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もはや脅迫状だった

学園に復帰したその日。私は大事なことに気がついた。


サレオスに書いた手紙は今どこにあるんだろう……?


テルフォード領に来たサレオスは、シーナと入れ違いになったようで会っていなかった。



「わざわざ会いに行ってまで渡さなくていいから!」


シーナに念押ししたのは私。実は、読まれていないことにほっとしていたりする。


多分、まだシーナが持っているのよね?

今から手紙を返して貰えば、サレオスに読まれずに済む。


何を書いたか正確には覚えていないけれど……離れていた寂しさでおかしなことを書いたような気がする。


うん、だって私だもの。



私は放課後、シーナのかばんがまだ置いてあるのを確認して教室でひとり彼女を待った。


まさか、そのときシーナが手紙を渡しているとも知らずに……。


教室にひとりになってもう30分ほど経過した。本を読んで待っていたけれど、もうそれも読み終わっちゃった。


あぁ……、アイちゃんおすすめの恋愛小説、よかったわ。婚約して2年、結婚して2年、手をつなぐだけのじれじれカップルの話だったけれどピュアさに当てられたわ。


途中でやめなくてよかった……!


ーーガチャッ


私が感動を噛み締めていると、教室の扉が開く音がして、視線をやるとサレオスが立っていた。


まさか会えると思っていなかったから、嬉しくて椅子からすぐに立ち上がった。

そして、その手にあるものを見てぎょっとした。


あれは、私の手紙!?


笑顔が一気に引いていくのがわかった。


「読んだの!?」


尋ねてみても、彼は無言で近づいてくるだけで何も言ってくれない。


でも、読んでいるよね!?だって手紙が開いた状態でその手にあるもの!


「やっ……あの、ちがっ……」


私は何に対して言い訳しようとしているんだろう。何を書いたか覚えていないのに!


サレオスは早足で近づいてくる。私は思わず後ずさりしてしまった。


あわわわわ……。なに!?なんなの!?怖い!


私の気持ちなんて関係なく、私たちの距離はあっという間に縮まっていく。近くにくると、サレオスの口元がかすかに弧を描いていることに気がついた。


えええ!笑ってるの?なに!?私なにかおかしなこと書いた?


慌てて手紙を奪おうと両手を伸ばしたら、近づいてくるスピードのまま、ぎゅっと抱きしめられた。


「え……?」


驚きのあまり放心状態で、斜め上の天井が見える……。


あわわわわ、どうしよう!?なんで今こうなっているの!?


誰かが心臓をドンドン叩いているみたいに激しい音が鳴っている。今にも意識が飛びそうだわ!



「長生きしてくださいって……マリーは俺のこと、おじいさんだと思っているのか?」


サレオスがその低い声で、笑いを堪えながらそう言った。



えええ、私そんなこと書いたんだ。自分の文才のなさに衝撃を受ける。


「そっ!?そういうつもりじゃないっ!おじいさんだなんて思っていないわ!」


「そうか」


「う、うん、そうよ……?」


サレオスの手が私の後頭部にまわる。私はこのドキドキに耐えられなくなり、目を開けていられない。



「それに、会えなくてつらいって書いてあった」


おお……とんでもない爆弾を投げつけられた。いや、投げつけたのは私か。


「わ、私ホントにバカ……。何でそんなこと……!」


あぁもう!なに書いてんの!?たった数日離れただけで、とんでもないことを書いていた。


「その……手紙、書いたとき……淋しくて頭がおかしくなってたっていうか……!淋しさをこじらせた感じで!」



もう絶対、夜中に手紙なんて書かないっ!


私の頭は後悔でいっぱいになる。でもこれは何!?なんでぎゅってされてるの???


あぁぁぁ、彼の腕の中にすっぽり入ってしまっている……。前回と違ってブランケットがない!


硬い胸とか腕とかこれはダメ!気絶する!



あまりの嬉しさに今すぐ膝から崩れ落ちて床をバシバシ手で叩きたい気分だわ。でも、全身包み込むようにしっかりと捕まえられていて身動きが取れない。


ものすごい速さで鳴り続けている心臓の音が伝わってしまうんじゃないかしら。


うううう。好き。





そういえば、確かにまたぎゅってしてほしいとは思ったけれど……え、まさかこれは夢なのかしら?


私はそれを確認しようと少しだけもぞもぞするが、もしこれが夢で醒めてしまったらと思うと何もアクションを起こせない!たとえ夢でもこのままでいたいのよ!


そうこうしているうちに、耳元で低い声がした。とびきり優しい声で。



「おかえり、マリー」


「……た、ただいま戻りました?って、一緒に帰ってきたじゃないの」


喋るたびに伝わる喉元の振動や、肩に乗っかった腕の重みに「これは夢じゃないんだ」ってわかる。


大きな手で頭を撫でられると、嬉しいのにお腹の奥底から何かがゾクッとこみ上げてきた。


あぁ、もう。幸せすぎて目を開けていられない。彼の匂いがする。


私はおそるおそるサレオスの背中に腕を添え、指先で制服を少しだけ握った。これくらい、いいよね?


「あの……」


どうしよう。口を開いたはいいけれど、言葉が何も思い浮かばない。この状態は何かと問いたいけれど、聞くのが怖い。



……もう、いいか。


ただこうしてくれるのは嬉しいから、今は満喫していよう。諦めに似た感情がわき起こり、ふっと力が抜けた。



「……手紙、ありがとう」


ひぇぇぇ!!恥ずか死ねる!私は彼の胸に自分の額をぐりぐりした。額が抉れてもいいくらいに。


「す、捨てて」


「捨てない」


「燃やして」


「燃やさない」


「返して」


「返さない……って、このやりとりはムダだろう?もう俺のものなんだし」


「うっ……うええええ!?」


マヌケな声を上げる私に、サレオスが笑う。そして追い討ちをかけてきた。


「つらいときはこうして欲しいって書いてあったんだし?これは一人で領にいたときの分だ」


しばらくの間、意識が吹っ飛んでしまった。そして自分のバカさに泣けてきた……。


とんでもないことねだってる。もはや手紙ではなく脅迫状の類いかもしれない。


好きな人に初めて書いた手紙が脅迫状って、どんなサスペンスよ……。


彼の腕の中で、あわあわと取り乱す私。でも笑いを堪えきれていないサレオスに対し弁解できるような言葉はなく、ただじっと腕の中に埋もれていた。


上腕二頭筋と三頭筋の織りなす、二の腕の絶妙な硬さがすばらしい……。私はやっぱり煩悩に勝てない。


あぁでも幸せ。好き。お嫁さんになりたい。手紙を書いたときは、まさか本当にギュってしてもらえるなんて思ってなかった。淋しかった。あのときの気持ちを思い出すとじわじわ泣けてくる。


もう何が何だかわからないけれど、それでもまた抱きしめてもらえたことが嬉しすぎる。


はあ~。生きててよかった。


そんな感動でいっぱいだった私の頭上から、とんでもない爆弾が落とされた。


「俺も淋しかったよ」


この日はもう、どこをどう通って寮まで帰ったか覚えていない。


サレオスが手をつないで引っ張ってくれて、よくわからないけれど私はずっとめそめそ泣いていた気がする。


どうやら私は、幸せすぎたら泣くタイプらしい。



でも……。今からでも手紙は返してほしいと切実に思う。



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