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イベントです

色々あったパーティーが過ぎ去り、とうとう試験が始まった。共通科目でのトップ維持が目標の私は、前日に追い込みすぎて目の下にクマができたこと以外は問題なく、試験日程二日間を無事に終了した。

アイちゃんもクマができていたが、これは小説執筆による睡眠不足の結果であり、試験勉強をしていたわけではないという。

「今は騎士と姫の純愛がテーマなんですの……」と赤い目で熱く語っていた。おそらくリサーチ元はジュールだろう、恋愛物語なのにやたらと戦闘シーンが細かい。


さて、私とアイちゃん以外は試験のある三日目。もうすぐ二泊三日の郊外研修があるから、そのためのお買い物にやってきていた。


郊外研修は一年・二年合同で、希望者のみではあるが山で三日間過ごすイベントである。友達と仲良くなったり、恋が生まれたりとそれはそれは楽しいイベントだと聞いているわ。


「マリー様、この郊外研修は何が起こるかわかりませんわよ?」


なにげにアイちゃんが私をちらっと見て、フラグっぽいことを言う。ふふふ、と意味ありげに笑っているのが怖い。え、学校行事で何があるっていうの!?


「火山じゃないから噴火する心配もないし。クマとか獣が出たっていう話も聞かないし。大きめのヒルくらいならスプレーで退治できるよ?」


「マリー様、想像の方向性が違います、それに危険度のレベルが高すぎます。私が言っているのは、たまたま足をひねってたまたま好きな人にお姫様抱っこされたり、たまたま告白されて将来を誓い合ったりということですわ」


恋愛方面だったのか。それにしても、そんなに重なるのは偶然じゃない。きっと綿密に計画されているはずだわ。


「アイちゃんはそうなる可能性がありそうだもんね~」

「わっ私は別に! ジュール様に告白して欲しいとか、付き合いたいとか、結婚したいとか思っておりません!」


……なんだろう、自分を見ているような気がしてきた。アイちゃん、口から願望がダダ洩れだよ!

取り乱すアイちゃんを見て、私はくすくすと笑いながらそうなるといいねと思った。


「あ、でもほら。二日目に遠乗りがあるじゃない? そのときにジュールに乗せてもらうとか?」

私の提案にアイちゃんは手をブンブン振りながら否定した。


「いきなり馬ですか!? 二人乗りってものすごく密着しますよね!? そんな勇気ありませんっ!」

遠乗りは馬に乗って野山を散策するんだけれど、馬に乗れない人は乗れる人とペアを組むんだよね。そのときに一緒に乗って、そのままカップルになる人が毎年いるんだって!


私もサレオスと一緒に……って妄想が止まらない。

「マリー様はどうですの? サレオス様なら快く乗せてくださるのでは?」

何も知らないアイちゃんが、うふふと笑って期待のまなざしを向けてくる。でも、私は本人だから知っている。それは絶対にない、と。


なぜなら私は、馬に乗れるから。しかも入学前の調査書でばっちりそれを申告してある。だから「乗れないんです」という嘘が通用しないの! 乗れてしまう、むしろ得意な自分がうらめしい。


「うちはお母様の方針で乗馬は子供の頃からやっているの。『有事の際に、馬に乗れないと話にならないでしょう?』ってね。私もだけれど、クレちゃんも乗れるよ」


「そうですか……。私、乗れなくてすみません」


いやいや、アイちゃん! それわりと普通だからね。多分、女子はほとんど乗れないからね!

申し訳なさそうにしょぼんとするアイちゃんを励まし、私たちは楽しくお買い物を続けた。


途中たまたま見つけた魔法道具ショップで、アイちゃんが縁結びのネックレスをガン見する。


「マリー様、これはどれほど効果のあるものなんでしょう? 好感度が上がる、と書いてありますがそれは恋愛的な意味で上がるでしょうか?」


えええ、なんかうさんくさいなぁ。お守りみたいなものじゃないの?


