捕まりました。
サレオスのいる場所へ向かっていると、渡り廊下で同じクラスのメガネくんに遭遇した。
私がパタパタと急ぎ足で通りすぎようとすると、メガネくんが前方に立ち塞がるというまさかの展開に。
「あの……なにか?」
ちょっと!これ以上遅くなったら、いよいよ本格的にトイレにこもっていると思われるじゃない!!!
乙女のピンチは絶賛継続中なのよぉぉ!
隠しきれない本音が苛立ちになり、歯をぎりりと食いしばる。
かろうじて及第点の笑顔で尋ねただけ褒めてもらいたい。
「マリー様、体調がよろしくないのではありませんか?」
「そんなことありませんわ」
大丈夫よ。強いて言うなら機嫌が悪い。あなたのせいでね!
やけにサラサラの茶色い髪、きらりと光るメガネ、女子より軽そうな細い身体。もはやメガネくんの何もかもがイライラするわ!
びゅうっと強い風が吹き、私は右手で髪を抑えた。
「無理なさらず!僕と一緒に行きましょう!」
「はぁ!?」
「わかっています!わかっていますから!」
「何が!?何がわかっているの!?怖いよ!」
「僕には聴こえていましたよ!マリー様の心の声が。もう大丈夫です!」
「はぁ!?あなた耳がおかしいんじゃ……」
ジリジリと後ずさりする私、追ってくるメガネくん。逃げようとすると、彼は私の手首を強引につかんだ。
ーーガチャ
「え?」
右手首に何か冷たい感触が追加された。
何この輪っか!?腕輪なの!?銀色に光るそれは怪しげな模様が彫られていて、とても冷たい。
(ちょっと!?何なのこれ!?)
私は必死に叫んだが、自分の声が耳に聞こえてこない。
声が出ていない!?
「おとなしくしてください?大丈夫ですよ、僕が守ってさしあげますから……」
メガネくんの顔がやばい。目がイッてる。これは……知っている。記憶の奥の方にある、これまで何人か現れた変態の目だわ。
『マリー……こっちにおいで。』
あれ?なんかぼんやりと気持ち悪い声が記憶の底に……?
はっ!?だめだ、今は目の前のメガネだわ!
私の右手首につけられた腕輪から、つらつらと細い鎖のようなものが延びていて、その先はメガネくんの左手首にある腕輪に巻き付いていた。
完全に捕まってしまっている。こんな気持ち悪い人と繋がっているとかとんでもない悪夢だわ!冗談はたいがいにして!
どうしよう……。
どうしよう!!!
こんなのつけられて時間取ってる間に、サレオスにトイレが長いって思われるでしょぉぉぉぉ!!!???
どーしてくれんのよぉぉぉ!?
こんなときに浮かぶのがコレ?って自分でも思うけれど、乙女のピンチは最優先事項なのだ。
次から次へと……いいかげんにしてぇぇぇ!
私はメガネくんに引っ張られ、西棟の中に連行されるのだった。




