心の内側は【後】
これまで何があっても逃げずに来たけれど、今日ばかりは逃げずにはいられない。
白い石の階段なんて、三段飛ばしで駆け下りてやった。自分で言うのも何だけれど、私の全力疾走は速い。
ハタから見れば転げ落ちてる感じに思われるだろうけれど、お上品にトコトコ駆け下りている女なんてはっきり言って逃げる気がない。本気だせば、魔力なんてなくても人はちょっと飛べることを私は知っている。
サレオスは数秒その場に停止していたみたいだけれど、すぐに私の後ろから追ってくるのがわかった。
「待てマリー!!」
追ってくる声は、なかなか鬼気迫るものがあるわ。
でも嫌なの、直接フラれたくない!手紙かクレちゃんにそれとなく伝える形にしてほしい。
もちろん逃げ切れるなんて思わない。歩幅と身体能力が違いすぎる。だとしても止まれないのは怖いから!
フラれるとわかっていて、それを受け止めるにはまだ気持ちの準備が全然足りない。お願いだから放っておいてほしい。
「マリー!」
あぁ、追ってくる声がさっきより近くなった。でも、基礎スペックの違いに愕然としている暇はない。
「走ると危ない!転ぶだろう!」
いやぁぁぁ!
こんなときまでお母さん化!なにこれ、何の呪い!?
これアレじゃないの?定番の断り文句として「妹みたいにしか思えない」ってあるけれど、同じ年なのに「娘のようにしか思えない」って言われるヤツじゃないの!?
私のこと養女にでもするつもり?
どんどん距離を詰められ、あっという間にすぐ後ろまで彼は迫っていた。
「話を聞いて!とにかく止まって」
「いや、聞きたくない!私じゃない、壺か何かに話してお母さん!」
「お母さん!?おいマリー、ってそっちは……!」
小川の石の上を飛び越えて、さらに逃走を図る私。せせらぎを渡りきって逃げたのにはサレオスが引いているのを感じたけれど、本気で逃げてるんだから生ぬるいことはできないわ!ショートブーツに感謝よ。
「マリー、逃げ方が本気すぎるぞ」
そんな呆れ声を無視して逃走するけれど、私が6歩で渡った小川を2歩で飛んだのは反則よ!そっちだって本気出してるじゃないの!
情けないことに、どれほど全力疾走しても結局ものの数分で腕を取られて捕まってしまった。
「捕まえた……!」
「ひっ!!」
あぁ、彼氏彼女の「捕まえたぞ~あははは」みたいな甘さが全くない。
そりゃそうだ。彼氏彼女じゃないからね!
「やだ離してお願い!」
「離さない」
「付き纏ったことは反省してます!」
「は?何を……って、マリーあぶなっ」
それでもまだ逃げようとして腕を全力で振りほどくと、バランスを崩した私にサレオスが巻き込まれるように芝生の上に倒れこんだ。
ーードサッ
「ぎゃあっ!」
ぐっ……地味に痛い。左の肘を強打したわ。
サレオスが庇ってくれたから頭は打たずに済んだ。彼も腕を打ったのか、ちょっと顔を顰めている。
「「……」」
私は芝生の上に手をつき、のそのそと起き上がった。
その場にペタンと座り込んだ私に対し、サレオスは向かい合いあぐらをかいて座り込む。
あれ、一緒に倒れたはずなのに、私には葉っぱとか花びらとかついていてなんで彼にはついてないの?
ステータスの差?イケメンかどうかの違い?神様のえこひいきを感じるわ!
