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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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役に立つ女になりたい

「ねぇ、クレちゃん。どうにかして魔力量を増やす方法はないかしら」


今は魔法の実習中で、私は広い運動場の端っこにいる。魔力量を上げるという目標のために、これまで取っていなかった授業に突如参加してみたのだ。


なぜいきなりそんなことを目標にしたかというと、昨日いとも簡単にジュールによって私のポジションが奪われかけてしまったことが理由だ。


今のままじゃ、あんな一ミリもかわいくない巨人にすらポジションを奪われてしまうわ!

どうにかしてスキルアップして、ポジション争いに勝ちたいのよ!


それに、あんなに優しいサレオスの役に立ちたい。ええ、普通の純真なヒロインであれば「世の中のために」って言うんでしょうけど、私はどこまでもサレオス一筋だから彼中心でやっていこうと決めています!


「ふふふ、マリー様ったらまたおかしなことを」


クレちゃんは、私の唐突な話にもとりあえず詳細を聞いてくれたわ。首をひねって、ちょっと考えさせてしまったけれど……。


「マリー様、魔力量を増やすのはなかなか難しいわよ?焦る気持ちはわからなくもないけれど」


私は現在、手のひらから魔力を出して白い光の線で五角形を描き、ただひたすらそれを維持するだけという地味な作業に励んでいる。


隣にいるクレちゃんは、赤くてほわほわした魔力の塊をお手玉のようにポイポイと投げているわ。もっとも、左手から出て右手に吸い込まれているので、お手玉のそれとは違うんだけれど。話ながらでも正確に魔力を制御できるクレちゃんとは違い、私はいつも精一杯で何気に余裕がない。


「私って今、フレデリック様からの求婚っていういわくつきでしょう?しかもお父様という障害もあるし、マイナスの方が悪目立ちしている状態だと思うの。きっとお嫁さんへの道のりは相当に遠いわ」


熱弁をふるう私に、クレちゃんは苦笑する。


「それに、卒業したらサレオスは国に帰っちゃうわけだし『マリーを連れて帰りたい!』って絶対に思ってもらいたいの。でも今のままじゃ……」


そう、ただ漠然と好きだと思っていたときはまだふわふわした状態だったの。でも目標が結婚になってしまえば、現状の不安しか見えなくなってしまって……!


「役に立つ女になれば、国に連れ帰りたいくらい好きになってもらえるかもしれないでしょ?」


私の完璧な計画に、クレちゃんは苦笑した。


「一席離れただけで遠いという人に、マリー様を連れて帰らないっていう選択肢はないと思うんだけど……まぁいいわ、それで?」


「前に話した異国のゲームなんだけれど、RPGってやつ。それみたいに、役立つスキルを身につければ一緒にいたいと思ってそばに置いてくれるんじゃないかと。例えばサレオスが勇者なら、ジュールは剣士、クレちゃんは黒魔道士、アイちゃんは薬師、シーナは踊り子みたいな感じで役割があると思うのよ」


「それならマリー様は白魔道士ですね。でもサレオス様は勇者ではないわ」


え?嘘、あんなかっこいいのに勇者じゃないの?まぁ、サレオスのジョブはいったん置いといて。

私は白魔道士担当のはずなのに、圧倒的スキル不足によって「もう薬師がいれば、弱っちぃ白魔道士いらなくね?」みたいな感じになってしまうと気づいたの。


前世では、妹が乙女ゲームをやっている間、私は地味にRPGのレベル上げをやっていた。そして、弱小キャラを弄んできたわ。ロクに育てもせずに放置して、今思えばなんてヒドイことをしたんだろうと反省する。


「このままでは……馬車や飛空挺を賑やかすだけのメンバーになってしまう!どこに行くにも一緒にいたいのに、スキル不足によって待機メンバーになってしまうわ」


「あら?でも妻はパーティーメンバーとは別枠なのでは?」


「そうなんだけど、まずはパーティーメンバーとして役に立つ女になってから、それからじっくり妻を目指す作戦なの」


ガチャなら課金されるキャラになりたい。そう、絶対に。私の目標を聞いて、クレちゃんはクスクスと笑っている。




サレオスはというと、遠くの方で戦闘真っ只中だ。秋頃からジュールが個人的に授業に乗り込んできて、サレオスに相手をしてほしいと頼んだらしい。A・Bクラスの授業なのに、Eクラスの彼が堂々といるのにみんなすっかり慣れている。


