回収(サレオス視点)
「マリー、靴あったぞ」
サレオスがベンチに戻ると、そこにはすやすやと眠るマリーの姿が。片方の靴は、地面にぽつんと置かれている。ベンチに深く座っているせいで、ドレスの裾からのぞく小さな足がぷらんと浮いていた。頭はこっくりこっくりと揺れている。
七色の光に照らされ、プラチナブロンドの髪がときおりキラキラと輝いて見える。
「弱いのか、図太いのか……」
少し微笑むようにして幸せそうに眠るマリーを見て、サレオスは笑った。
泣いていたかと思えば靴がなくても歩けると言い出し、ほんの少し目を離した隙にこんなところで眠っている。
(俺が追ってこなければどうしていたんだ……)
サレオスは自分の上着を脱いで、マリーを包むようにかけた。
そして隣に座ると、マリーの揺れる頭を引き寄せて自分の肩にもたれさせる。
フレデリックとマリーが踊っているとき、一階にいたサレオスは偶然それを目にした。声をかけようと近づいていったところ、相変わらず軽い口調のヴァンにすっと手で制されたのだ。
「うちの主にも少しチャンスをください。ダンスひとつでマリー様が心を奪われるとは思いませんが、あまりに不憫なもので」とヴァンは笑った。
すぐに庭に出られるようにガラス扉の前で待っていると、マリーがどこかを見て顔を顰めたり青くなったり、俯いて何かを悲しんでいたり表情をくるくると変えた。
「マリー様……まったく集中していないですね」
「そのようだな。これ、曲が終わるまで待たないといけないのか?」
「すみません、そうしていただけると助かります」
おまえは保護者か、とサレオスは思った。
しかしそのうちフレデリックの様子が変わり、曲が終わってもマリーを離さないのを見てさすがにヴァンもサレオスも二人の元に早足で動いた。
((マズイ!))
そう思ったときにはもう遅かった。キスしようとしたフレデリックの頬を、マリーがおもいきり叩いた。ヴァンは衝撃的な光景を目の当たりにして、それでも手で口元を覆って笑いを堪えている。
彼はすぐにマリーのところに寄っていき、オロオロするばかりの彼女はすぐに反対方向に走り去ってしまった。
「サレオス様! マリー様の回収をよろしくお願いします」
「あぁ、わかった」
視線を彷徨わせて動揺しているフレデリックのそばを通り過ぎ、サレオスはマリーをすぐに追った。