私がじとっとした視線を向けていると、サレオスがため息のようなものを少しだけ吐き出してから言った。
「マリー、もう気は済んだか」
「……」
ようやく観念した私は、黙ったままコクンと頷いた。それを見て呆れたように笑った彼は、私の頭や肩についた葉をひとつひとつ丁寧に払っていく。
「……」
逃走に失敗した私は、死刑宣告を待つ囚人のよう。罪状はさしずめ『付きまとい及び下心過多』だろうか。
あああ、そんなこと考えて現実逃避している場合じゃない。何も言わないサレオスが逆に怖い。
おそるおそる顔をあげると、彼は意外にも優しく笑っていた。
「何がおかしいの?」
前髪についた黄色の花びらを、細く長い指が優しく取りのぞく。伏し目がちにそう問えば、柔らかな声色で答えが返る。
「昔もこんな風に、マリーの頭についた葉を取ってやったことがあったなと思って」
「……レオちゃんが?」
葉や花びらを取り終わり、サレオスは私の両手をそっと包み込むように握った。その手はとても温かい。
「レオちゃんか……」
濃紺の瞳がわずかに陰る。
「俺はマリーの記憶が戻らなくてもいいと思っていた」
「それは、私がどうにかなっちゃうかもしれなかったから?」
記憶がなくなることを心配してくれていたのかな。
「確かにそれも、ある」
「それ、も?」
死刑宣告待ちで涙目になっている私は、きっと情けない顔をしているんだろう。彼は私の左目から一筋だけ流れた涙を、親指でそっと拭って困ったように笑う。
「あぁ、なぜ泣く」
「ううっ……罪は認めます~!でも養女は無理なのぉぉぉ!」
「なんの話だ」
めそめそ泣く私を見て、サレオスは苦笑した。こんなときにも優しいなんて。この笑顔も見納めかしら、と私は修道院行きを覚悟する。でも俯きがちになる私と真逆で、サレオスはどこかすっきりした顔をしていた。
「俺が思っていたのは、記憶が戻らなくてもいいっていうのとは少し違うかな。むしろ思い出して欲しくないと思っていた」
「……なぜ?」
サレオスは私の手をゆっくりと引き寄せ、はずみで腰を浮かせた私を自分の胸に抱き寄せようとする。
少し抵抗したものの、腕をひっぱられてしまっては従うしかない。彼の長い脚の間にすっぽり入ってしまった私は、背中にまわってきた腕に囲われて急激に心臓がバクバク鳴りだした。
何だか大事なものを包み込むみたいな気遣いが伝わってきて、ちょっと戸惑ってしまう。
もう息をするのもやっとの状態で、ただひたすら唇を噛みしめていた。
「子供の頃の記憶をマリーが思い出して、またあのときみたいに俺のことをただの友人だと思ってしまったら。そう考えると……怖かったんだ」
思いもよらない心の内を聞いて、私は言葉を失った。寄りかかっているサレオスの胸から聞こえるかすかな音も少し速い気がする。
ほんのわずかな会話の隙間すら長く感じてしまい、私は思わず彼の上着をぎゅっと握った。
「あのとき俺たちは互いを、友人のようなものだと思っていただろう?マリーは俺に懐いてはいたが、あれは恋心ではなかった」
「うん……」
そういえばそうだわ。レオちゃんは大好きだったけれど、恋する気持ちはなかった。私が恋をしたのは、十六年間でサレオスだけ。レオちゃんじゃない。
「マリーには……今の俺を好きでいて欲しかった。膨大な魔力を持ちながら、兄上のように何かを成せる器はなく、非道にもなりきれない。こんな俺でもマリーは何も求めず、笑ってそばにいてくれた」
……どうしよう。お嫁さんになりたいって、過剰に求めてるけど。え、いいの?これはいいのかしら。
私は別の意味でもドキドキしながら、彼の話を聞いていた。
「王子としてでなく、マリーはただの俺を好いてくれた。それが嬉しくて……それなのに、記憶が戻ってまた昔みたいにただ懐いているだけだと、そんな風に気持ちが変化してしまったら……俺はきっと自分を抑えられずマリーを傷つけてしまう。