でもそうなるとEクラスの他の生徒までがやってきて、いつのまにか「サレオス対Eクラスの脳筋戦士たち」みたいになってしまったのだ。


「はぁ……かっこいい。地面に足がついていなくても、バク宙ってできるのね」


まるで宙に足場があるかのように、キレイに旋回して攻撃を避けるサレオスに見惚れてしまう。


「マリー様ったらそんなバカな、と言いたいところだけれどあれを見せられるとそう思うわ」


「そういえば叔父様って強いの?」


私は前から気になってたことを聞いてみた。あのほのぼの甘々イケメン叔父様が、人と戦うことなんてあるのかしら。


クレちゃんは何か思い出したようで、遠くの空を半眼で見つめた。


「ルレオードで街に出かけたとき、何人かの女が襲って来ようとしたけど、防御魔法でしっかりガードしつつ火・水の属性を混ぜ合わせて爆発物を一瞬にしてつくりあげてたわ。にっこり笑っていうの、元気でねって。あの女たちは単純なストーカーだったらしいから、よほど鬱憤が溜まってたんでしょうね」


おおっ、叔父様ったら猟奇的!


「そっか……手を出してない人たちも処理しなきゃだから大変だね叔父様」


汗流して戦うタイプじゃなさそうだけど、やはり王弟、サレオス並みの強さはあるのね。


私たちが話している間にも、Eクラスの脳筋生徒たちは次々に吹き飛ばされていく。


あぁ、ジュールが惜しいところまで斬り込んだけれど、呆気なく背後を取られて蹴りを入れられ、見えないくらい遠くまで吹っ飛んでいったわ。あれだけの威力で蹴ったはずなのに、サレオスはなんであんなにふわっと着地できるのかしら。


私もあんな風に強ければ戦闘員になれたけれど、残念ながら戦闘能力はゼロに近い。レヴィンに小型のバズーカというか銃もどきをお願いしたけれど、完成はいつになることやら……。


「ルレオードでダンさんから聞いたの。資源が豊かな分、トゥランは狙われやすい国だって。今は大丈夫だけれど、サレオスだっていつケガをするかわからないわ。どうにかして役に立つ能力を身に付けたいの!」


まずは役に立つ女になるのと意気込む私を、クレちゃんは相変わらず女神のように優しい笑みで私を見つめている。


「だからって無理に魔力量を上げると、色々と負担がかかるわよ?回復魔法を毎日使ったとしても、上がる量はそれほど多くないし」


「ええ?使いまくればどんどん上がるんじゃないの?」


まさかの残念なお知らせがクレちゃんから届けられた。


「あの~、それなんですけどねテルフォードさん」


「ぎゃあ!!!」


急に私の隣に現れたのは、影の薄さが神レベルのバロン先生だ。灰色の長髪をひとつに三つ編みにした初老の男性で、真っ黒なローブを着ていて見るからに怪しい。


でも国内きっての優秀な魔法使いだといい、サレオスもバロン先生の授業は受けたかったと言っていた。


「な、なんでしょう先生」


「あのですね~、魔法にも生まれ持っての能力というものがありましてね?」


「は、はい」


「努力すれば誰でも身につくというものではないんですよ、残念ながら。運動能力と同じでね?運動音痴がいくらがんばっても騎士にはなれないでしょう?剣を振るうことは誰にでもできますが、戦える者は少ない」


「うっ……!」


「あ、でもね?努力がムダだっていいたいわけじゃなくてねぇ。なんていうか、あなたなりの力の使い方を身につければいいんですよ?」


「私なりの?」


「はい。鍛錬を続けていれば、何か見つかりますよきっと」


バロン先生は、ニコニコと笑っている。私はしばらく考えた後、ふと疑問に思ったことを口にした。


「あの、バロン先生。鍛錬を重ねるには、やはり魔力量がいりますよね?」


「はい。それはそうですね」


「ならやっぱり、魔力量増やさないとスタートラインに立てなくないですか?」


「……いい感じのこと言ってごまかそうとしたんですが、バレました?テルフォードさんやっぱりちょっと賢いんですね。簡単には丸め込まれてくれませんでしたかぁ。こりゃ失敗したなぁ」


「ごまかそうとしたって何ですか!?先生がそんなこと言っていいんですか!?」


私はびっくりして詰め寄ったが、先生は楽しそうに笑っている。


「聖属性の魔力量が他の人より少ないのは、自然の摂理を乱さないためですよ。大きな目で見れば、死もまた必要ということですなぁ。まぁまぁ、無理してできないことをやるよりも、できることを伸ばすのも道ですよ!」


うわ~。できないことって、魔法向いてないって言っちゃったよこの先生。地味に傷ついたわ!


アプリ「パルシィ」にて漫画になりました!

藍川さくら先生によるコミカライズもどうかご覧ください!

挿絵(By みてみん)

毎週水曜日の更新です。

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