「どうなんだろう? でも好きな人は自力で振り向かせたいっていうか……」

ネックレスをショーケースに戻そうとする私。でもなぜか……指が吸い付いて離れない!


「マリー様。手が正直ですわ!」


ううう。だめだよ、見たらやっぱり欲しくなる! 私は理性と期待の狭間で苦しんでいた。


「魔力が少し必要なんですのね。願いの深さによって、必要な魔力量が変わる……ということは結局どうなんですの?」


隣でも誘惑されているアイちゃんが悩んでいる。うーん。魔力量か。私のサレオスに対する願望なんて、きっとこの世界にいる全員の魔力を使ってもきっと足りない。


うん、やめておこう! まさか「願掛けのネックレスに魔力を使いすぎて、魔力枯渇で酔いました」なんてことになったら残念すぎる。


私はいつまでもそのネックレスをチラ見しながら、逃げるようにお店を出た。


あっという間に、郊外研修の日がやってきた。長袖一枚で過ごせるほど穏やかな気候に、雲一つない快晴。初日の今日は、学園が用意した馬車に四人ずつ乗り込み、お菓子を食べながら二時間の道のりをのんびりと行く予定……だった。

馬車がリズムよく振動し、ガタゴトと車輪の音がする。

予定では、リーダーの二年生が一人、一年生が三人の計四人がひとつの馬車に乗る。ここまではいい。事前にばっちり聞いていたもの。

「あの……なぜフレデリック様がここに!?」

私の目の前には今、先日のパーティーで頬をぶっ叩いてしまった王子様がいた。試験以来、ご公務で欠席していたフレデリック様とは久々の対面。気まずいことこの上ない。

でも彼はいつものように満面の笑みで、窓枠に肘を乗せて優雅に頬杖をつき長すぎる脚を組んでいる。笑顔が怖いよっ!


「なぜって、乗る馬車は自由に選べるからだよ?」

ああああ、私が質問したのはそういう意味ではありません。確か出発前から女子たちに群がられていて、挨拶すらできない状態だったはず。

なのに、なぜ出発直前になっていきなり飛び込んできたの!?

私の動揺がわかるのか、フレデリック様はにんまりと笑っている。

「たまには学生らしくマリーと思い出作りを、と思ったんだが迷惑だったかな?」

はい、迷惑です。なんて言えるわけないでしょう!?

私は何とも情けない表情をしているような。さっきから眉根を寄せすぎて、もうシワが刻まれるんじゃないかと心配になっている。


「それで……なぜ先輩もここにいるんですか!?」

この空気の読めない王子様の隣には、肉食系男子代表のアリソン先輩がこれまたにっこり笑って座っている。リーダーの二年生が同乗するのは聞いていた。聞いていたけれども!

「昨日ご挨拶したセレナ先輩はどこ行っちゃったんですか!?」

私は悲鳴に近い声を上げて、昨日顔合わせした優しい女の先輩を乞う。

どういうこと!? 昨日までは確かにセレナ先輩の予定だったよね!?

「あぁ、セレナはとてもリーダーなんてできないって言うものだから、俺と変わったんだよ」

せっかく、せっかくクレちゃんたちが私とサレオスを同じ馬車にしてくれたっていうのに……!とんだモンスターたちが同乗しているのはなぜなの。

「マリー、あまり興奮していると酔うぞ。いったん落ち着いて」

ずっと腕組みしながら無言だったサレオスが、冷静に私を宥める。しかも肩をポンポンってしてくれた! 今日もやさしい!

それにしても……何このカオスなメンバーは。そして無駄に豪華。

見渡す限りイケメンに囲まれているのに、ストレスレベルが半端ない!

