしかしてそれで私の居場所を見つけたの!?


「あ、これ?姉上のペンダントが発信機になってるんだよ。姉上の魔力が乱れると、自動的に俺や母上に連絡が来るようになってる」



ええええええ……。嘘でしょ、入学したときから毎日つけていたコレが発信機って。私はペンダントをお母様にもらったことを思い出した。


『マリーちゃん、入学おめでとう!これプレゼントね、毎日つけてね。高かったのよーものすごく!』


うん、そりゃ高いわ。だって発信機つけた特注だものね。おかしいとは思ったの。お母様が値段のこと言うなんて、初めてだったから……。

「あ!来たよ、サレオス様」


レヴィンがパッと後ろを振り返った。そしてその瞬間、破壊された入り口から本当にサレオスが飛び込んできたのだった。


「マリー!?」


(サレオス!レヴィンがオーバーテクノロジーなの!)


……やはり私の声はまったく出ない。


サレオスはすぐに私のところに駆け寄って、片膝をつく。


私が腕輪を指差して必死で伝えようとすると、彼は手を翳して紫色の光を放ち、パリンと音を立てて腕輪を崩してくれた。


「サレオス!」


私はホッとして、思わず彼に抱きついた。レヴィンがメガネくんをぐりぐり踏みつけているのが視界の端に入ったが、何も見なかったことにする。


「マリー?何があった?突然魔力が乱れたから追って来た」


え?どういうこと?サレオスまでオーバーテクノロジーなの?


私は彼に縋りつつも、濃紺の瞳を見上げた。


「親しい人間の魔力はだいたい感知できる。マリーの居場所も探せばすぐわかるんだ」


え。オーバーテクノロジーどころか探知機能が標準搭載なの?


ただの天才だった。


「サレオスのところに行こうとしてたんだけど、途中であのメガネの人に話しかけられて……。変な腕輪をつけられて、そのままここに」


あ、ちょっとサレオスに集中してる間に、レヴィンがメガネくんを縛り上げていた。イモムシみたいになってるわ!


「おまえさぁー。どうせ妄想とかしすぎて現実と境目がわからなくなったんだろ。ほんっとキモいよなー」


あ、何だろう。レヴィンの言葉が私にも突き刺さる……。


「ちょっと優しく声かけられたからって、何勘違いしてんの?」


うっ……!


「ただの社交辞令を都合よく変換してんじゃねぇよ。手に入るとでも思った?頭悪いんじゃない?」


やめて!レヴィンもうやめて!あなたの姉上がダメージを受けていますよ!


私はサレオスに縋りつきながら、自分の日頃の行いを猛省した。どうしよう、震えが止まらないわ!


「はっくしゅん!」


はうっ、ここにきてくしゃみまで出だした。


「……そいつを渡してくれないか?」


腕の中にメンタルが瀕死の私を抱えながら、サレオスは低い声でレヴィンに言った。私の肩に優しく置いてくれている手のあったかさと、殺気立ったオーラのギャップが凄まじいわ。


ところがレヴィンは、不敬にも鼻で笑って堂々と断りをいれる。


「それができないんですよサレオス様。渡したら殺しちゃうでしょ?あいにくうちは、地産地消がモットーなんです」


「は?レヴィン、何言ってるの?」


「地産地消だよ姉上。姉上がつくった変態は、ちゃんとテルフォードで処理するって決まってるの!」


うん、違うよ。地産地消の意味も使い方も間違ってるよ!!!


私は唖然としてしまい、もう声は出るのに言葉が出てこない……。


「じゃ!そういうことで!」


レヴィンはイモムシと化したメガネくんを引きずって、颯爽と出て行ってしまった。


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