だから記憶なんて戻らなければといいと……マリーのためじゃなく、すべては俺が、俺のために願ったことだ」
抱き締めながら、私の髪を撫でるサレオスの手はとても優しい。
「だから目覚めたマリーにレオちゃんと呼ばれたのは複雑だった。嫌ではないが……あの頃に戻ってしまったような気がして、俺のことはもう好きではないのかと疑った」
腕の中に閉じ込められたままの私は、彼が今どんな顔をしているのか見えないけれど、なんだか苦しいくらいに愛おしくなった。
なんでもできるのに、自己評価が低くて優しい王子様。私に好きでいてほしかったなんてかわいいことを言う、私の好きな人。
あぁ、今すぐ山に行って好きって叫びたい。ゴロゴロ転がってキュンを発散させたいわ。瞳を閉じてそんなことを考えていると、穏やかな声で名前を呼ばれた。
「マリーウェルザ」
「!?」
その瞬間、私の身体はビクッと跳ねた。そういえば初めてじゃないかしら、ちゃんと名前を呼ばれるの。
私はドキドキしながら、そっと身体を離してサレオスの顔を見上げた。
いつもは無表情で人を寄せ付けないオーラを放っているのに、今は穏やかな顔でとても幸せそうで。
私はただ黙ってその笑顔を見つめていた。
「俺は、これからの人生を共に在るのはおまえであって欲しいと願っている。
マリーが好きだ」
「っ!?」
「愛してる」
突然の告白に、瞬きすら忘れて目を見開く。
息を呑んで固まる私を見つめ、サレオスはさらに続けた。
「でも俺は狭量だから、許されるならマリーを他の誰にも見せたくない触れさせたくない。片時も離れずにそばに居られたらどれほど幸せかと、そんなバカげたことを思うほどだ」
サレオスの言葉の意味を理解した瞬間、ボロボロと涙が零れ落ちた。溢れる涙に思わず瞳を閉じる。
すると長い指が私の頬を撫で、とめどなく流れてくる雫をそっと拭ってくれた。
「こんな俺を、記憶が戻った今も好きでいてくれるのか……?」
どうしよう、すぐに返事がしたいけれど、泣きすぎてまったく言葉が出てこない。両手で顔を覆ってとにかく号泣し、嗚咽を漏らす私を前にサレオスはじっと返事を待っていてくれるようだった。
「うえっ……ひっ……ううっ……!」
やばい、もっとかわいく泣く練習をしておけばよかった。あまりに衝撃的なキュン爆弾により、目と喉が崩壊したわ。
しゃくりあげて泣く私は子供みたい。
ときおり、私たちの間をふわりと穏やかな風が吹き抜ける。両手で口元を覆い、ひたすら泣き続ける私のことを、サレオスは気長に待ってくれていた。
優しく頭を撫でられているうちに少し落ち着いてきて、どれくらい時間が経ったかわからないけれど、ようやく顔をあげればまだ雫の残る目元や頬に唇が寄せられた。
ああ、まさかこんなに幸せな時間があるなんて。大きく息をついた私は、震える喉から精一杯の声を振り絞り、自分の気持ちを口にした。
「好き。世界で一番サレオスが好き。大好きなの」
そういうと、待ちわびていたかのように嬉しそうに笑った彼は、私の耳元に手を添えて何度も何度もキスをした。
「マリー」
「ん……」
あまりに幸せで、本当に現実かと思うほど嬉しくて。涙腺が壊れてしまったのか、はらはらと落ちる涙の雫はまだ止まらないけれど、頬や瞼にも次々とキスをされて顔が熱くなる。
「情けないかもしれないが、今日までがとても長く感じた。俺も……マリーが世界で一番好きだよ」
「っ!!」
ぎょえええええ!?
やばい、倒れる。吸った息をうまく吐き出せない!
せっかく想いが通じ合ったのにこのままじゃ私また気絶する!
優しく、でも情熱的に唇を吸い上げるように重ねられたら愛されている感じがしてものすごく幸せで……誰かに邪魔されないか不安になってきた。
膝に置いた右手は、互いの指を絡ませて繋がれている。
「マリー」
何度も名前を呼ばれては口づけられ。甘やかな目で見つめられれば、胸が締めつけられるほどキュンときた。
こんなに幸せでいいんだろうか。そして、ふと思ったの。
……え、これ現実?
