長期戦らしい
入学式が無事終わり、午後には私たち二年生のクラス発表とホームルームが行われる。成績順のクラス分けだから相変わらず私たちはAクラス、ジュールはEクラスのままだった。そしてヴィーくんは私のおまけとして成績に関わらずAクラスで残留だ。
ルレオードで出会ったアリーチェさん達は、留学ということもあり一年生として入学している。この後のお茶会で会う約束をしているから楽しみだわ!ちなみに髪の毛の硬いロッセラさんは、侯爵家の跡取りさんと婚約が決まって留学できなくなってしまった。「淋しいけれど、いい嫁ぎ先が見つかったから幸せになれるようにがんばる」と手紙に書いてあったわ。
ホームルームが始まり、あまり新学期感もないまま授業に突入した。私はサレオスとクレちゃんの間に座り、二年生の滑り出しは順調かと思われた。でも、平穏だったのは午前中の二時間だけで、三時間目の魔法理論で衝撃のあまり固まることになった。
A・Bクラス合同の基礎授業だけあって生徒は60名ほどいて、先生が教室に入ってきた瞬間、女子の歓声というか悲鳴が響く。
「「「きゃぁぁぁ!!」」」
なんと現れた先生は、卒業したばかりのアリソンだった。私は唖然とし、目がカピカピになるんじゃないかと思うほど瞬きを忘れてその姿に見入ってしまう。
「え、そっくりさん?」
クレちゃんに話しかけると、「それだけはない」とあっさり言われてしまった。ですよね、そうですよね~。
女子の悲鳴がようやく落ち着いた頃、爽やかな笑顔でアリソンは挨拶をした。
「魔法理論を担当するアリソン・ノルフェルトです。この春から、研究講師として勤めることになりました!わからないことがあれば何でも聞いてくださいね」
この学園の先生には、専任講師と研究講師という二種類が存在し、ジニー先生のような専任講師は日本でいう一般的な教員。生徒の面倒もみてくれるのだ。
対して研究講師は、自分の専門分野の研究を主としてごく少ない授業を受け持つ特別講師みたいなもの。変わった人が多く、バロン先生がその例だろう。ということで、アリソンは何らかの研究をしながら講師もするという立場になる。
アリソンとは、卒業パーティーの日から一度だけ手紙のやりとりをした。求婚はお父様から保留という名のお断りをしたものの、私自身がごめんなさいという意思表示をしたかったから。
返事はすぐに来て、私が倒れたことを心配してくれて、求婚に関しては諦めるつもりはないと書かれていた。でも、先生になるなんて一言も聞いてないわ!
今後は舞踏会や夜会以外で会うことはないだろうなと思っていたのに、まさかの再会となってしまった。
しかも魔法理論は必須科目、絶対に逃げられない。そういえば図書室で教えてもらったのもこの科目だったわ!
それにしても女子がざわざわきゃあきゃあしていて、イケメン講師への期待度がものすごい。教室が熱気で溢れていて、出席率が跳ね上がりそうな予感しかしない。そして私の前に座るシーナが、口元を手で押さえながら「推しが……推しが先生とか……ごふっ」とずっと呟いている。ここにも信者がいたわ!
「か、課金させて……!この溢れる喜びを表現させて!」
シーナ、現実世界に課金するってそれはもう貢いでるだけよ。先生に貢ぐ生徒はダメだわ。
「ねぇシーナ、そんなに萌えるのに好きにはならないの?」
私はこっそり聞いてみる。
「ふっ、マリーはまだまだお子様ね。近づいたらそれはもう違うの。そっと見守りたい、彼の肥料になりたい。もはや生き別れの母の気分」
……よくわからない。
ちらりと隣のサレオスを見ると、シーナの発言に困惑していた。まぁ、安定の無表情なんだけどオーラで何となくわかる。
とりあえず黙って授業を受けようと正面を向くと、クレちゃんが私にこっそりと耳打ちしてきた。
「長期戦でって言われたのは、こういうこと?」
はっ!そういえば先輩そんなこと言ってた!私がクレちゃんに話したことなのに、本人より覚えているなんてさすがは賢者だわ。
卒業したけど、学園には居続けるのね?だから長期戦でいくって言ったのね?え、先生が生徒にアプローチしたらダメじゃないの!?どうなってるんだろう、学園のルール的には。
困惑していると、キラキラオーラを放っているアリソン先生と目が合った。そして、にっこり微笑まれた……気がする。でも私は「視力悪いんです設定」を記憶の奥底から引っ張り出して、どうにかやり過ごす。
「週に一度の授業だし、接点なんてあまりないわよね」
私がそういうと、隣でクレちゃんが苦笑した。
「マリー様、補習とか大丈夫?こないだスレスレだったわよね」
はっ!?そうだった!私ったら魔法理論が暗礁に乗り上げたせいで、合格点スレスレだったんだわ。基礎三科目の成績はトップ維持できたけれど、魔法理論が入った総合順位は5位まで落ちちゃったんだ。やばい、補習とかは絶対に避けたい。
こうして私は全力で授業に挑むことになってしまった。




