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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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話が違う

挨拶も一通り終わった頃、すっかり存在を忘れ去っていたブランディーヌ王女が私たちの間に割り込んできた。今まではリュックさんに押さえつけられていたらしい。


カイム様は突然現れた巨乳美女にも動じず、外交用の笑みに一瞬で切り替えて声をかけた。


「これは西の国の王女様でしたか?一体、どうなさいました」


あれ、知り合いだったんだ。私がサレオスを見上げると、完全なる「無」になってしまっていた。クレちゃんは口元に手を添えて「あらあら」と他人事で王女様を眺めている。


「まぁぁ!覚えていてくださったんですのね!昨年パーティーでお会いしました、西の国の第三王女ブランディーヌですわ!」


おお、どこで会ったかまで説明してくれるブランディーヌ様、チュートリアル機能付きなのかしら!?


私は黙ってそのやりとりを見ているけれど、サレオスにさきほどから腰を抱かれて寄り添うように立っているのが気になって仕方ない。過剰接触でキュンが押し寄せていますよ!


私が悶えている前で、王女様は猛アピールを開始した。


「わたくし、サレオス殿下と縁組を希望しておりますの!どうか王太子様のお力添えをいただけませんか?西の国を挙げてトゥランとの国交に尽力いたします!」


「また勝手なことを……!」


サレオスが左手を額にあて、嫌そうな表情を浮かべる。

え、お兄様が許可しちゃったらどうなるの!?私は今さらながら、「この状況はマズイのでは」と焦りだす。隣のクレちゃんを見つめると、半眼でしらけた顔をしていた。


どうしよう、王女様に私が勝てる要素なんてひとつもない。サレオスのことを好きな気持ちでは誰にも負けないとは思うけれど、気持ちを計る機械なんてないからそんなもの何のアピールにもならないわ。


お願い、カイム様!王女様との縁組はしないって言って!


私は両手を合わせて拝むようにしてカイム様に念を送ってみた。隣でアマルティア様がものすごく嫌そうな顔をして王女様を睨んでいたのは、怖すぎるので見なかったことにする。


私の念が届いているのか届いていないのかはわからないけれど、カイム様はにっこり笑ったまま王女様に対して即座に返事をした。


「サレオスの相手は君には無理だよ!諦めてね!」


「「「……」」」


早っ!お断りするの早っ!?そこにいた全員が目を見開いてカイム様を凝視している。ところがあっけらかんとお断りを入れたカイム様は相変わらずにこにこしていて、あくまで軽い感じで話し続けた。


「縁談はいっぱい来るんだけどね~、兄として弟をみすみす不幸にはできないよね!だから君はダメだよー」


まるでいらないものを追い払うかのように、手のひらを左右に振るカイム様。その姿はわりと残酷ですよ!?


「弟が巨乳好きなら考えたけれど、ってそもそも爆乳すぎて逆にそそらない……ってサレオス、冗談だよ怖いよ?あ、それにさ」


話の途中なのに、なぜか私とばっちり目が合ってしまってドキリとする。


わ、私?


え、なに、胸?私もそれなりにある方だけれど、まさかサレオスは貧乳の方が好みだったの!?知らなかった!


どうしよう、今すぐ胸の肉を減らす方法を探さなきゃ……さらしを巻けばごまかせるかしら?


今ある肉を背中に移動させる!?シーナが「背中の肉は胸に移動できる」って言ってた気がする。それなら逆もありなんじゃない!?


私が必死で思考を巡らせていると、カイム様の目が一瞬だけ鋭く光ったような気がした。でもまたすぐに優しい笑みを浮かべて王女様に視線を戻し、はっきりと宣言する。


「サレオスが結婚する人は10年前から決まってるんだよね。あ、もう11年かな」


突然の爆弾発言に、その場の空気が凍りつく。


「兄上!話が違います!」


明るく話すカイム様に、私に寄り添っていたサレオスが再び詰め寄る。


そしてそのとき、周囲の空気が振動するほど魔力の圧を感じて私は思わずぎゅっと目を閉じた。


港にいた人たちも騒然となり、突風でも吹いた後のように一部の人がよろけたり物が落ちたりしている。


でも私にとったら、カイム様の言葉の方が遥かに衝撃的だった。


え?結婚する人が決まってる???


私は、事態が飲み込めずに瞬きだけを繰り返す。そんなこと一言も聞いてない……。ショックで頭がだんだんと重くなってきた。


「マリー様!しっかりして」


フラつく私をクレちゃんが優しく支えてくれる。あぶない、クレちゃんがいなかったらこの場で膝からがっくり崩れ落ちるところだったわ!


私と王女様が顔面蒼白で項垂れているのに、カイム様はサレオスに胸ぐらをつかまれながらも笑顔のままだ。


王女様が私に視線を向けつつ、ぼそっと呟く。


「そんなこと聞いておりませんわ……。マリー、あなた婚約者じゃなかったの?他にも何人かいるの?」


ああ、王女様が半泣きになってるわ。うん、わかる、私も泣きたい。今すぐ部屋にこもりたい。


「知りません」


王女様の前では私が婚約者ですってフリをしなきゃいけないんだろうけど、そんな余裕ない。つい知らないと口から出てしまった。


カイム様がいう「結婚する相手」って、それはもちろん婚約者ってことよね?それも10年も前から。


できることなら問い詰めたいし、婚約者について今すぐ聞きたいし、サレオスに私のことはやっぱり都合のいい女だったんだ的なことも言いたいけれど、この場ではそんな元気ない。


それに、カイム様は笑っていても王太子らしい圧をしっかり放っていて、私たちには発言も何もできそうにない強さがあるわ。


あぁ、アマルティア様はびっくりして固まっておられる。さっき従者がそっと握らせてくれた扇子をまた落としてるし、お口が開いてる!



「今生で一番の造形美と思いましたのに……!」


戦意喪失といった感じの王女様は、よろよろと足取りが危い。後ろに立っていたリュックさんは大きなため息をついた後、片手で乱暴に彼女を担ぎあげた。


「きゃあああ!」


「これは俺が西の国のやつらに届けておく。じゃあな!」


ピチピチのTシャツの筋肉おじさんに連れ去られる王女様、画がシュールすぎる。いくら自由人なイケメン好き王女でも、やっぱり王女なんだからあの扱いの軽さはどうかと思うんだけれど……?


私はしばらく彼らの後ろ姿を眺めていた。


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