どう考えても女子の嫉妬をかう予感しかしない。特にアリアナ様が最近やばい気がする。目が合うと怪しげな笑みを浮かべたり、気が付くと背後に立っていたり、私の靴箱と間違えて上履きを持って行っちゃったり……。

考え事をしていたのか、カフェで私の持っていた本に紅茶をこぼしちゃったこともあった。よかった、防水カバー掛けてて。きれいに拭いたし、しかも掛かったのがローズヒップティーだったから、むしろしばらくいい匂いがしたわ。アロマだったわ。

あと普段は淑女の代表みたいな人なのに、昨日はなぜか廊下で走ってきて、あやうくアリアナ様が階段から転落するところだった!


私はお母様の教育方針によって足腰が異常に強いんだから、普通の令嬢がぶつかったら弾き飛ばしちゃうよ! 危うく殺人犯になるところだった……。怖すぎ。

今日はおとなしくしていてくれるかなぁ。明日の遠乗りでフレデリック様と二人乗りでもすれば、前みたいな素敵な淑女のアリアナ様に戻れるかも。私はそんな淡い期待を抱いてみる。


「ねぇ、マリー。明日の遠乗りは、私が乗せてあげるから心配いらないよ? 馬は慣れていないと怖いかもしれないが、しっかり捕まっていれば平気だからね」

ん? フレデリック様がおかしなこと言ってるわ、ものすごい笑顔で。

「ええ!? マリー、じゃあ俺が乗せてあげるよ。王子様に乗せてもらうのは気が引けるでしょ?」

アリソンがもっともらしく、もっともじゃないことを言い出した。うん、一部分は正解だね。まぁ、根本的に間違っているけれど。

私は馬に乗れます、と言おうとするとアリソンがなぜか正面に座るサレオスに話しかけた。

「サレオス様はマリーを誘わないのですか?」

そういえばこの二人は、私の誕生日のときに街で会って以来だなぁ。先輩、誘うも何もサレオスは知っているんですよ、私が馬に乗れるってこと。

「誘わない」

おおっ! サレオスさん、適格かつ最小文字数でのお返事です! 話したくないのがひしひしと伝わってきますよ! 嫌いなのかな。何となく険悪なムードが漂っている。

「へぇ、そうですか」

会話が終わった。すごいなこの二人、絶対に共存できないタイプだなぁ。私は二人の顔を交互に……見ずにサレオスのきれいな横顔にばかり気を取られていた。だって好きなんだもん。

「で、マリーはどっちと一緒に乗りたい?」

フレデリック様が笑顔で尋ねるが、期待のまなざしで見られても困る。

「私、乗馬得意なんです。だから一人で乗れます。お二人は誰か別の人を乗せてあげてください」

ふふふ、遠乗りはみんなで楽しくいくんだもん。この二人のことはもう知らないっと。

「でもマリー、やっぱり山は危ないからね。何があるかわからないよ? だから一緒に」

「あ! そこも大丈夫です!」

私はカバンの紐を外し、中に大量に詰まっている防犯グッズを取り出した。

「エリーが準備してくれたんですが、これは毒草や毒の沼を浄化するための薬剤で、こっちは食人植物を眠らせる魔法薬」

「「……」」

「そしてこれは地龍に遭遇したとき用の、寄せ笛と眠り笛です」

「ええっと、なぜいったん笛で寄せるのかな!?」

「え? 母から『もし遭遇したら鱗を取ってきて』と言われたので。多分、弟も欲しがると思うんですよね。だから、一度呼び寄せて眠らせてから、オリハルコンの短剣で鱗を採取する予定で」

ん? 何かな、フレデリック様と先輩が急に静かになった。サレオスをちらっと見ると、笛をじっと見て「吹くだけで寄ってくるのか」と興味津々なのに。

「マリー、やり方が熟練の冒険家だよ」

そんなこと言われても。私は家族からのお土産の催促に応えたいだけなんだけれど。まぁ、いないってわかりきってるから今回は出番なしだと思う。

それからも私はエリーが用意したさまざまなアイテムを紹介し、この気まずい旅を乗り越えたのだった。


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