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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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進路の話をしよう

みんなの恋模様が微妙に変化する中、それでも季節は進んで5月になった。私は朝から先生に呼び出され、生徒指導室にいる。サレオスが一緒に行こうかと言ってくれたけれど、さすがにそれは遠慮した。


「本当についていかなくて大丈夫なのか」


どうしよう、お母さん化がやばい。私のこと娘だと思ってる?クラスメイトの付き添いで三者面談って新しすぎるわよ。


結局、生徒指導室の前まで見送られ、せめて安心してもらおうと笑顔で手を振って別れた。今後、「私もしっかりしていますよ」アピールが必要だわ。賢者への相談案件がまた増えた。



進路といえば、すっかり忘れていたけれど、聖属性持ちの私は卒業後強制的に教会所属となることが決まっている。さっぱりすっかり忘れ去っていた。サレオスと結婚したいってことしか考えてなかったもの。


教会とは、正式名称はセレーネ教会といって女神信仰の団体を指す。

いずれの国にも属さず、治癒と慈善の精神で活動している組織なのだ。新興宗教のように胡散臭い団体ではなく、千年以上歴史があるという。


女神が降臨してつくりあげた教会だとかいう昔話はさておき、聖属性の回復魔法はその女神様によってもたらされた能力であるとされている。

だからこそ、出身の国に関わらず、15歳以上になると最低でも半年間は教会に所属して治癒活動に当たることが義務なのだ。


「私って、卒業したらすぐにどこかの教会に所属することになるんですか?」


今、目の前に座っている進路相談担当のジェシカ先生は、御年60歳のベテランおばちゃん先生だ。学園長の妻でもある。


ジェシカ先生もかつては聖女として、アガルタ王都にある第一教会で治癒活動を行っていたそうな。なんていうか、きれいな人なんだけれど威圧感がすごい。聖女というか恰幅のいい肝っ玉かあさん的な感じなのだ。


「そうねぇ、卒業後すぐじゃなくてもいいんだけれど、ご結婚の前に義務期間を終えておいた方がいいんじゃないかしら」


ジェシカ先生は、教会からの連絡事項が書かれた紙を見つめながら答えた。どうやら現状で空きのあるアガルタ国内の教会リストを見てくれているらしい。


教会の拠点はアガルタにも20カ所以上あり、外国にも100カ所ほどある。自分の国でもいいし、希望すれば遠い国の教会で働くこともできるという。とはいえ8割以上の人間が自分の出身地の教会に勤めるんだとか。


「マリーさんはまぁ、色々とお噂はあるけれどどうなさるおつもりなの?」


好奇心ではなく、心配そうに私の結婚について尋ねるジェシカ先生。ただ、どうなさるおつもりかと問われても現状何も決まっていないしどうしようもない。先生の説明によると、もしもフレデリック様の正妃になるのであれば特例として聖女としての義務はなくなるんだとか。王族との結婚に限ってはそういう扱いだと決まっているらしい。


しかし私はきっぱりと言い切った。


「その可能性は絶対にありません」


「……そうなのね」


ジェシカ先生は苦笑いでその話題を終えた。


「ご希望はアガルタ国内で、この王都でいいの?それともテルフォード領のお邸から通えるところにする?」


「あの……できればトゥランのルレオードに行きたいです」


この一言で私がサレオスのお嫁さんになりたいことがバレただろうけれど、隠してもいられないわ。


「ルレオードねぇ。欠員があれば別だけど……ちょっと来年はむずかしいかもしれないわね」


優秀な人なら勤務先は選び放題だけど、私の場合は低級の回復魔法しか使えないから、アガルタ国内にしか受け入れ先がないかもしれないと言われてしまった。つまり、ルレオードでは受け入れてもらえない可能性が高い。


「ここなんだけどね、ルレオードでは人手が足りてるみたいなのよ」


ジェシカ先生はそういって、ルレオードのリストを見せてくれた。残念ながら特に人員募集の印は入っていなかった。


「トゥランの人と結婚するのが決まってればよかったんだけどねー」


私の気持ちがわかっているのか、ジェシカ先生が残念そうに言う。トゥランの人という表現で、あえてサレオスの名前を出さないところに優しさを感じるわ。


あぁ、このままじゃ離れ離れになっちゃう。サレオスが結婚する気になるまで10年は待つつもりだったけれど、思わぬところでつまずいた。抱きついたはずみで一体化できる裏技とか黒魔術とか、どこかにそういうのないかしら。

沈黙して妄想の世界に浸る私に、ジェシカ先生は優しくアドバイスをくれる。


「マリーさん、お相手にご相談してみたらどうかしら?婚約だけでも早めに結んでもらう、それだけでもトゥランの教会に所属できる可能性はぐんと上がるわよ?」


あぁもう、おもいっきり婚約してもらいなさいと諭されているわ。でも先生は知らない、私と彼の間にそんな話が一度も出ていないことを。政略結婚の場合は女性側から婚約を打診することはめずらしくもなんともないけれど、隣国の王子様に婚約を申し込むならアガルタの国王陛下の許可がいる。


お父様がまず許してくれないだろうけれど、それ以上に色々絡むことがわかっているからすんなり許可がもらえるとも思わない。


それに……断られたらその場で絶対吐く。そして気絶する。もう学校に来られない!ううっ、告白する前に、国家経由でお断りされたら目も当てられない。


だめ、絶対こっちからは申し込めない!



あれこれ思い悩んだ挙句、私はダメもとで呟いてみた。


「……結婚します」


先生は目を見開いて、前のめりになり尋ねる。


「え!誰と!?」


「クレちゃんがトゥランの王弟様と結婚してルレオードに……!」


「はい?」


「クレちゃんが、王弟様と」


「いや、ダメだから自分じゃないと。え、あなたついていくつもりなの?」


クレちゃんは入学早々、その類まれなる火魔法で魔道士団に青田買いされていたけれど、結婚するからといってすでに辞退を申告している。


「うっ……!私はクレアーナさんとどこまでも一緒なんです」


顔を両手で覆って俯く私に、先生はちょっと呆れている。うん、小娘のたわごととお思いですね!?


「マリーさん、ご家族としっかり相談して6月までに出してちょうだい」


こうして私は進路希望届を握らされ、生徒指導室から解放された。というより、突き放された。ぐすん、クレちゃんについていきたいのは本気なのに。


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