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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
1巻部分

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推しに貢ぎたいファン

一時間後、馬車は休憩スポットに到着した。私は踏み台がないと降りられないので最後に馬車から出ようとする。

「落ちるといけないから、俺の手をしっかりと握ってね!」

そう言って差し出された先輩の手を、フレデリック様が余裕の笑顔で握った。しかも見てわかるくらい、ものすごい力で。

……なんと!? もしやこの短時間で二人に恋が芽生えたなんてことがあるのかしら!? 私はドキドキしながら、二人を見守った。

「マリー、それだけはない」

サレオスに心を読まれてちょっと恥ずかしい思いをした。

私は別に腐女子ではないけれど、目の前できれいな顔の人たちがイチャイチャしていたらちょっと気になる。絵になる二人が悪いと思うの!

えへへ、と照れていると、まだ馬車の上にいる私に向かって先に降りていたサレオスが両腕を軽く広げて差し出した。

「ん」

「なに?」

どういうことか理解できずに首を傾げると、ぐっと腰を支えられて身体が浮いた。

「ひゃあ!?」

えええ!? 台は!? 降ろしてくれるなんて聞いてないよ!? ……何このサービス!

「っ!! うっ!」

やばい、心の内側から何かしらが飛び出てきそう。顔が熱い!魔力を使っているのか、ふわっと地面に柔らかく降ろされた。

私のこと持ち上げたときに、ふっと優しく笑うのやめて! 好きすぎて抱きついてしまうから!!

郊外研修がはじまる前にキュン死にする……にも関わらず、サレオスはいつも通り普通に歩いていく。なんなの!? またもや無自覚の攻めですか!? イケメン攻め爆弾が過ぎますよ!

今日も彼が好きすぎてつらい。お嫁さんにしてほしい。もう押しかけ女房になりそうだわ。

先輩と王子は見つめ合っているのか睨み合っているのか、こっちをまったく見ていない。私はその隙に、サレオスを追ってその場を離れた。

休憩場所にやってくると、アリアナ様がやっぱり私を待っていた。

あぁ、馬車の陰から刺し殺されるような視線を感じる!! うまく隠れているつもりだろうけれど、取り巻き女子が三人はみ出ちゃってるからバレバレよアリアナ様!

「アリアナ様、何かご用でしょうか……? ご用ですよね?」

フレデリック様がすぐ近くにいたので大きな声では言えないが、私の本音は「メンバー入れ替えしませんか」である。

届け! 私の想い、アリアナ様に届けっ! 全身全霊でメッセージを発信したが、彼女は睨むだけで何も答えてはくれなかった。

どうやら友情ポイントが不足しているらしい。そんなわかりきっていることを今さら思い出す。彼女はサレオスに睨み返されてビクッと肩を震わせた。退散するなら最初から来なければいいのに……とはいえ、なんか今日のアリアナ様の殺気はものすごかったな。

でも他の女子からは、なぜかキラキラした羨望のまなざしで見つめられ、一部の女子からは「マリー様ってお呼びしてもよろしいでしょうか?」とまさかの声援をもらえてびっくり。

え、何があったの?

私はサレオスに視線を向けるも、彼もわからないようで首を傾げていた。するとフレデリック様がじっと私の目を見つめながら、恐ろしい噂について口にする。

「先日のパーティーで、私とマリーが国王陛下に挨拶したっていう噂が飛び交っていてね。君がいよいよ婚約者に内定するんじゃないかって話題なんだよ」

私は目を見開いた。う、嘘でしょ!?ただセクハラに遭っただけなのに、なんでそんなことになっているの!? 絶望で、今なら魔物を召喚できそう。

「ふっ……みんな早とちりで困るよね?」

満面の笑みでそう言うフレデリック様を見て、私は心の底から「その通りです」と思った。

半泣きの私はサレオスに慰めてもらおうと思ったのに、彼はジュールに拉致されてなにかを食べさせられている。

ちょっとぉぉぉ! もうやけ食いしたいから私にもちょうだい!

