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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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謝罪はお早めに

サレオス観察日記を本人に見られてしまったショックで私は寮に帰ろうとするも、裏口につながる廊下でイリスさんに捕獲されてしまった。ヴィーくんも一緒だから大丈夫ですって言ったけれど、「お父様が折れて迎えに来るまではいてください!」と力いっぱいお願いされて、帰宅を断念。


私のために用意された部屋に戻る途中、イリスさんが優しい顔で、でも残虐性あふれる言葉を放った。


「大丈夫ですよ、マリー様。あれは二冊目だったし……一冊目の中盤は正直言ってエグかったですけど、きっとサレオス様だってそんなに気にしてませんよ」


え、今なんていった?一冊目の中盤は、って一冊目から見てたの!?

衝撃的過ぎるカミングアウトに顔を真っ赤にして俯いてしまった。エグイって、好きな人の従者にエグイって言われた……。ただの観察日記のはずなのに、ちょっと妄想と願望を付け足しただけなのに。


よし、一冊目も二冊目も燃やそう。そうしよう!


部屋に戻った私はすぐに暖炉をつけ、サレオス観察日記を読み返しながら……途中で炎に投げ入れた。

うん、これ絶対に後世に残しちゃダメなやつだ!!!一冊目が見られなかっただけ助かったわ。


「ねぇ、私がサレオスのこと好きだってバレた?バレてないよね?」


「……」


エリーもリサも、ヴィーくんも、誰も私の問いに答えてはくれなかった。


あぁもうここから逃げたい、隠れたい。出入口がどこも使えないとなればあとは……私の視線は窓へと向かう。

窓からシーツを繋げて、それを伝って降りるという技を小説で読んだことを思い出したけれど、窓の外を見てすぐに非現実的だと気づいてしまう。


うん、これ絶対に無理、4階は無理。公館や貴族の邸にあるシーツなんて肌触りが良すぎて絶対に足がひっかからないわ!

諦めて、その後はおとなしく夕食までふて寝した。


夕食の後、サレオスの部屋に呼ばれた私は菓子折りを持ってお邪魔した。ここには、テルフォード家のロゴ入りパウンドケーキが入っている。


でもサレオスは私の菓子折りには何も突っ込まず、ソファーで隣に座るように言ってくれた。


「こら、床を見るな。座らせないからな、そんなところに」


床に座って土下座する気満々だったことはバレていたらしい。なぜかサレオスの方が焦っていた。


「こっちに座ってマリー」


私は指示通りにソファーで彼の隣に座るけれど、心なしか少し離れた位置に陣取ってしまい、距離を詰められれば少し離れ、また詰められて離れを三度繰り返してとうとう端っこに来てしまった。


イリスさんはそんな私に生温かい目を向けた後、菓子折りを持って部屋を出てしまう。撤去された感がすごい。

あれ、そもそも謝りたいのに隣に座るっておかしくない?ちらっとサレオスを見てみると、なぜか彼の方が申し訳なさそうにしていた。


私は意を決して謝罪の言葉を口にする。


「この度はいらぬものを書き綴りまして大変申し訳ありませんでした」


気分は土下座しているが、肘置きとサレオスに挟まれている状態なのでほぼ身動きは取れない。


サレオスは少しの間を開けて、私の名前を呼んだ。


「マリー」


「はい」


「放っておいてすまなかった」


え?なんでサレオスが謝るの?びっくりして隣を見上げた。


「俺が放っておいたから、淋しい思いをしていたんだろう。あんな訳のわからないものを書くほどに」


いやぁぁぁ!訳のわからないものって言われた!なんだろう、間違ってはいないけれど地味に傷つく。訳のわからないものなんかじゃないわ、気持ち悪いストーカーの産物なのよ。


「えっと、あれはその、思ったことをただ書いていただけなので、サレオスが謝るようなことでは……」


うん、あなた、ただのストーカー被害者だからね?

