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第3の問題

「ねぇ、どうしても今から行くの?」


サレオスの誕生日があと3時間ほどで終わろうという頃、私の部屋には外套を纏った黒ずくめの不審者ルック……じゃなかったお忍びモードのサレオスが立っていた。


私はすでにアイスブルーの部屋着ワンピースに着替えて、のんびり紅茶を飲んでいたところだったわ。そこにサレオスが訪ねてきて、「第3の問題」を解決しに今から出かけてくるって……。


「20分ほどでアガルタの王城に着けるとして、あいつもまだ起きてるだろう。

そんなに心配しなくていい、報告と話し合いだ」


まさか彼が、フレデリック様のところへ行くと言い出すなんて思わなかった。しかも今日。


確かに王太子であるフレデリック様をスルーできるはずはないんだけれど、行動が早すぎるわ。


「親友だったらしいから、アポなしで大丈夫だろう」って言ったときの目が笑ってなかった。西の国の王女の件は、かなりご立腹らしい。


私が隣国のサレオスに嫁ぐには、国王陛下の許可がいる。陛下は自分の息子が私に求婚していることはとっくに知っていて、私のお父様には「無理強いはしないが、なるべくなら希望を叶えてやりたい」と、国王としてではなく親心をみせたらしい。迷惑な。


お父様は、私が嫁がなくて済むように別の候補者を探しているんだけれど、(ちなみにレヴィンからは生け贄と表現された)

国の行く末のことも考えると誰を推すかは決め兼ねているのだ。


「ねぇ、あぶなくなったらすぐに帰ってきてね?無茶しないでね?」


お城に忍びこむってそんなに簡単にできるのかしら。門兵や巡回兵に見つかって攻撃されたらって思うと気が気じゃないわ。


そういえばヴィーくんを拾ったのもアガルタ城だったけれど……

え、うちの国って警備体制どうなってるの?別の懸念事項が出てきてしまった。


お風呂上がりで柔らかくなっている白金の髪を指でくるくるしながら、サレオスは私に心配かけないように微笑んだ。


「必ず無事に帰るから。マリーは安心して眠ってて」


あまり行ってほしくない私は、彼の胸に縋って甘えて引き留めるけれど効果はなし。上手な甘え方をシーナに伝授してもらわねば。


「……本当に、気をつけて」


部屋の外ではイリスさんが待っている。おそらくもうタイムリミットだわ。私は握りしめていた外套の裾を、名残惜しさで目を伏せながらゆっくりと放した。


「いってくる」


唇の感触を確かめるように、丁寧に優しくキスをされ、愛おしそうに見つめられる。


「うぐっ……!」


あぁ、ドキドキして苦しくなってのたうちまわりそうだ。かわいく「きゃっ」とか「ぽっ」とか全然ならない!私の異常な熱は、そんな乙女な擬音ではとどまらないのよ。世の中の擬音に異議申し立てしたい。


「いってらっしゃい。約束よ、ちゃんと帰ってきてね」


いやぁぁぁ行ってほしくない、もう婚約したから同じ部屋で眠ってもいいんじゃないの!?ダメなの!?そりゃそうだ、わかってるわ、でも心と常識は別物なのよ~!


彼は宥めるように私の肩にそっと手を置いて、かすかに微笑んでから出て行った。


後ろ姿を見送ると、パタンと音を立てて閉じられた扉が急にさみしさを醸し出す。


「さぁ、マリー様。今日はもうお休みください。色々なことがあってお疲れでしょう」


いつまでもその場に立っている私に向かって、エリーが慰めの言葉をくれた。

エリーは、私の髪をブラッシングしてひとつに三つ編みするための大きな櫛を手にして笑っている。


そういえばフレデリック様のところに行くなら、エリーも一緒に行けばヴァンに会えたのに。わりとドライだわここの夫婦は。


「大丈夫ですよ。きっと万事うまくいきます」


「本当に……?」


「例え、何か不測の事態が起こって戦ってしまったとしても、倒れるのはフレデリック様ですから大丈夫です」


そっち!?

戦う心配はしてなかったわ!私がしていたのは、警吏や護衛騎士に見つかる心配だからね!?


「……寝よう」


なんの慰めにもならないエリーのフォローはさて置き、起きていたからといって特に役に立てない私は、サレオスの言いつけ通りにおとなしく眠ることにする。


エリーに髪を梳かしてもらっているうちに、どんどん瞼が閉じてきてしまう。


やはり急激に増えた魔力が身体に馴染んでいないみたいで、夜になって体力がなくなるとかなりだるい。


「サレオス……心配だわ」


ただ、「眠れないかも」なんて考えたのは一瞬で、翌朝リサにカーテンを開けられるまで恐ろしいほどぐっすり寝てしまった。


ヒロインなら絶対に寝ない。

モブの底力ってすごい。


しかも目が半開きで、ややヨダレも出てたらしい。疲れすぎだろう私よ。


「……一緒には到底寝られないわね」


よかった、早まったマネしなくて。


「誰にだって疲れているときはあります。目が半開きなことも、ヨダレが出ていることも、呻き声を上げていびきをかいていることもありえます」


……ちょっと待ってリサ!!

今のは例えよね?私がそうだったってことじゃないわよね!?


あぁ、リサの優しい笑顔が受け止められないっ!


サレオスと同じ部屋で眠らなくてよかったと、心の底から思った。


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