あまりにショックを受けた私は、アイちゃんにもらったアップルパイを五切れも食べた。

そういえばシーナは「馬車酔いしそうなので」と言ってちゃっかりジニー先生のいる馬車に乗り込んでいた。恋愛マスターは抜け目ない。

 休憩を終え、ここからも胃に穴の開くような気まずい馬車旅を何とか乗り切り、ようやく宿泊先に着いた頃には、私はすっかり疲労困憊していた。

くっ……アップルパイ食べすぎた。

サレオスに少しだけもたれかかり、馬車酔いというかモンスター酔いというか、優れない体調を何とか整えようとする。

「マリー、大丈夫か?」

「大丈夫。ギリギリまだがんばれるはず」

クレちゃんたちと合流し、すぐに部屋に向かった私はそのまましばらくベッドにダウンした。

この二泊三日の間、私たちは四人部屋なのだ。もちろんメンバーは私とクレちゃん、アイちゃん、シーナで。本来ならそれぞれの部屋を割り当てられる予定だったんだけれど、せっかくだからみんなで同じ部屋に泊まりたいと私が言い出してみんなが賛成してくれたの。

私がベッドで過ごしていると、ヴァンがこっそりやってきた。従者は連れてこない研修なのに、フレデリック様はなんで当たり前のように連れて来てるのかと思ったら、今回は護衛だそうだ。

まぁ、そうか。王子様は護衛が絶対いるもんね。ヴァンの厳つい顔を見たら、刺客も帰りそう。

「マリー様。先日のパーティーでの件なんですが」

そう切り出された私は、思わず「ひぐっ!」と変な声が出た。罰せられたりするのかな。

ところが私の怯えとは裏腹に、ヴァンはニカッと笑って大丈夫だと言ってくれた。

「フレデリック様には、本当に蚊がいたということで押し通しました」

え!? 押し通せたの!?

「すみませんでした。もっと早く私が声をかけていれば……」

「そういえばそうよ。なんでずっと見ていたの?」

「抑圧されすぎると暴走がひどくなるかなと思いまして。だからダンスくらいはって思ったんですが、逆効果になってしまったという……。私の読み違えです! 申し訳ありません」

ううーん、なんかそう言われるとヴァンが謝ることではない気もするんだけれど。

「それで、きつーーく叱っておきましたので、どうかお許しくださいね? マリー様」

やっぱりキスしようとしてたんだ。もしかして勘違いで叩いちゃってたらどうしようって、ちょっと心配してたんだ。

とにかく水に流してくれるならそれでいい。だって王太子への暴力沙汰なんてシャレにならない。

ヴァンにお礼を言うと、「いつも楽しませてもらっていますんで」とよくわからないことを言って消えて行った。

あぁ、いつもフレデリック様の奇行に楽しませてもらってるのね。楽しまずに止めてくれればいいのに。私はため息をつきながら、みんなと食堂に向かった。


食堂に着くとそこには不満げなサレオスと、ご機嫌なジュール、そしていつも麗しいフレデリック様、苦笑いのアリソン先輩がいた。

え? 班このメンバーなの?

私たちの視線を受けた先輩が、事情を端的に説明する。

「先生のご指名なんだよ。みんな身分が問題児だからね」

「ぷっ……」

あ、シーナが噴いた。

「王太子に隣国の第二王子、騎士団長の息子ときたら、もう一箇所にまとめちゃえってなるよね~」

確かに複数の班に目を光らせるよりは一箇所に集めた方が先生の負担が少ないよね。

「あんただって宰相の息子だろ」

ジュールがもぐもぐパンを食べながら、先輩をチラ見する。

班ごと誘拐したら国家予算くらいの身代金が取れそうなメンバーだわ。

「もしかしてお部屋も皆さまご一緒なんですの?」

おおっ! アイちゃんが積極的に質問している。さては小説のネタを探しているな!

「さすがにそれはないよ。みんな横並びだけれど」

「ぷっ……」

あ、クレちゃんが先生の決めた完璧な布陣に噴き出した。すっかり油断していると、スッと立ち上がった先輩が流れるような遊び人の所作で私の肩を抱き寄せる。

「だから……俺の部屋に遊びにこない? マリー」

こら、人の肩を抱くな。人の髪の毛を口元に持っていくな!

思わず舌打ちが出そうになるのを堪え、私はクレちゃんの後ろに逃げた。先輩は腕を組みながらムダにエロいしなりを作り、くすくすと笑っている。

ふわりと流れる髪質、柔らかな目元、白くて細い首筋……ほんっとにムダな色気がダダ漏れですね!

「懐かない子ほどかわいいんだよねぇ」

ひぃぃぃ! 変態! 陛下と同じ種類の人間かぁ!

顔面蒼白の私は、クレちゃん越しに敵意をむき出しにして警戒する。よしよし、と撫でてくれる女神様は今日もふわふわであったかい。

「くっ……! 推しがエロい! 推しがエロすぎる!」

少し離れたところでシーナが悶える声がした。シーナ、前世ではアリソンが推しキャラというやつだったのね。

知っているわ。推しっていう存在は、ものすごく貢がせ上手なんでしょう? 前世の妹がフレデリック様推しだったもの。同じものをなぜ二つずつ買うのか謎だったわ。さてはあなたも推しに貢いでいたのね……。

私の心など知らず、シーナの萌え目線はしばらく続くのだった。


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