大丈夫?ねぇ、大丈夫なの!?
好きな人に愛してると言われ、幸せ気分で唇を重ねていた私は、突如として「これは夢かもしれない」という疑念にかられた。私は手でサレオスの胸を押しやり、逃げるように唇を離す。
「マリー?どうしたんだ」
彼は不思議そうにこちらを見つめている。
私は自分の頬に添えられた大きな手をぎゅっと握り、おもいっきり眉間にシワを寄せた。
「これは夢かもしれないわ!」
「は?」
地面の芝の感覚も、白金の髪を揺らすゆるやかな風も、私を抱きしめてくれるサレオスも、全部私が作り出した妄想かもしれない!
「こんなに幸せなんだもの!おかしすぎるわ」
涙が止まり赤い目をした私は、サレオスを見上げて必死で訴えた。
「いったん待って、全部夢かもしれない。恋愛ハードモードの神様がこんな奇跡を……ありえないわ」
「よくわからないが、神様だってたまには別の者に憑いているときもあるんじゃないか?」
「だいたいっ、こんなに豪快に泣いたのに、鼻水が垂れてないのもおかしい。春だから!?いいえ、夢だからよ」
「ちょっと落ち着こうかマリー」
「はっ!?それにサレオスがこんな風に気持ちを口にするなんて……たまに石なんじゃないかと思うくらい声を発しない日もあるのに」
「そんなこと思ってたのか」
「やっぱりおかしいわ。都合が良すぎるもの。あぁでもこれが夢だったら、もうここに永住するのもありだわ」
また泣きそうになっていると、しばらく無言でいたサレオスが私の肩を両手でつかんだ。
「マリーはこれが夢だと思うんだな」
「え?」
纏うオーラが急にピリッとした。
あ、やばい。
そう思ったときにはもう遅い。完全に目が肉食獣な感じに光ってる!
「ひゃっ」
小さな悲鳴をかき消すかのように、ぐいっと引き寄せられて今度は強く唇を重ねられた。
「んんー!」
今までにないくらい激しくキスをされて、一瞬で私はパニックになった。逃げようとしても肩も後頭部もがっちり抑えられていて、少しも動けない!
しかも強引に押し開けられた唇に、初めての感覚が入ってきて脳がショートしかける。
「んう!?」
うぎゃーーー!!!!
〇△□×〇△□×〇△□×〇△□×!?
このぬるっとしたものは……
し、舌ぁぁぁ!!!!!ムリムリムリムリ、私にはまだ早いですー!!!!!
「んんんんんん!んうー!!」
怖い怖い怖い!死んじゃう!
目をぎゅっとつぶってひたすら耐えるも、緊張と衝撃で全身の力が抜け始めた。特に頬や顎の筋肉は職務放棄も甚だしい。
もう精神的に蹂躙されてしまった私は、気絶寸前でくらっと後ろに倒れかかる。
でもそんなことは許されず、ぎゅうぎゅうと強く抱き締められて、私はまた彼の腕の中に囚われた。
すっかり涙は引っ込んでしまって、マリーは戦闘不能ですよ!茫然自失とはまさにこのこと。
「マリー」
「は、はい……」
あぁ、どうしてあなたはそんなに平常運転なの?ふーふー、ぜーぜー言っている私とは雲泥の差だわ。彼の胸にくたっと寄りかかる私は、じっとおとなしくしていた。
「これは現実だ。もうイヤだと言っても放してやれない」
自分の心臓がうるさくて、息も絶え絶えで、でも幸せだから誰がイヤだなんて言うものですか。私は彼の背中に手をまわし、負けないくらい強く抱きしめた。
「イヤだなんて言わないわ。サレオスこそ、私から逃げられると思ってるの?」
ちょっと高飛車に言ってみる。
ふふふ、両想いだとわかればこれくらいは言えるのよ!急に態度を変える女、それが私です。
そんな私の態度がおかしかったのか、しばらくの間サレオスはクツクツと笑っていた。
そしてまた見つめ合うと、どこかで見たような悪い顔になる。口角を上げ、美しくも怪しい微笑みに私は見惚れてしまう。
「すまないが、もうすべて決まった後なんだ」
は?決まったって何が?
