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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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その頃、学園では

マリーとサレオスが王都をゆっくりと散歩している頃、休日の学園にはジュールとアイーダの姿があった。


教室に二人きり、アイーダが恋愛モードに絶叫しても仕方のない状況だったが、今の二人に甘い空気は微塵もない。


「ジュール様、この必須科目を落とすとさすがに留年しかねませんわ!」


教科書を片手に、悲しそうに目を細めるアイーダは制服の袖がインクだらけになっていてとても伯爵令嬢には見えない。しかし本人はジュールのために試験対策マニュアルを作ることに忙しく、そんなことに構っている余裕はなかった。


(留年なんてしたら結婚どころじゃなくなってしまいますわ!)


目の前で額に手をやり、眉間に深いシワを寄せているジュールは机と一体化するのではと心配になるほどノートに顔が近い。


「アイーダ、これはどう考えても無理だ。俺には文武両道という文字はない……!」


切なげに視線を寄越すジュールに一瞬どきりとしながらも、アイーダは心を鬼どころか魔王にするほど気合を入れて厳しい言葉を放つ。


「そそそそそそんなカッコイイ顔で言っても弱音は弱音ですわ!戦にも夜討ち朝駆けが有効なように、勉強もそれだけ奮起すれば何とかなります!」


「それどっちも奇襲だぞ?勉強に奇襲なんてあるのか」


「そこは流してくださいませ!こんなことじゃ、マリー様が来られた時に笑われますわよ!?」


アイーダの説得に、ジュールは苦笑した。


「あぁ~それはちょっと嫌だ。テル嬢にあの含み笑いでバカにされるのは癪だ」


観念したように教科書をペラペラめくるが、どうにも自国の文字とは思えないほど理解不能だった。すぐにため息をつくジュールだったが、隣に座るアイーダの袖が汚れているのを見てどうにか逃走を思い留まる。


「マリー様……今ごろお幸せかしら」


窓の外に揺れる新緑の木々を見つめ、アイーダはマリーのことを考えた。


(あぁ、一緒に暮らすなんて新婚ではないですか!いけませんわ、妄想でペンが走ってしまう……!早く、早くマリー様から新しいキュンについて聞きたい)


そよそよと心地よい風が入り、ついジュールまでが窓の外を眺める。


「テル嬢のことだからまたわけわかんねぇ呻き声上げて喜んでんじゃね?だいたいサレオスのヤツもなんで求婚も婚約もしてねぇのに、他の男に先駆けて囲ってんだよな。あいつら何かおかしくね?」


「ぐっ……で、でも素敵ですわ!愛情表現は多様ですのよジュール様」


教科書を抱きしめて熱弁するアイーダを見て、ジュールは理解できないという表情を浮かべる。


「多様ねぇ」


「そうですわ!」


教科書に視線を落とし、続けてアイーダの袖に目をやるジュールはまるで世間話でもするように尋ねる。


「なぁ、じゃあその作ってくれたノートもその汚ねぇ袖も愛情表現てやつなのか?」


「んなっ!?」


あまりに直球かつ空気を読まない発言に、アイーダは一瞬で赤面しわなわなと震えだした。


「き、汚ねぇ袖ってひどいですわ!」


「じゃあなんていえばいいんだ、薄汚れた袖、か?」


「ジュール様!まったく変わってませんわ!」


教科書とノートをバサッと机の上に放出し、両手で顔を覆ってうなだれるアイーダは恋とはなんと残酷なものなのかとため息を漏らす。


そんなアイーダの姿を見て、言ってはいけないことを何か言ったらしいと漠然と思うジュール。思ったことを口にするだけの男に、気遣いというフィルターは存在しなかった。


「アイーダ、飯食ってから続きの勉強しねぇ?」


とにかくこんなときは飯だ、脳筋はそこに行き着いた。普通の令嬢ならこのまま怒って帰っただろうが、そんな感性はアイーダにない。誘いを受けるとスッと顔を上げ、間髪入れずに「そうします」と返事をした。


食いしん坊たちの恋は前途多難、なのかそうでないのかこの先も続く


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