告白
「ジニー先生!」
シーナが恋する乙女モードで話しかけると、ぼおっとしていたジニー先生が顔を上げた。
「あぁ、シーナさんか……どうしたの、今日は」
なんだか声が落ち込んでいる。
「ふふっお友達と一緒に来たんだけど、先生を見つけたから会いたくて来ちゃった」
おおっ、リアルに「来ちゃった」が出たよ!これは美少女に言われると嬉しい……と思うのにジニー先生は特に反応なし。THE愛想笑いを浮かべるだけで、キュンときた様子はない。でもシーナ的にはそんなことは気にも留めず、ジニー先生の隣にさっと座った。
「先生こそ、どうしたんですか?」
いつもよりかわいい感じでシーナが話しかける。銀色の瞳からハートや星が飛んでいるように見えるのはきっと気のせいじゃないわ。ヒロインだもの、目からキラキラくらい出せるはず。
でも相変わらずテンション低めのジニー先生は俯いていて、シーナの方を見ようともしない。
「恋人と来たんだけどね……」
そんなセリフを落ち込んだ声で言われると、もうこれはフラれた感じしかしないわ!私はエリーの腕をぎゅっとつかんで、二人の様子を観察した。
「それってローザ先生?」
シーナの言葉に、ぎょっと目を見開くジニー先生。
「どうしてそれを……?」
あ、そっか、私とサレオスに逢引場面を見られてたってことに気づいていないものね。それは驚くはずよ。
シーナは少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。
「お友達が見ちゃったらしくて、二人がいるところ。でも誰にも言ってないわ」
「そう……迂闊だったな」
それからしばらく沈黙が続き、ジニー先生は俯いたまま負のオーラを放っていた。そんな先生を見たシーナが、両手をぎゅっと握りしめて真剣な顔で先生に話しかけた。
「先生、フラれちゃったの?」
ジニー先生は一瞬驚いた顔をして、そしてすぐに苦笑した。
「そうだよ、もっとおもしろみのある男の方がいいらしい。僕は真剣に結婚を申し込んだんだけど、やっぱり僕じゃ満足できないみたいだ」
「そんな……」
「最初からわかってたことなんだけどね。僕みたいなタイプは彼女とは合わない。彼女が遊びだってことも最初から知ってたさ。情けないだろう、たかが恋愛でこんなに落ち込むなんてね」
シーナがウルウルした瞳で先生を見つめ、隣に座ったまま先生の手をぎゅっと両手で包み込んだ。そして……
「私なら先生のこと好きです!遊びじゃなく、本気で先生が好きなんです!だから、私と結婚しませんか?」
言ったぁぁぁ!失恋後に美女ヒロインからの求婚!
私がますますエリーの腕をつかむ力を強める中、シーナはさらに猛烈な告白を重ねる。
「ね、先生。先生は情けなくなんてありません、私が家庭の事情でバイトをしていることもみんなに言わないでくれたし、奨学金のことも手を尽くしてくれて……私は先生のこと頼りにしています。いつも優しくて、本当に大好きなんです!私だったらジニー先生のそばを離れたりしません!」
おおお、熱烈だわ!美女に涙目でこんなに告白されたら、さすがにジニー先生も堕ちるでしょう!?
「シーナさん、でも君は生徒で……」
「先生、わかってます。でも私、諦めたくないんです。好きだから!」
はわわわわ、私も美女に告白されたい~!ってそうじゃない。ベンチで見つめ合う二人は、シーナがきらきらオーラを放っているせいかとても絵になっていた。どうか先生がシーナの気持ちを受け入れてくれますように、私は両手を顔の前で組んで一生懸命祈った。
ジニー先生は、シーナに手を握られたまましばらく放心していた。
「シーナさん……」
「ジニー先生……」
おおっ?なんかいい雰囲気?
ドキドキして見守っていると、ジニー先生がまさかの一言を放った。
「ありがとう……!諦めない、好きだから」
「は?」
「そうだね、こんなことで諦めてどうする。僕はもう一度彼女に気持ちを伝えてみるよ!今度はぐちゃぐちゃ悩まずに、ただ好きだって気持ちを彼女にぶつけてみる!」
「はぃ?」
どうしよう。シーナを転生させた神様も恋愛ハードモードだったらしい。私とエリーは、呆気にとられるシーナを何とも言えない苦い表情で見守った。え、こんなときどうやって慰めたらいいの!?
シーナが脱力してジニー先生の手を離すと、すぐに先生は立ち上がった。
「ありがとうシーナさん!今からもう一度、行ってくるよ!」
振り切ったような満面の笑みで駆けていく先生は、まるで少年のようだったわ……。ベンチに一人残されたシーナは、立ち上がれずに目を見開いてその背中をただただ見つめていた。私たちもその場に立ち尽くして、お祭りの喧騒の中でじっとオブジェのように固まっている。
そして10分以上は経っただろう、シーナはようやく脳が復旧したのかものすごく大きな声で叫び声をあげた。
「嘘でしょぉぉぉ!!!!!」
この世界はヒロインにさえ厳しいらしい。私はシーナにそっと歩み寄り、背中を撫でて無言で慰めた。




