結末
翌朝、私は一晩考えた結論をみんなに伝えた。それは、「すべてをなかったことにしたい」ということである。
よく考えてみれば、アリアナ様たちを処罰したところで私にプラスになることなんて何もない。
それどころか、「重い処罰なんてしてしまえば、何年経っても私自身が忘れられない可能性があるのでは?」そう思った私は、この事件から全力で逃げることにした。
これは優しさではなく、見て見ぬふり、忘れたふりを決め込むことにしただけ。逃げるが勝ちっていうもんね!? 私の結論を聞いた男子の反応は様々だった。
フレデリック様は「マリーは何て慈悲深いんだ! でも他の貴族に示しがつかないから、せめて修道院へは送りたいよ」と言っていた。
やっぱり私の意図はまったく伝わっていない……。
そもそも誰のせいでこんなことになったと! フレデリック様が、運命の令嬢探しをちゃんとしてくれないからこんなことになっているというのに。
私のじとっとした視線を感じ、ヴァンは顔を反らした。フレデリック様からは爽やかな笑顔を返され、私はもうお手上げよ。
サレオスはというと、少し不満げだったがおおむね賛成してくれた。
昨日の私の大泣きがまさかの泣き落とし効果を生んだのかと思いきや、「今すぐ処罰するより、いつこの話を持ち出されるか怯えながら生きていく方が残酷かもしれないしな」と言われてしまう。
黒すぎる発言にはびっくりしたけれど……。でも好き。
ジュールはやっぱり脳筋で、「テル嬢がいいならそれでいいんじゃね? あ、でも全員を一発殴っちまえば?」とか言っていた。私、武闘派じゃありませんけれど!?
殴り合った敵がその次の日には仲間になるとか、現実にはそんなこと起こるわけない。
昨日の敵は、今日も明日もたいだいずっと敵なのよ。
そして、朝の集合の際に話を聞いたアリソン先輩は、少し考えて意外なことを言った。
「う~ん、家の取り潰しか領地の一部没収じゃない? さすがに殺人未遂はだめだよ。家として娘の教育を怠ったということだから。それに、今後似たような事件が起これば前例になっちゃう可能性があるから、あまり軽すぎる罰はオススメしないかな」
なんだろう……。
昨日、私を襲おうとしときながらしれっと笑顔で「おはよう」って言ってきたのもびっくりしたけど、わりとまともなこと言ってるのもまたびっくりだわ。女子は全員、衝撃で目を見開いた。
ただのエロ兄さんと思っていたのに、意外と常識的な思考を持っていたのが信じられない。
女子は全員「マリー様が忘れたいというならそうしましょう」と賛成してくれた。どうやらうまくいきそうだ、と思っていたらフレデリック様が納得してくれないというまさかの事態に。
この件は先生たちにも報告がいってるから、フレデリック様という王太子の口添えがなければ隠蔽できない。一番めんどうな人が一番権力持っているってやっかいだわ!
私は彼の説得を試みるも、「修道院なら北と西、どっちがいい?」と二択で迫ってくるので話にならなかった。
クレちゃんなんかは「あんな気の強いワガママ娘が送られてきたら、修道院の方が迷惑よね」と笑っていた。うん、私もそう思うわ。二次被害が起きそうな予感しかしない。
結局、加害者と被害者双方の当主による話し合いの場が持たれることになり、アリアナ様たちの処分は実質的に私のお父様に委ねられた。家格では先方が上位であるものの、大臣であり権力の中枢にいるテルフォード家がアリアナ様の処遇を一方的に決めることに不思議はない。
お父様は溺愛する娘が殺されかけたことで激昂していたけれど、私が厳罰は望まないと根気強く説得したら理解してくれたようで、最終的には謹慎のちにクラスを降格させるという処分に落ち着いた。当然、フレデリック様の婚約者候補からも外れ、アリアナ様は一から婚約者探しをしなければいけなくなったみたい。
「あの子を妻にする猛者がこの社交界にいるかしらね……」
シーナの呟きに、私たちは全員が沈黙してしまったわ。おそらく、結婚がかなりむずかしくなったのが一番の罰だろう。公爵家からの賠償などは数か月かけて話し合われるらしいけれど、アリアナ様自身の処遇に関してはひとまずこれで落着となった。




