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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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どこにでも裏技はある

サレオスによって見張られるように寮に着いた私は、自分の部屋で彼からお説教を受けることになった。いつものごとく、エリーはどこか遠くを見ていて助けてくれない。


リサは淡々とお茶を用意して部屋の隅で待機している。が、黒髪の王子様があまりに怒りのオーラを放っているので、エリーもリサも揃って部屋を出て行ってしまった。こらこらこら!婚約者でもない男女を二人きりにしちゃいけませんよ!?


サレオスの名誉のために言っておくと、別に怒鳴っているわけでも暴れているわけでもない。彼は何もしていない、そう何も。サイレントお説教である。ただ座っているだけなのに、無言の圧がすごい。


私は制服のままソファーに座り、正面のサレオスから放たれる怒りの圧にひたすら耐えていた。

え、そもそもなんでこんなに怒られているの?私また何かやらかしたのかしら……。


長い長い沈黙の後、サレオスが大きなため息をついてようやく声を発してくれた。


「マリー。なぜいきなり魔力量を上げようと思った」


あぁ、いきなり答えにくい質問から来た。まさか「あなたのお嫁さんになりたくて」とは言えない。役に立つ女になって手放せないと思われたかったとか下心満載すぎる理由が恨めしい……。

サレオスはいつまでも答えない私に、呆れたように話を続ける。


「何事も計画とか準備とかあるだろう、マリーのやることはいつも無謀すぎる」


うっ!それを言われると反論できない!私は俯いたまま、何も言い返すことができなかった。


「いくら練習とはいえ、あんな猛獣みたいなやつらがいるところに行くなんて警戒心がないにもほどがある。何かあったらどうするつもりなんだ」


ものすごい言われようだわ!サレオスの中でE・Fクラスの脳筋アホっ子ちゃんたちに対する認識がやばい。美人騎士もいたよ!?


私は俯きながらぼそっと呟いた。


「ヴィーくんがいたから大丈夫だったもん」


するとサレオスはきっぱりと言い放った。


「ヴィンセントに完璧な護衛は無理だ」


えええ……確かにアサシンだけど、学園内でヴィーくんを害せるほどの変質者は出ないよ!?ここにきて心配性と過保護を総動員なサレオスは、私が反省していないからかまだまだお怒りである。


「そもそも毎日魔法を使ったとしても、現状の一割が上がればいいところでほとんど意味なんてないんだ」


「ええ!?」


私はサレオスの言葉に目を見開いた。バロン先生は少しは上がるみたいな感じで話していたけれど、まさかそんなに少ないとは思わなかった!この世界には地道なレベル上げって存在しないのね?生まれ持っての才能がモノをいうのね!?


「日頃の訓練というのは、魔法を発動する速さや判断力をつけるためにやるんだ。魔力量を上げるためではない。だからマリーがやっていることは効率が悪い、というかほとんどムダだ」


ぐうっ!さっきから繰り出されている「ほとんど意味がない」「ほとんどムダ」というダブルパンチでマリーは瀕死ですよ!あああ、でもこういう現実を突きつける残虐性も好き!

はっ!そんなこと言っている場合じゃなかった。魔力量を上げてお嫁さんに近づくという完璧な計画が崩壊の危機だわ。


「それじゃあ、私はもう魔力量を増やすことはできないの?」


このままじゃいつまで経っても待機メンバーのままだわ。手放せない女には到底なれない。私の疑問にサレオスは少し躊躇いながらも別の策を教えてくれた。

それは、膨大な魔力を持つサレオスが私に魔力を流しこんで強制的に引き上げるというものだった。


「この方法だと、現状の二割から五割くらいは増やせるだろう。これまでにうちの兵で試した結果がだいたいそうだった。ただリスクがあって、マリーは二、三日起き上がれないと思う」


