その後
帰りの馬車の中では、サレオスによるお説教タイムが続いていた。
「マリー、相手の懐に入って敵意を消し去るのは問題ないとしても、さっきのはやりすぎだと思うんだ」
「はい……ごめんなさい」
えっと、なんかそれだと作戦を立ててわざとやってたみたいな感じだけれど、これは訂正した方がいいかしら?いやいや、でも「あなたのことが好きすぎて」ってことになっちゃうからそれはそれではっきり言いにくい。
「もしも相手がバカ……いや、あんな風に能天気じゃなかったらどうするんだ。マリーは何も捨て身で無理しなくてもいいんだ」
あれ、バカって言っちゃったよ!?しかも捨て身で無理してたことになってる!純粋に、本能で楽しんでただけだから!あああ、でもこれも言えないぃぃぃ!
私はサレオスと目を合わせることができず、気まずい雰囲気になってしまう。
そう、そうよ。気まずいのよ。
だって……
なんで膝の上に乗せられてるのかしら!?怒られてるのよね私!?
「どうした?」
どうしたもこうしたもあるかー!なんでこんなことになってるの!?馬車に乗り込んで、今度はおとなしく隣に座ろうと思ってたのに、すっごくきれいに足払いされましたよ!心臓に悪いからやめてほしい。
「これは……卑怯だと思うの」
こんな風に過剰接触されたら、うまく会話なんてできるわけないでしょう!?
「卑怯、とは?これくらいは慣れてもらわなければ」
ぎゅっと強く捕まれた肩がもう発火しそうなのよ!においが、好きな人のにおいがするんだもの……慣れるわけないでしょう!?襲われても文句言えないからね!?あなたのその余裕は、私が我慢してるからなのよ!
「嫌なのか」
ぐはっ!その突然にしゅんとするのはやめて!あああ、犬みたいな耳が見える……かわいすぎる!
ちっとも嫌じゃありません、むしろありがとうございますですよ!どうしよう、言えないことが雪だるま式に増えているのはなぜなの。
私は動悸息切れを何とか抑えながら、もうやけっぱちで彼の胸に頭を預ける。
「この天然キュン殺し犯め……」
もうやめてー、指で私の髪をくるくるしないでー。あなた1回私のことを気絶させてますからね?もうお忘れですか、お忘れですね?
半泣きで見上げれば、私の反応を楽しんでいるのか小さく笑った後でゆっくりと唇が重ねられた。
「んんっ……!?」
ひぃぃぃ!またもや私は流されてますよー!
だいたいルレオードでの牽制とかさっきの王女様除けとか、そういうので過剰接触なのはまだわかるわ。
でも今は二人きりなんだし、誰にも見せつける必要はないんだし……恋人や婚約者のふりをする必要なんてないじゃない。
私のことちょっとは好いてくれてるんだろうけれど、なんだか過剰接触がエスカレートしていっている気がするし、このままズルズルと曖昧な関係が続くのかと思うと切ない。
「キスするなら責任取って婚約して!」って言ってみる!?もう言ってもいいんじゃないかなー。
あぁ、現実逃避している間にもキスは続く。頭の中でこんな葛藤をしているとも知らずに、少し顔を離したサレオスは真っ赤な顔で狼狽えている私を見て優しい目を向けている。
「マリー?」
「……」
い、言えない。婚約してなんて自分からは言えない。それに10年待つ覚悟ならしてる。……でもこんな曖昧な関係はイヤ!
もやもやが限界値に達した私は、サレオスに向かってきっぱりと宣言した。
「もう、キスはしません!」
「……え?」
それから寮に着くまでの間、私は断固拒否する姿勢を貫いた。膝からは下ろしてもらえなかったけれど、キスは断固拒否して唇を手でガードして塞いだわ。
でも、何もないのは淋しいと気づくのは意外に早く、こんな宣言するんじゃなかったと後悔したのは言うまでもない。
 




