ヴィンセントからの報告
マリーたちが宿に戻ってくる少し前のこと。
ヴィンセントが二階にある客室に窓からやってきて、揺り椅子で優雅に過ごしていたメアリーに報告を行った。
もちろん、こっそり見守ってきた二人のことを。
「どうだったヴィーくん!」
メアリーはすぐに立ち上がり、聞かずともわかっている答えを急かす。
「はい、ご無事にまとまりました」
「イェーイ!キターーー!」
思わず右手を掲げ、高く飛び上がるメアリーにヴィンセントが引いている。
「で?で?どんな感じだったの!?」
一通り歓喜で踊り狂った後、メアリーはヴィンセントにさらなる報告を促す。
「は、はい。最初はのんびりと平和そのものな空気だったのですが、何があったのか主様が逃走をはかりまして……」
この言葉に、メアリーは腕組みをすると右手の人差し指を顎に添えた。
「あら、さてはマリーちゃんたらフラれると思ったのね?きっとフラれたくなくて逃げたんだわ……それで?」
ヴィンセントは「まさかこの期に及んでフラれると思うなど」と半信半疑だが、メアリーの目を見て報告を続ける。
「マリー様が本気で逃走をかました結果、サレオス様がそれを追うことになり、途中で『こんなに足が速かったのか』とサレオス様は主様の新たな一面に感動しているように見えました」
「サレオス殿下ったら……わざと泳がせたのかしら。風魔法で捕らえれば一瞬なのに」
深読みするメアリーに、ヴィンセントは見解を話す。
「いえ、わずかな傷すらつけたくなかったのでしょう。主様は行動が神がかり的に読めませんから、万が一、風魔法で肌を傷つけでもしたらサレオス様は絶望なさいますよ」
「なるほどね。心配性だものね殿下は。その上、奥手で神経質で、言葉足らずで……でもそれもすべて魅力だわ。イケメンは正義!」
逸れゆく話題に、ヴィンセントは一度咳払いをして報告の続きを口にする。
「それでですね、なんだかんだで主様は捕まって、とうとうサレオス殿下がお気持ちを口にされたのですが」
「きゃぁぁぁ!ロマンスだわー」
「主様が衝撃で泣きすぎて、ハタから見れば完全にフラれて泣いて縋っている感じに見えました」
「おふっ……」
「一族郎党、皆殺しにされた不幸な娘くらい泣いておられました」
ヴィンセントの言葉に頭を抱えるメアリー。「今度、男を落とす可憐な泣き方を伝授しなくては」と胸の中で思う。
「ええっと、その後はとにかくイチャイチャしておられまして、でも突然主様が誰か敵を探すみたいにキョロキョロしだしたりも……まぁ、とにかくお幸せそうで……うぐっ!あ、主様の積年の想いがっ、よ、ようやく……!」
その場にガクンと片膝をつき、涙を繰りこぼすヴィンセントにメアリーは無言だった。
「あ、あんなに穢れなき魂をお持ちの主様が……幸せになれぬはずはありません!ええ、ええわかっていました!俺はわかっていましたよぉぉぉ!」
「キモいわヴィーくん。あなたちょっと休みなさい?ね?」
彼の肩にそっと手を置き、苦笑いで休息を勧めるメアリーは、すでに次の行動を思案していた。
「ふふふ、これは派手にお祝いしなくちゃ!アランには、二人と話をする時間くらいはあげましょうか。来月は何もイベントがないから、テルフォード領で婚約祝いのお祭りをしましょ!
忙しいわ~!カイム様の従者くん借りて帰ろっと」
涙を拭ったヴィンセントが自室に戻るのを見送ると、メアリーはさっそく鼻歌を歌いながら出かけていくのだった。