「マリーが眠っている間に、マリーの母上とうちの兄上の間で俺たちの仮婚約が成立してしまっているからな」
…………は?仮、婚約?私は驚きで目を瞠った。
「仮って何!?仮婚約って、誰と誰が!?」
驚く私の額に、軽いキスが落とされる。いやいや、今そんなことしてる場合じゃない。混乱のあまり、急に周囲の静寂が気になり始める。が、そこに衝撃のお知らせが入ってきた。
「マリーの母上が、慰謝料代わりに今すぐ婚約か俺を婿に差し出すかの二択で兄上に迫ったらしい」
は、はぃぃぃ!?隣国の王子様を婿にって無理がありすぎる!
「もちろん婿は無理だ。臣に下りても俺は兄上のスペアに変わりないからな。無論、マリーの母上もすべてわかっての要求だろうが……まぁ、このおかげで俺も手間が省けた」
開いた口が塞がらない。顎が外れそうだわ!サレオスはなぜそんなに平然と話せるの?世間話するみたいに……。
「こちらの事情ですまないが、建国式典の際に兄上の即位式も行い、ついでに俺のための手続きもすべて行う。それまでは正式な婚約は結べないから仮、だ」
「……」
「あぁ、もちろん、俺とマリーの話だ。当然だろう」
「……」
は、早すぎる。眠っている間にそんなに色々進んでたなんてまったく知らなかった!
何も言葉が出てこない私の前で、サレオスはおかしくて仕方がないといった様子でクツクツと笑う。
「本当はすべて整ってから求婚をと思っていたが、あとたった二か月が待てなかった。マリーはキスをするなと言い出すし、兄上は来るし、記憶は急に戻るし……まぁ、今回の来訪はいい機会だと思っていた」
えええ。もう展開についていけない。私はときおり意識が飛びそうになるけれど、深呼吸をして何とか持ちこたえる。
「俺はマリーの記憶が戻らなくても、兄上が滞在している間に求婚するつもりだったから」
「へ、へ~」
呆れているのかびっくりしているのか、よくわからない悲鳴に似た声が漏れた。
「私、10年くらいは待つつもりで……」
「俺はそんなに待てない」
なにそれ、どれだけ悩んだと思ってるのよ!?でも嬉しそうな顔を見ていたら、何だかこれまでの私のもやもやなんてどうでもよくなってきたわ。
サレオスは半分くらい放心している私に対し、優しい声で言った。
「マリーはもう俺のものだ、一生、俺に囲われて幸せになってもらう」
「い、一生、囲われて?」
「そう。逃がさない」
えええ……何よそれもう、そんなに嬉しいことはないわ。監禁生活かどうかはわからないけれど、とにかく求婚されました!
どうやら現実みたいだわ。私はようやく頭がはっきりしてきて、喜びが爆発してしまい思いっきり彼の首元に抱きついた。
「私、そばにいていいのね」
「あぁ、ずっと。俺の妻として」
妻……って、あの妻!?きゃああああ!ようやく、ようやくこの日がやってきたのね!
抱きついても迷惑がられない、不審者扱いされる心配もない!もう絶対に離れないんだから。
「やっと……やっと、恋愛ハードモードはおしまいなのね?」
涙声でそういうと、サレオスは私をしっかりと抱きとめて「だといいが」と笑った。
「この先、俺が果てる日までは共に」
見惚れるほど美しい微笑みを浮かべながらそんなことを言われたら、私の欲は留まるところを知らない。
「ダメ。来世までは一緒じゃなきゃイヤ」
サレオスは少しびっくりして目を瞬かせていたけれど、私がためらいなく笑みを向けると、同じようにふっと笑ってもう一度ぎゅっと強く抱きしめてくれた。
「では、どれだけ時が巡ろうとマリーだけを愛そう。約束する」
そしてまた、長い口づけをくれた。