サレオスは説明してくれるものの、あまりやってもらいたくないという雰囲気を出している。私は起き上がれないという言葉に反応して、不安を口にした。


「起き上がれないってどんな感じ?全身筋肉痛みたいになるの?」


サレオスは少し考えた後、兵の人たちの状態を教えてくれた。


「痛みはないが熱が出て怠さが続く、という者が多かった。命に別状はまったくないが、楽なことでもない」


う~ん、さすがに全身が痛くてのたうち回るぞなんて言われたらためらうけれど、それなら大丈夫かも。でもそのせいでサレオスに何かあったらと思うと心配だわ。


「サレオスの寿命に影響は?つらかったり、痛かったりは?」


私の問いかけに、彼は静かに首を振った。


「ない。俺はただ自分の魔力を流し込んで、マリーの中にある魔力の格納庫みたいな場所を広げるだけだ。どうにかなったりしない」


それなら大丈夫ね!私はサレオスに、その策を実行して欲しいとお願いした。


「それってどうやってやるの?」


私にもできるような簡単なことかしら。不安に思っていると、サレオスは無言で立ち上がり私の前にやってきて膝をついた。


「手のひらを重ねて魔力を流し込む。以前やった、魔力の調整と似たようなものだ。あとは」


手を前に出そうとすると、続きがあるようで彼は少しだけ間をあけて笑った。


「口から流し込むこともできる」


「なっ……!?そ、それはどういう!?」


目を見開いて顔を赤くした私を見て、サレオスは意地悪い笑みを浮かべている。またもやこれはからかわれているわ!恥ずかしさと悔しさでわなわな震えていた私だったけれど、ふと大事なことに気がついた。


「サレオス……あなたコレを兵の人ともしたのよね?それは一体どちらの方法で」


「おい、それだけは想像するな。あるわけないだろ」


私の思いつきによって、目の前の王子様は少し口元を#痙攣__ひきつ__#らせた。そしてやや乱暴に私の両手をとると、互いの手を重ねて準備完了である。しまった、また機嫌が悪くなってしまったかもしれない。


「ちょっと言ってみただけよ?」


「……はじめるぞ」


もうこの話は終わりだと言わんばかりに、言い終わる前から少しずつ魔力を流し込み始める。よほど地雷だったらしい。

手を重ねてからすぐにあったかい感じがして、手のひらから何かぬるっとしたものが入ってくる感覚に襲われた。でも違和感は最初のうちだけで、すぐにただ温かい風が送り込まれるような心地よさに変わる。


「マリーは、なぜそんなに魔力量を上げたがる?」


重ねた手を見つめながら、サレオスが尋ねた。私は少し言葉に詰まったものの、素直に本心を言ってみた。


「役に立ちたいから(あなた限定で)」


サレオスはまだ怒っているのか、少し不機嫌な声色で話す。


「それはまた偽善的な動機だな。誰かの役に立ってどうする?人のために力を使いたいとでも?」


うっ……バレてる!?役に立つ女になって、そばにいたいって下心がバレてる!?


「マリーは侯爵家の娘だ。したいことがあるなら誰かに頼めばいい。わざわざ自分で回復魔法を高める必要はない」


もっともなことを言われてしまい、私はしばらく何も言えなかった。


「……でも」


「でもじゃない」


厳しい!怒っているサレオス厳しい!目と目を合わせなくても、不機嫌さが伝わってきた。でも私にだって言い分はある。


「じゃあ、サレオスがケガしたら誰が助けてくれるの?」


「は?」


あぁ、何だか徐々に気持ちが悪くなってきた。お湯につかりすぎてのぼせたみたいな、顔や身体が暑くて頭がぼぉっとする感じ。視界が少しぼやけているのがわかる。


「私は……サレオスに何かあっても見ているだけ、なの?その場に誰もいなかった、ら……」


目の前がグラリと揺らぐ。あ、吐きそう、気持ち悪い。でもだめ!好きな人の前では絶対に吐けない、恋が終わる!吐くのだけはだめ!!

私はどうにかして耐えようと必死だった。うくっ……もう無理かもしれない。そんな私の状態を感じ取り、サレオスが顔を上げた。


「……マリー、そろそろ限界だな」


サレオスは流し込む魔力を少しずつ減らし始め、いつものように落ち着いた声で私を宥めた。


「俺はマリーに何かしてもらいたいなんて思ってない。だから無理はしないでくれ」


何だろう、気分が悪くなって、都合のいいことが聞こえているのかしら。瞼が重くて、もう目を開けていられない。


「い、色気がないらしくて。好みは人それぞれらしいんだけど」


「は?」


あぁ、今私は絶対に関係のないことを口走っている。なぜかジュールに言われた「色気がない」を思い出し、記憶から漏れたそれは口から勝手に零れ落ちていた。色んな記憶や思考が、ぐちゃぐちゃになって頭の中に湧いては消えていく。


「一緒に、いたくて……このままじゃ待機なの」


自分が何を言っているのかよくわからない。もう眠くて眠くて仕方がないわ。身体の中に熱が篭っているみたい。うん、もう寝よう。ぎゅっと閉じた瞼が重くて意識がすぐに遠ざかる。ソファーに座ったまま、ぐらりと身体が倒れかかったところをサレオスに抱きとめられた。


「どこにも行かないで」


その後どうなったかは覚えていない。目覚めるまでの数時間、私は汗だくになってうんうんと唸っていたらしい。



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