答え合わせのお時間です【前】
庭園からの帰り道、ゆっくりと馬を歩かせながらこれまでのことを思い出していた。
もっとも、サレオスは過去のことよりも今後の建国式典や婚約式だとかの話を進めたがったけれど、私がどうしても聞きたいことがあって譲らなかったのだ。
「ねぇ、いつから私の気持ちに気づいていたの?」
あんなにバレないようにしていたのに……。
いつだったか、エリーたちが「バレてないつもりでいたの?」っていう顔をしていたけれど、まさか本当にバレていたなんて思わなかった。
両想いだったからよかったものの、これで片想いだったから黒歴史すぎる。ストーカーすぎて捕まる。
サレオスは曖昧に「ここ二、三ヶ月くらいだろうか」と言って済まそうとしたけれど、何がきっかけでバレたのか気になって仕方ない私はさらに深く追求した。
だって二、三ヶ月って長くない!?衝撃で髪が抜けるかと思ったわ。
「絶対にバレないようにしなきゃって思ってたのに」
横向きに馬に座り、彼にもたれながら私は呟く。するとサレオスは片手で私の髪を撫でながら、前を向いたまま答えた。
「マリーの魔力を増やそうとしたとき、かなり意識が朦朧としていたんだろう、気を失う前に『どこにも行かないで』と言われた。それで俺を好いているんだなと気づいた」
「なんですって!?」
私、まったく覚えてない!そんなのおもいきり好きだと言ってるようなものじゃないの!
両手で顔を抑えながら、サレオスの胸に頭を押し付ける。あのときは確かまだ2月、そんなに前からずっとバレ続けてたのね!?
あああ、それ以降のムダな努力が次々と思い起こされる。
王城の茶会でオロオロしていたときも、卒業パーティーで求婚されて匿ってもらったときも、制服のタイをもらったときも……好きだという気持ちはバレていた。
思い返してみれば、西の国の王女様と一緒にあれだけサレオスのことを素晴らしいと褒めちぎっておいて、なぜ気づかれないと思っていたのか。毎日全力で、熱烈なラブレターを送っていたも同然だわ。
は?
自分がバカすぎて内臓がちぎれそうだわ。
これまで何やってたの私?自分で自分がおそろしい!
「馬に乗っててよかった。歩いてたら恥ずかしくて海に身投げしたかもしれない」
恥ずかしすぎて死ぬと書いて恥死。自分の迂闊さが悔やまれる。
「それはよかった。今後も移動はなるべく馬にしよう」
いや、王都に海はないから。え、今後も私はそんな恥死行動を重ねるってこと?
サレオスが本気か冗談かわからない返答をするからじ~っと見つめていると、彼は片手で私の頭を押さえ、ふっと優しく笑って額にキスをした。
「うっ!?」
不意打ちはダメ!!するならすると言ってからして、心の準備が必要だから!
一瞬にして身体を硬直させた私に気づき、サレオスは笑いを堪えているようだった。
「それまでは確信が持てなかったんだ。好かれているとは思っていたが、子供の頃のようにただ懐かれているのかと……」
「好かれてるのはわかってたってどういうこと?そんなに顔に出てたかしら」
「それは……知らない方がいいこともある」
私は教えてほしいと言ったけれど、「また今度」とはぐらかされた。これは教える気がないわね……。
海の波の音が遠ざかり、宿まではあと15分もかからないだろう。病み上がりでおでかけしてさすがに疲れてきた。
でもまだまだ聞きたいことはたくさんあるの。今じゃないと教えてくれない気がするから、私はさらなる質問をした。
「それならサレオスは……いつから私のことを好きでいてくれたの?」
はい、ここ大事ですよ!片恋に終わらずに済んだなんて私にとったら奇跡に近い。よく恋愛ハードモードの神様が許してくれたものだわ。
サレオスは私の質問にしばらく悩んでいたけれど、ゆっくりと話し始めた。
「具体的にいつというのは考えたことがないな」
えええ、いつのまにかとかそんなことあるの!?きっかけとかないのかしら。
「去年の夏にテルフォード領の本邸に行ったときは、知らぬ娘と政略結婚するくらいならマリーと結婚した方が楽しいだろうな、くらいの気持ちだったな。
あぁ、ちなみにトゥランでは結婚する気のない異性の家には行かない」
ええ!?そうなの!?
おそるべし文化の違い。はっ!お父様がオロオロしてたのはそれを知ってたから?教えてくれればよかったのに。
「いつからという明確な時期はむずかしいな。学園祭の前あたりからだろうか……
いや、違うな。もっと前か?」
サレオスはちょっと首を傾げて真剣に考え込んでいる。これまで考えたことはなかったらしい。結局、「自分でもよくわからない」と言って話を閉めてしまった。
「いつから好きだったかなど、そんなに大切か?もうすでに俺のすべてはマリーのものなのに」
いやぁぁぁ!キュン殺し犯があっさりと殺りに来てるー!
こ、これからこんなことが多発するの?サレオスよりも私の寿命の心配をしなければいけないわ。
胸を押さえて悶える私は、生存本能から少し距離を取ろうとした。でも少しでも離れるとまた引き戻されてしまう。落馬を警戒した手厚いフォローがなされている。
「ねぇ、落ちないように気をつけるから大丈夫よ」
やたらドキドキとなる胸を、握った拳でどうにか押さえながら私は言う。このゼロ距離は心臓発作を起こす可能性があるわ。
するとサレオスは当たり前のように私の髪を撫で、わざと耳元で優しく囁いた。
「俺がこうしたいからこれでいいんだ」
「ひぐっ!!」
………………確実に今、息が止まった。頭の血が沸騰して、急激に意識が遠のくような気がしてきた。