はっ、しまった。思ってたことを書いたって言ったら私の変態性が……あああ、もうノート燃やしても記憶も燃やさなきゃ意味ないじゃない!


「勝手に連れてきておきながら放っておいたのは俺だ。マリーが何も言わずに笑顔でいたから、それに甘えてしまった」


ひぃぃぃ!サレオスを見てニヤニヤしていたのもバレてる!!違うんですよー、私はただ嬉しかったんですよー。私とお母様は適応能力が高めだから、慣れない環境でもすぐ楽しめるのに。


恥ずかしすぎて、私は顔が真っ赤になっている。それなのにサレオスの攻撃は止まらない。


「万年筆になりたいなど……人をやめたくなるほどつらかったんだろう?」


ちがーう!


「自分が情けない。マリーがじっと見ていたのはわかってたのに、我慢してたことに気づいてやれなかったとは……」


()ってー!もうひと思いに()ってください!じっと見てたのも気づいてたのね!?何も我慢してないし、むしろ真剣な顔が見放題で喜んでたわ。

何この恥の上塗りエンドレスな香り。

どうしようもなく羞恥心がこみ上げてきて、私は両手で顔を覆って悶えた。


すると、それに気づいたサレオスがいきなり私の両手首をつかむ。


「泣いてるのか?」


まったく泣いてません!私はフルフルと首を横に振って否定した。あんなもの見られて心は号泣していますが、物理的には泣いてませんよ!


「泣いてません、それに放っておかれてなんていないわ!ずっと一緒にいてくれたじゃない!」


少しほっとした表情を見せたサレオスは、そのまま私をぐいっと引き寄せて抱きしめた。


「明日はちゃんと一緒にいられるようにするから、だから許してくれないか」


うきゃぁぁぁ!イケボが耳に直撃する!しかも何か全然違う解釈になってる!許してくれも何も、あなた何も悪いことしてません。


しかも根本的に間違ってるのは、私が淋しすぎておかしくなってあんなもの書いたと思われてることよ!どうしよう、「あれは私の平常です」って言っていいの?それはそれで頭がおかしいんだと思われる……。恋する乙女はみんな頭がおかしいのよきっと。


ううっ、抱き締められてキュンだけど、それ以上の申し訳なさでいっぱいだわ!しかもおでこに優しくキスされて、「ひぐっ」って謎の悲鳴が極小で漏れた。いやぁぁぁ!甘やかされてるー!死ぬっ、好きすぎて無理無理無理!


もう何が原因でドキドキしているのかわからない状態のまま、しばらく抱きしめられたまま時間だけが経過した。なんだろう、もうすべてを闇に葬ってしまいたい。そうだ、忘れよう!忘れるのよマリー!


そう決意した瞬間、扉をノックする音がして、しかもサレオスは普通に返事をして入室を許可してしまった。抱き締められたままの私は慌てて逃げようとするけれど、逆にぎゅっと強く力を込められてまったく逃げられない!


入室してきたメイドさんが一瞬固まるのが分かった、空気で。

そりゃそうだわ、婚約者でもない私を抱きしめてる上に、ノックされて返事しちゃったんだもの。「もう何も見ない、私は知らない」と無になって彼の腕の中で静止した。


メイドさんは、珈琲の入ったポットやカップが乗ったカートを置くとすぐに下がっていった。それはもう凄まじい速さで。え、なに、これもルレオードの延長戦なの?キュンキュンしてたのは私だけなの?マズイ、頭が混乱してきた。


それからすぐにやってきたイリスさんによりサレオスは私から引き剥がされ、まだまだ残っているというお仕事を片付けることになった。自分の部屋に戻ろうとすると、イリスさんに珈琲やお茶菓子を勧められてしまい「マリー様がここにいないと心配で仕事が捗らないみたいなんで」と引き止められた。


も、もしや私がいない間にまた観察日記をつけられているかもと心配しているのでは……。サレオスに与えてしまった心労は大きいみたいだった。


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