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村人ですか?

翌日、私は授業の合間に保健室に行っていた。アイちゃんが風邪気味で、荷物を渡しに行ったのだ。


朝から調子が悪そうだな、とは思っていたけれど、10時すぎにギブアップするという最速早退記録の樹立。休まずに登校してしまうところがアイちゃんらしい。


「わ、わたくし頑張れますわ!」


真っ青な顔で半分白目なのに、何をそこまで……。と思っていたら、どうやら本日はジュールと同じ授業があったらしい。


「剣を……剣を磨くジュール様の大きな手が堪らないのです」


アイちゃんはジュールと同じ授業を受けたすぎて、武具のメンテナンスの実習を取っていた。


うん、帰ろう。その実技、アイちゃんの人生にいらないよ?私だってサレオスと同じ授業を受けたすぎて、よくわからない召喚術の授業を取ってるけれど、そもそも魔力足りなくてまったく意味ないし。


アイちゃんの気持ちはわかるわ。気持ちはわかるけれど、今日会っても心配かけるだけだから……。


ねばるアイちゃんを引き連れて保健室に行き、私はいったん実習室に戻る。そして置きっぱなしだったアイちゃんの荷物を持って、再び保健室を訪れた。




保健室に着くと、アイちゃんところのメイドさんが迎えに来ていて、私は荷物を手渡し手を振ってお見送りした。早く治ればいいけれど……。あとで部屋にお見舞いに行こうと思う。


ジュールに見舞いを、とも思ったけれど、風邪で顔色が悪くてボロボロの姿は見せたくないだろうなと想像がつくので断念する。



「ありがとうございました」


私は保健医さんにお礼を言って、教室に戻ろうとした。ところが顔を上げると、「どこかで見たお姉さんだな」と首を傾げることになる。


赤い髪に切れ長の茶色い瞳、お色気がすぎる大きな胸。なんでシャツのボタンそんなに開けているの?なんか見たことあるな、このお姉さん。一体誰だっけ……?


「ふふふ。久しぶりね?マリーちゃん。私がわかる?」


保健医さんの名札を見ると、マリーローザ・ハイムスとある。名前に覚えはない。


私が悩んでいるのがわかったのか、ハイムス先生はニッコリ笑って自己紹介をしてくれた。


「ほら、街で会ったでしょう?アリソン・ノルフェルトとカフェで」


ん?


カフェで?



はう!?誕生日にサレオスとおでかけしたあの日!あのときの彼女さん(?)ですか!?


え!!なに、先輩って保健医さんにまで手を出していたの!?やることが徹底してエロいな!さすが、と感心してしまう。


私は驚愕で目を見開いているが、ハイムス先生は上品に微笑んでいる。美人の余裕、だろうか?



「アリソンから聞いているわ。好きな子ができたって。あ、私は彼女なんかじゃないわよ?幼なじみなの」


うわぁ、幼なじみ属性の巨乳美女。しかも保健医って……。先輩もうこの人と付き合っちゃえばいいのに。


私は唖然としつつも、「そうですか」とだけ小さな声で答えた。


「あの、ハイムス先生は」


「ローザって呼んで?だいたいそう呼ばれているから。アリソンはマリーって呼んでいたけれど、あなたもマリーちゃんだし、ややこしいじゃない?」


私は仕方なくローザ先生と呼ぶことにした。なんだろう、このグイグイ入ってくる感じ。チャラ男の女版な気がする。


しかしローザ先生は、私の苦い顔なんて気にせずに話を続けた。



「アリソンには悪いことしたと思っているのよ。お互い遊びだと思って色々と教えちゃったから……。まさか彼があんなにフラフラする子になっちゃうと思っていなくて、結果的に悪いことしちゃったわ」


先生は首をすくめ、「えへっ」というような感じで笑っている。いやいやいや、色々と教えちゃったってそれはもちろん18禁的なアレですよね!?


……えええ、もしかして先輩、この人のことがずっと好きだったのかな。それで弄ばれちゃってあんなチャラ男に……。なんか同情するわ。



「だからマリーちゃんを好きになったって聞いて、本当に嬉しかったの。あの子を更生させてくれる子が見つかったと思って!」


こらこら、お色気姉さん。自分が道を踏み外させた子を、私に押し付けようとするんじゃありません!すごいな、まったく反省しない人なんだな多分。


「ふふふ。あなたになら安心してアリソンを任せられるわ」


「そんなこと言われても困ります!私は先輩の面倒なんて見れません。だいたいローザ先生がお付き合いすれば先輩だって……」


「それはムリよ!」


ローザ先生は、ものすごくきっぱりと言い切った。


「だってひとりの男じゃ満足できないんだもの!」


おふっ……これは生徒に、しかも10時25分にする話ではありませんよね!?それを聞いて私が「わかるー!」とでも言うと思ったのか。


なんで私の周りには自由な人ばかりが現れるの!?


「ふふふ。あなたになら安心してアリソンを任せられるわ」


「だから!私は嫌ですよ!?」


ローザ先生はくすくす笑っている。その妖艶さが恐ろしすぎる。


「ふふふ。あなたになら安心してアリソンを任せられるわ」


え!?なに、どういうこと!?村人!?村人ですか?いつ何回話しかけても同じセリフを繰り返す村人ですか!?


私は額を手で押さえながら、「任されません」と言って保健室を出た。笑顔で手を振るローザ先生のメンタルというか生き方に凄まじい違和感がある。




なんなの!?

だいたい学園の保健医があんなエロ姉さんでいいの!?どういう採用基準なの!?


廊下で頭を抱えながら、私は大事なことに気がついた。


あの人もマリーだから……。私はローザ先生の「代わり」なのね!


はは~ん、そういうことか。先輩たら未練ありまくりじゃないの~。同じ愛称だからって惚れた気になるとは、先輩ったらそんなにローザ先生が好きだったんだ。


まったく、二人の問題は二人で解決してほしいよ。私はサレオスのことで手一杯なんだから。


妙に清々しい気持ちになった私は、ひとり納得して浮かれていた。事態は何も好転しちゃいないのに。


それから私はこっそりと講義の部屋に戻り、よくわからない国のよくわからない文化について学んだ。なんでこの講義を取っちゃったんだろう……。何よ、オシャレな鉄仮面のバリエーションって。アイちゃん、帰っていいよこんな講義。


私はまじめにノートを取りつつも、アイちゃんのお見舞いに何を持って行こうかと考え始めていた。


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